気持ちが一周してきているのかな
── そして、新作『Discovery』は、活動10年にして1曲目がインストで驚きましたよ。
小田:組曲とまではいかないけれど、せっかくフルを作るんだから、ある種の起承転結というか、だいたい自分たちは1曲目からどっかーんと行くのが多いんだけど、おだやかなところから始まって、音楽を聴いたりワクワクすることで鼓動が上がるというイメージになってるんです。
── アプローチの仕方もどんどん変わってきてますね。インストがあったり、アコースティックがあったり。
橋口:10曲良い曲出来ました、それを並べるならこうだよね、っていうのじゃなくて、この曲が必ず必要というところにそれぞれが配置されてる。ストーリーがしっかりあるアルバムだなと思います。それが和奏さんの中で明確に見えていたから、アレンジでこうしてくれと言われていることも多かったし、見えてる分、それをもっと良くするためにどうするかって取り組めたのが大きかったですね。
── 作品のビジョンが早い段階で見えていた?
松村:早かったです。曲が上がってきて、スタジオのレコーディングのチェックシートに曲順が並んでいてそこから動かしてないし。
── ほとんどは和奏さんが考えてる?
松村:構想があって、設計図が出来上がっているから、あとはみんなで組み立てるという作業で。
橋口:そこに対して、どの機材を使うとか、どのアンプを使うとかを考える時間がいつもより多く取れたんです。
小田:気持ち悪いぐらいにスムーズすぎた(笑)。ミックスまで合わせると1ヶ月ぐらいの作業工程だったりするところが10日間で出来たから。
橋口:早い段階でイメージが聞けたから良かったね。それがない状態でレコーディング入っていたら録れなかったけど、イメージを膨らませることが出来たから。
── いつぐらいからアルバムの構想が出来ていたんですか?
小田:全貌が見えたのは5月に入ったぐらいから。それまでにスタジオで合わせていた曲とかもあったけれど、4月の終わりぐらいに3日ぐらいで既存曲以外の7〜8曲を全部書き上げて、スタジオにテンパらないペースでどんどん投げて、こういう感じってイメージを伝えながら自分の中でどこに何を置いてというのが見えて来たから、プリプロもやってない。
── 早い段階でみんながひとつの方向を向けていた、と?
松村:和奏が自信を持って先頭を行ったから、その方向を見失わないで出来た。方向を見失わないでやれたというのはその時間を無駄にしなかったし、それは今までの経験が最大限に活かされた気がする。こういう場面ではこれが正しいという感覚が、自分の耳に正直にいれば間違いないなって。あとはコンソール・ルームで和奏とエンジニアさんが話していろんなものを決定していく。早かったですよ。
── アルバムを作るにあたり、どんな作品にしようと思っていたんですか?
小田:言葉を並べるとよくわからなくなっちゃうんですけど、サウンド的なもので言うと瞬間瞬間をパッケージするということ。あとは楽しんで録るということかな。今回ギターを録るのもすごく楽しかったし、ドラムとベースをプレイしているのをコンソール・ブースで聴いてここはこのアプローチが良いなとか、テンポがもたってるけどこのほうが良いなとか、その場の雰囲気を大事にしました。
── リラックスしていた感じで?
橋口:アルバムにもそういう雰囲気が出ていますよね。生きてる音が録れてるのは今回のアルバムだなって思います。
小田:とても音楽的なアルバムだと思います。
── 音楽への意識や純粋に楽しんでやるとかって、原点に戻ったような感じもしますね。
小田:今回リテイクした『Wonderful World』って7年前にリリースした『My Life, My Song, My Mind』というミニアルバムに入っている曲なんですけど、今回のラインナップに並べても違和感がないんですよ。当時なりの悩みがあったり、テンションとかも違ったりするんだけど、きっとバンドをやることが面白くて、ギターを遊び道具ぐらいの感じで触っていたところから始まるし、そこに一周して来ているんじゃないのかなって思います。
── 『Wonderful World』と新しく書かれた『Life is a Symphony』は共通した“素晴らしき世界”という言葉があり、7年間言いたい事はずっと変わってないんだなという感じもありますね。
小田:『Wonderful World』を書いた時の心境と『Life is a Symphony』の心境は全然違うと思っていて。『Wonderful World』は明るい気持ちで「素晴らしいでしょ?」と言っているポップな意味合いもあったと思いますけど、『Life is a Symphony』は自分で言うのも変だけど、悲しいことも良いこともあるよね、だけどそういうことを踏まえても、僕の人生は何て良いんだろうって思いたいし、周りにも思ってほしい。そういう意味での素晴らしき世界なんです。
── 原発の問題があったり、円高が進んだり、今って全然未来が見えなかったりするんですよね。だからこの言葉を言うというのは勇気がいるという感じもするんです。
小田:しんどかったり仕事が忙しかったりいろんなことがあったりするけれど、これをやっていることが喜びですって、その1%にスポットライトを当てることって素敵じゃないですか。世知辛くてお金がない。でもお金がないから幸せじゃないのかって言ったらそうじゃない。恋人とか、兄弟、結婚相手、子供…。このために頑張れるとか、こいつのために頑張れるとかって素敵だと思う。俺は自分のことばかり考えて30何年生きてきたし、誰かのために生きるとかもまだないけれど、いつか人生を振り返った時に、俺の人生はなんて素敵なんだろうって思いたい。しんどかったことのほうが数えたら多いかもしれないけど、それで良いじゃんって。
松村:20代前半って無知な事が強さだったりするじゃないですか。ある程度年を重ねて、痛みも怖さも知って、だけど、今上手く年を食って来れたかなと思ってますよ。
── 全体的に進むとか、続くとか、素晴らしい世界とか、すごく前向きなメッセージが全曲通して乗っているかなと思っていて、それも昔から出る言葉としては変わってないですから。
小田:今回はナチュラルかな。いつもはすごく時間がかかっていたけれど、歌詞も迷わなかった。今回曲も歌詞もそんなに時間がかかってないし、あんまり直してもない。
橋口:気持ちひとつで言葉の意味って違うように聴こえたりもするけど、気持ちが乗っていたんだと思う。