Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー戸川階段/あヴぁ階段/MikaTen(Rooftop2016年1月号)

音楽とノイズの未来は元気で明るい!

2016.01.04

 日本が世界に誇るノイズ・バンド、非常階段のジャンルを超えたアーティストとの異色コラボレーションが留まるところを知らない。ゆるめるモ!や大友良英との刺激的なコラボ作品を発表するだけでは飽き足らず、今度は"玉姫様"こと戸川 純との「戸川階段」、"見捨てられたアイドル"として熱い注目を集めるあヴぁんだんどとの「あヴぁ階段」、T.美川とテンテンコ(ex.BiS)による過激エレクトロニクス・ユニット「MikaTen」と、2016年早々からコラボ3作品を矢継ぎ早に発表するのだ。そのどれもがアバンギャルドなノイズを軸に据えながらも極めて娯楽性の高い作品として昇華しており、不定形なノイズだからこそ提示できる最新鋭の音楽形態がそこにはある。閉塞感漂う現代をあざ笑うかのように、非常階段の凶暴で極悪なノイズは至って元気で明るい。その創作の源を、"キング・オブ・ノイズ"の黒幕・JOJO広重に聞いた。(interview:椎名宗之)

お互いの良いものを持ち寄って違うものを作ろう

──近年はJAZZ非常階段、初音階段、BiS階段、非常階段×ゆるめるモ!、非常階段×大友良英と、コラボレーション活動が一段と活発ですね。

広重:新年早々、初音オーケン階段(大槻ケンヂ×初音階段)、三柴階段(三柴理×非常階段)、頭脳階段(PANTA×非常階段)のライブも新宿ロフトでありますからね(笑)。古くは今から32年くらい前に合体したザ・スターリンとのスター階段、the原爆オナニーズとの原爆階段(1986年)、S.O.BとのS.O.B階段(1988年)といろいろやってきたんですが、近年では2012年から始まったBiS階段で非常に面白い展開ができたんですね。アイドルというまるっきりの異種ジャンルでも、ノイズやアンダーグラウンドという非常階段の特色を効果的に使いながらお互いの良いものを引き出せて面白かったので、このところコラボが連続している次第なんです。

──今回の戸川階段はBiS階段から生まれたと言っても過言じゃありませんよね。

広重:BiS階段で「好き好き大好き」をカバーさせていただこうと、戸川さんにコンタクトを取ったのがすべての始まりですからね。その後、戸川さんとはライブで何回か共演させていただいて、いろいろとやりたい欲が出てきて、ある程度曲がまとまってきたのでアルバムを作りましょうってことになったんです。

──非常階段の35周年記念アルバム『咲いた花がひとつになればよい』(2014年)でコラボした「好き好き大好き」に戸川さんも手応えを感じたからこそ実現したのでは?

広重:そうですね。非常階段のことも気に入ってくださって有り難い限りです。僕はゲルニカの『改造への躍動』や『昭和享年』を好んで聴いていたし、美川さん(T.美川)もシングル盤の『レーダーマン』を買ったりしていたし、僕らからするとメジャーで活躍されている女優であり歌手なんです。そんな方にこうして相手をしていただけるのはとても光栄なことですね。

──戸川さんは非常階段に対してどんなイメージを持っていたのでしょう?

広重:ご存知だったとは思うんですが、ノイズの世界の詳しいことまではご存知なかったんじゃないですかね。でも、BiS階段のライブで共演した時に違和感なく僕らを受け入れてくださったし、メジャーで活躍されながらも、もとの出自は僕らと同じアンダーグラウンドの世界だから、根本的なところは一緒なのかなと思うんです。今回のアルバムのミックスでも戸川さんは「もっとノイズを多めにしてください」と仰るんですけど、「いやいや、戸川さんの歌が聴こえなくなったら、僕らはやってる意味がないので…」とこちらがお願いしたくらいなんです(笑)。戸川さんとしては、自分がいつもやっている表現とは違うことがやりたいと何度も仰っていて、戸川純個人の表現なら違うやり方をするけど、こうしたコラボならではのものを作りたいと話してくださいました。お互いの良いものを持ち寄って違うものを作ろうという共通意識があったと思いますね。

──選曲も素晴らしいし、戸川さんの歌と非常階段のノイズがこれほどまでに相性が良いとは思いませんでしたね。

広重:これまでいろんなコラボの経験を積み重ねてきたし、楽曲とノイズをただ掛け合わせるのではなく、どう組み合わせればより効果的になるのかを僕も美川さんもある程度掴めていると思うんです。今回はその狙い以上のレベルの高いものを生み出せましたね。

──戸川さんの歌を引き立たせるのが一番気を留めたところですか。

広重:これが勢いのある曲なら轟音で引っ張っていくからやりやすいんですが、「いじめ」みたいな静かな曲にどう音を重ねて歌を浮き上がらせるか、どう戸川さんの世界を後ろから支えるかに気を留めたし、僕らにとってやりがいがあるんです。あと、「ヴィールス」は楽曲本来のおどろおどろしい感じをバックの演奏でいかに増幅させるか、ダークな世界観をどれだけ構築できるかが肝で、それも上手くいきましたね。

──「肉屋のように」の病的かつ猟奇的なおぞましい雰囲気も原曲と比べて増幅されていますね。

広重:歌の後ろでチェーンソーの音が鳴っているようなリアリティがありますよね(笑)。その辺はやっぱりノイズならではなんですけど、どんな曲でもノイズと合うわけじゃないんですよ。たとえばヒップホップとかテクノみたいな曲とノイズがコラボするのは合わないんです。でも戸川さんの場合は僕らと世界観が近いし、今回のコラボは良い結果を生みましたね。ミックスにもお互いこだわって凄く時間をかけたし、やりがいのある作業でした。

 

ノイズも歌であり、歌もノイズなのだ

──戸川さんの歌をこうしてまとめて聴ける作品自体が久しぶりだし、とても貴重ですよね。

広重:他人の作品やオムニバスに参加されたりは近年もありましたけど、コラボとは言え、ちゃんとしたアルバムが出るのは15、6年ぶりですからね。この戸川階段のアルバムが戸川さんの活動に良い形でフィードバックして、新作づくりとか新たなモチベーションにつながれば嬉しいです。

──今回の共同作業を通じて、戸川さんに対してどんな印象を持ちましたか。

広重:やっぱり凄い方ですよ。同じミュージシャンとしてフランクに接してくださいますけど、戸川さんにしろ大槻ケンヂさんにしろ、実際にお会いして一緒にスタジオに入ってみると「この人は天才だな」というのがひしひしと伝わりますね。僕らとはレベルが違うと言うか。特に戸川さんは、唄い出すと「やっぱり凄いな」って美川さんと顔を見合わせましたからね。自分の世界を確立された超一流の方ですよ。戸川さんのような方とコラボさせていただくと背筋が伸びる思いがするし、いつも以上にちゃんとやらなくちゃいけない、こっちも負けていられないぞと思うし、良い相乗効果が出ますね。

──両者のコラボは80年代には考えられなかったことでしょうし、「ふたつの存在が合体するには、長い時間と互いの熟成が必要だったのだ」と広重さんもライナーノーツで書かれていましたね。

広重:若い頃は実現できなかったでしょうし、お互いに無理だったと思います。今だからこそお互いに引き出しがいっぱいあるし、それを自由自在に組み合わせるセンスも兼ね備えている。時代と環境が整ったと言えますね。

──これも広重さんのライナーノーツにあった言葉ですが、「ノイズも歌であり、歌もノイズなのだ」とはまさに至言ですし、その言葉が戸川階段の本質を言い当てている気がしますね。

広重:歌とノイズが対等なところまでやっと来れたと思うんです。もともと僕はノイズをアバンギャルドな音響芸術だけにはしたくなかったし、これもひとつのエンターテイメントですよね。かなり前衛的で不定形なもので、僕らはその一番キワキワなところにいつつ、コラボする相手と混ざり合うお互いのにじみ具合の美しさ、面白さがある。その境地にたどり着けた気がします。

──戸川さんとのコラボ楽曲の間に挿入される非常階段名義のノイズは、構成に緩急をつける役割も果たしていますね。

広重:「戸川階段のテーマ」は別として、僕と美川さんとJUNKOさんのソロをそれぞれ入れて、非常階段自体をバラしてみたんです。美川さんもJUNKOさんも単独で凄まじい技量を持っているし、それが三位一体となって後ろのノイズを奏でているんだというひとつの解説、種明かしみたいなものになっているんです。美川さんのソロにしてもJUNKOさんのソロにしても決して真似できるものではないし、かなりレベルの高いことをやっているのが見せられたと思います。

──ジャパノイズは昔から海外で高い支持を得ていますし、この戸川階段も国内はもとより海外のリスナーにも届けたいですよね。

広重:実はフランス盤を出したいと海外のレーベルからオファーをいただいていて、たぶん今年中には出せると思うんです。今回の戸川階段もあヴぁ階段も、もちろんMikaTenも、海外でもっと聴かれて欲しいんですよ。海外のリスナーは「戸川純だから」とか「アイドルだから」という色眼鏡なしに、日本から面白い音楽が届いたみたいな感じで、ポップなものとアバンギャルドなものが美しい形で混ざり合っている僕らの音楽を純粋に評価してくださると思うんですよね。日本だとどうしても、戸川さんなりあヴぁんだんどなりに先入観を持たれてしまうので。

──戸川さんやあヴぁんだんどといった触媒があることで、非常階段のノイズが開かれた表現だというのが分かりやすく提示される側面がありますね。

広重:こうしたコラボを通じて僕らに興味を持ってくださる方も多いだろうし、実際にBiS階段以降、ノイズを面白く感じて僕らのライブを見に来てくださるアイドル・ファンが凄く増えたんです。ジャズでもスタンダードなものからフリー・ジャズまでいろんな形態があるし、それと同じようにいろんなノイズの形態があってもいいと思うんですよ。ノイズは奥が深いし、僕らがやっているコラボがその入口にもなっている気がします。

 

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LIVE INFOライブ情報

「非常階段×戸川 純/戸川階段」CD発売記念ライブ
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2016年2月21日(日)秋葉原CLUB GOODMAN
OPEN 18:30/START 19:00
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問い合わせ:GOODMAN 03-3862-9010

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2016年1月8日(金)新宿LOFT
OPEN 18:00/START 19:00
前売 4,000円/当日 4,500円(共にドリンク代別)
問い合わせ:LOFT 03-5272-0382

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