際限まで削ぎ落とすことの難しさ
──亮介さんの言う通り、今回のTJGのアルバムは終始攻めの姿勢だと思うし、楽曲の世界観が今まで以上に開かれていますよね。
Leo:攻めてますよ。何て言うか、もう攻めてもいい時代になったのかなと思って。
亮介:時代が俺たちに着いてきた、みたいな?(笑)
Leo:それまでは激しく訴えかけてきたことが虚しく思えることもあったけど、3.11以降の今はメッセージがそのままストレートに伝わる時代になってきていると思うんです。そんな今、2012年のこのタイミングで作品を発表するならば、自分の根っこにある衝動を分かりやすく伝えることが一番だと思って。なおかつ、世間の人々が抱えるフラストレーションや日常生活の中で受ける怒りを少しでも和らげるような曲を作りたかったんですよ。フィクションがフィクションじゃなくなるような混沌とした時代だからこそ、シンプルかつストレートに声を上げてもいいんじゃないかなと。
──終盤の2曲、『BROTHERHOOD』と『STAY COOL』は無条件に踊れるナンバーで解放感がある一方、聴き手に対して魂の覚醒を促す歌詞じゃないですか。TJG流の硬派なメッセージが込められてありつつも、親しみやすいダンサブルな要素がちゃんとあるという、とても理想的なバランスだと思うんですよ。
Leo:自分たちなりのメッセージはアルバム・タイトルにも込めたつもりなんです。
──『ALL POWER TO THE PEOPLE』ですね。すぐに連想するのはジョン・レノンの『POWER TO THE PEOPLE』という曲ですけど。
Leo:3年前に出したファースト・フル・アルバムのタイトルが『SEIZE THE TIME』と言って、それは60年代後半から70年代にかけてアメリカで黒人の民族主義運動を展開していたブラックパンサー党のスローガンから取ったんですよ。同じスローガンの中に『ALL POWER TO THE PEOPLE』というのがあって、ジョン・レノンはそれを拝借して曲にしたんです。俺たちはそのままタイトルにしたんですけど。
──どの曲もよく練られてあるし、全6曲収録のミニ・アルバムだから何度でも繰り返し聴ける作品に仕上がっていますよね。
Leo:何事もそうかもしれないけど、削ぎ落とすことは凄く難しいんですよね。WAのいいところは、そこがオシャレなんですよ。ああいうスラッとした音楽だけれども、余分なものを際限まで削ぎ落として、必要なものだけをしっかりと残している。「ここは俺の場所だから邪魔しないで! みんなはそこら辺にいて! 俺がここを取るから!」みたいな強い意志をのび太君には感じるんです。
のび太:うわぁ、凄く分析されてる!(笑)
──引き算の難しさというのは、WAもafocも常々感じているのでは?
のび太:そうですね。僕らは曲を全部作り終えた後に、一旦みんなで曲の構成の検証会みたいなことをするんです。「この曲はホントにこの構成で正解なのか?」を徹底的に話し合って、削れる部分はどんどん削っちゃう。ギターもベースもドラムも、音がなくてもいいところはナシにする。「これじゃちょっと音が足りてないんじゃないか?」って感じるギリギリのラインまで削りますね。最近は音数の多いバンドが増えてきた印象があって、僕らはそういうバンドに音数じゃ絶対に勝てないんですよ。そこでどうやって勝負するかって言えば、音数の少ない中でどれだけ格好いいものを作るかなんです。曲作りでは今そこを一番重視していますね。
──『Quit or Quiet』の収録曲はどれも、その削ぎ落としがかなり功を奏しているんじゃないですか。
のび太:自分でもそう思います。11曲あるんですけど、音数をそこまでいっぱい入れてないから何度でも聴けると思うんです。フル・アルバムを作る時に意識したのは、11曲を通しで聴いた後にまた1曲目から聴きたくなるようなものにしたかったことなんですよ。そのためには音をうるさくしすぎないのが大切だし、そこは気を遣いました。
亮介:俺は自由にやるのが一番だと思っているので、音数に関してはあまり気にしてないですね。今ののび太の話を聞いていて思ったのは、WAはやっぱり2000年代以降のロックンロール・リバイバルの後に出てきたロック・バンドだなと。アレンジが凄く計算されているしね。たとえばSTROKESとかもサウンドは凄く熱いし格好いいけど、バッキングはパズルみたいに整理されているように俺には思える。自分が好きな60年代、70年代のロックはそこまで緻密じゃなくて、いい意味でルーズなところが多いからね。俺は単純に自分が気持ち良く感じるロックンロールがやりたいだけだし、気に留めているのはギターが2本以上あるとか余計なことをしたくないっていうことくらい。だから引き算しようと考えていると言うよりも、自分にとって要るものかどうかの判断だけですね。何事も自分がいいと感じることしかやりたくないし、そのためには悔しいことがあってもちゃんと乗り越えていかなきゃいけないと思ってます。
思いを余すところなく伝えるのがロックンロール
──TJGの新作も、サポートのシンセの味付けが過不足ないバランスですよね。
Leo:俺たちも最後の段階で音を凄く抜いていったんですよ。僕らは4人+1人でやってるんだけど、4人で曲を作って100%、それ以外の装飾的なことをシンセでやることで100%以上のものを作れたらいいんじゃないかと今までは思っていたんです。でも、今回のレコーディングでそれは違うことが分かった。つまり、僕ら4人+1人でジャスト100%のものにしなくちゃいけないんですよ。シンセを入れる以上は何かの音を抜かなくちゃいけないし、要するに欲しがってるばかりじゃダメなんですよね。何かを手に入れるには何かを捨てなくちゃいけない。それと、寛容な気持ちで誰かに委ねる行為も大切だなって最近は思います。
のび太:TJGの新譜は確かに音がうるさくないって言うか、シンセを使う意味がちゃんとあるように聴こえる。そうやって必要なところに必要なだけ音を入れる姿勢はこの3バンドに通じることですよね。
亮介:何か褒め合ってばかりなのも面白くないので、afocのことをディスって欲しいですね(笑)。
──ということなんですが、のび太さんとLeoさん如何ですか。
Leo:そうだなぁ…。佐々木君はその髪型で前が見えるの?(笑)
亮介:もちろん(笑)。もうしばらくこの髪型だからね。これで本も読んでるし。
Leo:ライブ中は客席が見える?
亮介:うん、隙間から意外と見てる(笑)。
──のび太さんもLeoさんもafocのDVDをまだ見ていないということなので、ここでダイジェスト映像を見てみましょうか。
(4分間にわたるハイライト・シーンが流れる。「またロックンロールしようぜ! ありがとう!」というMCと共に終了、拍手喝采)
のび太:いやぁ、格好いいですねぇ! こんなに格好いい人が隣りに座ってるなんて凄い信じられないです!
亮介:よく言うよ(笑)。
のび太:さっきも言った通り、僕は当日のライブを見たんですけど、お客さんの熱気がとにかく凄くて。「ああ、格好いいなぁ…」と思ったのと同時に、「悔しいなぁ…」っていう気持ちもライブを見ていてありましたね。お世辞抜きで早くafocに追い着きたいですよ。
──のび太さん、凄く真剣な顔をしてライブを見ていましたよね。ちょっと声を掛けづらい雰囲気で(笑)。
亮介:どんな顔?
のび太:それはもう、こんな感じで…。[と、精一杯大まじめな顔をする]
──それ、活字に起こした時に全然伝わらないですよ(笑)。
亮介:その真剣さが高まりすぎて「afocをブッ潰す!」っていう発言に繋がるわけだね(笑)。
のび太:いやいや、だから言ってないですって!
亮介:でも、そういう「ナニクソッ!」って気持ちが人を成長させるからね。
──Leoさんはどうご覧になりましたか。
Leo:俺は当日行けなかったんですけど、割と辛口なウチのベース(Kaname)が見に行ったんですよ。そうしたらライブがメチャクチャ良かったみたいで、その後にけっこう有名なバンドのライブを見ても「afocのほうが良かったな」って言ってたんです。
亮介:ホントに!? 嬉しいなぁ。
──ツアーの最初と最後では、意識の面でだいぶ変化があったんじゃないですか? アンコールが終わった後に亮介さんがステージに残って客席に声を掛けるのは、ツアーの途中から始まったと聞いたんですが。
亮介:あの3.11以降に提示すべきロックンロールとは一体何なんだろう? と絶えず考えているし、その思いを詞に託してはいるんだけど、ライブではお客さんに直接話しかけられるじゃないですか。決まってる歌詞を何百回唄っても、こぼれる思いというのが絶対にあるものなんです。それはギターのちょっとした歪んだ音とかドラムのアタックとかに表れてはいるんだけど、どうしても思いがまだ残ってる時があるんですよ。その思いをちゃんと吐き出さないと、たとえば時給900円のバイトをしながらチケットを買って見に来てくれた人に対して凄く失礼だと俺は思うんです。自分が信じているロックンロールは思いを余すところなく伝えるものだと思っているし、それが2012年を生きるロックンロール・バンドの使命だと勝手に考えているんですよ。