Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー坂田明×JOJO広重(Rooftop2012年12月号)

芸術なんておしっこ喰らえ!
まだ誰もやっていない、何だか分からない音楽を求め続ける哲学と実践

2012.12.01

ひとつの形に固まらないことがとても重要

──これまでもS.O.B.との“S.O.B.階段”やthe 原爆オナニーズとの“原爆階段”、ザ・スターリンとの“スター階段”、the 原爆オナニーズ&遠藤ミチロウさんとの“原爆スター階段”といったコラボレーションを繰り広げてきた非常階段ですが、今年は坂田さんと豊住芳三郎さんとの“JAZZ非常階段”以外にもBiSとの“BiS階段”のライブがあったり、“非常階段 feat. 初音ミク”名義で『初音階段』というアルバムが発表されたり、いつなく異種交配が盛んですね。

広重:BiS階段はおとといライブをやったんですけど、もうメチャクチャでした(笑)。20歳そこそこの5人のアイドルが踊ってる横で僕と美川さんがギターやエフェクターをブンブン振り回してるんですよ? もう完全に地獄絵図ですよね(笑)。

坂田:その子たちもよくやったよねぇ。

広重:ホントですよ。僕らのマネをして臓物と生の焼きそばを客席に投げつけてましたからね(笑)。それをアイドルおたくたちが受け止めて「ウォー!」って雄叫びを上げて、もう何が何だかワケの分からない世界でした。今度やる時は是非坂田さんもお呼びたいですね。

坂田:臓物関係は遠慮しとくよ。楽器を壊されると困るしさ(笑)。

──ハードコア・パンクからアイドルに至るまで、境界線を軽やかに飛び越えて多彩な活動を続けているのがとても非常階段らしいですよね。

広重:坂田さんもそうじゃないですか。いろんなジャンルの方と様々なセッションに参加されていて。

坂田:そうだね。向こうが僕と一緒にやりたいということであれば、基本的には受けて立つ。そのスタンスは変わらないね。もちろん選ぶこともあるけど、常に自分をボーダレスの状態にしておきたいって言うかさ。どこかの組織に属したりせず、ひとつの形に固まらないことがとても重要なことなんだよ。そこで固まってしまったら、あとは苔生しちゃうだけだからさ。それじゃ京都の庭園みたいに立派なものになっちゃうし…まぁ、それはそれでいいんだけどね。でも、僕はそういうのに向いてないし、立派なものにはなりたくないんだよ。できる限りゴミになる寸前みたいな状態がいいし、真ん中よりも端っこのほうで走ってるのが一番面白い。それも、落ちるか落ちないかのギリギリのところでね。一歩間違えれば落ちちゃうっていう綱渡りの感覚がやっぱり面白いんだよ。

広重:それは僕らも一緒で、音楽と音楽じゃないもののギリギリのところをやってるような感じなんです。ステージでやってるから辛うじて音楽として認識されてるけど、ステージでやってなければ単なる雑音と片付けられてしまうかもしれない。僕らがやってるのはそんなギリギリの部分なんですよ。狂気の世界で言えば、完全に発狂するよりも狂う直前が一番面白いんじゃないかっていう感覚ですね。それと、さっき坂田さんが仰っていた「ひとつの形に固まらない」「柔軟でありたい」っていうのは非常に重要で、人間も死んでしまったら硬くなるでしょう? 血液も流れが止まると固まりますよね。つまり、固まるって死ぬことなんです。柔らかいのは生きているということ。僕らは常に生きていたいから、そのためにも柔らかくいたいし、いろんなものを吸収していきたい。人間は肉も魚も食べる雑食性ですからね。生きるために柔軟であることと音楽と向き合うスタンスは、僕の中で整合性が取れているんです。

──生きることと音楽が直結しているわけですね。

広重:如何に生きるかが重要なんです。死ぬ時に「あー、面白かった!」って言いたいんですよ。いろいろあったけどおもろかったなぁ、ってね。

──自身の選曲によるベスト・セレクションとフェイバリット・ナンバーのカバーから成る『死神に出会う時のように 〜JOJO'S WORLD〜』は広重さんのソロ活動の集大成的な作品でしたが、そこでもテーマは生と死でしたね。

広重:ソロでは死や狂気というテーマにより肉薄している感じですね。死や狂気を突き詰めることで逆に生へのエネルギーが湧いてくるという、リバースのような感覚なんです。どん底まで落ちれば浮上するしかないんだから、中途半端に落ち込んでるんじゃねぇよ! って言うかね。

坂田:僕はサックスを吹いたりミジンコの研究をしたり、いろんなことをやってるけど、音楽をやること自体は自分にとって目的じゃないわけ。食うために仕方がないからやってる手段なんだよ。でも、それをやることでしか人間として生きていけないんだよね。音楽をやれる状態っていうのは、自分が生きてることを実感できるいい状態なんだ。最期は如何に死ぬかが目的なんだけど、それは如何に生きるかと同じ意味じゃない? 要するに、人間であることが僕の目的なんだよ。だから、サックスは道具。JOJO君のギターとか美川君のエフェクターと何ら変わらない。

広重:土方のスコップみたいなものですよね(笑)。

坂田:そうそう。そのスコップを持って何をするのかが大事なんだ。パソコンがこれだけ発達した世の中で、最高のツールっていうものがある。それをどういう人間が何のために使ってるのかが大事なんだよ。

生きている間に芸術扱いはされたくない

──いろんなツールがある中で、『Made In Studio』では24chのアナログテープを使っているところに深いこだわりを感じましたが。

坂田:それはGOKサウンドの近藤祥昭さん(エンジニア)がそういうスタンスでずっとやってきているからで、そういうところが僕は凄く好きなんだよ。

広重:もちろん最新の技術も使うし、アナログテープみたいな昔のツールも選んで作れる環境にあるわけだから、適材適所で使い分けて面白いものを作るということですよね。

坂田:たとえば今は記録用にポータブル・レコーダーで録ったライブ音源をミックスしてCDを出すこともできるし、それはそれでアリなんだよ。だからケース・バイ・ケースってことだね。ありとあらゆるものを駆使して面白いことをやればいい。

──これだけ機械が進化すると、使う側のセンスと力量が問われますよね。ともすれば人間が機械に操られるようなこともあるわけで。

坂田:操られてるよね、現実問題として。最新の機械を使えば安心だって錯覚してるところがある。使う側が白痴ってことだよな。まぁ、僕も白痴みたいなもんだけどさ(笑)。今の時代、イヤフォンを付けてさえいれば、街を歩きながらにして自分の個室に閉じ籠もることができる。外界とシャットアウトして自分だけのバーチャルな世界に耽るっていうね。ああいうのを見ると、機械を使いこなすと言うよりは機械に洗脳されてる感じがするね。スマートフォンにしても何でもそうだけど。

──今回の『Made In Japan』も『Made In Studio』も、共通しているのは人間力が爆発しているところですよね。エフェクターで狂暴なノイズを増幅しているけれど、決して無機質なものではなく、血が脈打つような生々しさを確かに感じます。音からその人間性がにじみ出ていると言うか。

広重:それは常に意識してますからね。機械は電源をオフにしたらそれで終わりだけど、僕らは生きているのでオフられても全然大丈夫なんです。新宿ロフトを出入り禁止になっても、また別の場所でやればいいや、みたいな話で(笑)。要するにちっとも懲りてないわけですよ(笑)。

坂田:そう、お互いに全然懲りてないよね(笑)。

──フリー・ジャズもノイズも、芸術として大上段に捉えられがちだと思うんですが、坂田さんも広重さんもそのスタンスから一歩引いているところに僕は共感を覚えるんです。革新性を内包しながらもエンターテイメントとして成立させる懐の深さがあるじゃないですか。

広重:カタカナで「ゲージュツ」って呼ぶぐらいでちょうどいいし、そのほうが身体にフィットしますね。それに、「ゲージュツ」って芸術をバカにしてるみたいでいいじゃないですか(笑)。漢字で「芸術」なんて書かれると、ちょっとこそばゆいんですよね。

坂田:僕はいつも芸術を横目で見ながら走ってるし、たまに真正面から向き合うこともあるにはあるけど、やっぱりそうはならないってところが人間の在り方として譲れないんだよな。「これは芸術なんです」って言われた途端に人は「ほォ、そうなんですか」って安心しちゃうんだよ。

広重:レッテルですからね。たとえば、『美術手帖』や『ユリイカ』で非常階段の特集をやって欲しいとは思うけど、まずやれないでしょう? やったらこっちの勝ちになるから。大友良英の特集はやれても非常階段やJOJO広重の特集は絶対にムリでしょうね。向こうもそれまでずっと積み上げてきたものが台無しになるだろうし。

坂田:やれるわけないよな。面目丸つぶれになるんだから(笑)。

広重:そういう意味では、こっちはずっと勝ってるんですよ。僕らは芸術ではなくゲージュツなんで。まぁ、死んだ後のことは分からないですけどね。死んだら何でも神様になっちゃうので。

坂田:死んだ後のことはどう扱われてもしょうがないけど、生きてる間に芸術にはされたくないね。エスタブリッシュメントのために何かをやるわけじゃないし、僕はそういう連中と徒党を組むことはしない。もっとも、向こうもこっちを仲間だとは思ってないだろうけどね(笑)。

──坂田さんと広重さんがベッタリなのかと言えば、全然そういうわけでもないですよね。

広重:常に一緒にやってるわけでもないですからね。今年はたまたま接触する機会が多いですけど、本来は何年かにいっぺん共演できて、また別の所へ行くというのでいいと思うんです。ただ、命には限りがあるので、その間にたくさん接することができればいいなと。

坂田:そういうことでしょう。あまりこだわる必要もないし、できる時にやればいい。

広重:いつだってできるんですからね。そういう坂田さんみたいなミュージシャンと共演できる時が凄く嬉しいんですよ。この間、10年振りにサーストン・ムーアと再会したんです。六本木のライブに来てくれたんですけど、もの凄く久し振りって感じでもなかったし、またいつでも一緒にやれる気持ちがあるんですよ。

──そんなことができるのも、リハの要らない即興音楽ならではですね。

広重:そうなんですよ。これがロック・バンドだといつでもやれるってわけにはいかない。楽曲やメンバーの都合もあるし。僕らみたいにフリーなスタイルだからこそいつでもやれるっていうのはありますね。いろんな意味でフリーなスタンスですから。

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LIVE INFOライブ情報

「初音階段」発売記念・非常階段ワンマンライブ
2013年2月2日(土)秋葉原 CLUB GOODMAN
【出演】非常階段
【ゲスト】坂田 明/白波田カミン
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV¥2,500 / DOOR¥3,000(共に1ドリンク別)
問い合わせ:CLUB GOODMAN 03-3862-9010

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