2013年7月に惜しまれながら解散したNo Regret Lifeのフロントマン小田和奏の、ソロとしては初となるフルアルバムが昨年11月にリリースされた。今作は、中内正之(セカイイチ)、choro(Jeepta)、高橋レオ(TOY)、石川龍(ザ・チャレンジ/ex.LUNKHEAD)、おかもとえみ(ex.THEラブ人間 /ボタン工場)といった昔から付き合いのあるバンド仲間をゲストに迎えたアコースティックアルバム。勢いのあるバンドサウンドで聴かせていたこれまでとは違い、人肌が感じられる温かくて優しいとても心地が良い今作は、小田和奏という人物がより見えやすくなった作品と言えるのではないだろうか。昨年11月から12月にかけて、"弾き語りツアー「旅人の奏でる体温」"と題された全国21箇所にもおよぶツアーを敢行し、1月17日・18日には自身がマスターを務めるLive Bar crossingでファイナルを行なった。今年は新バンドの始動を目指して精力的に活動をしていくという小田和奏に注目して欲しい。(interview:やまだともこ/Rooftop編集長)
バンドが解散しても活動を止めていないことをアピールしたかった
── ソロとして初のフルアルバム『旅人の奏でる体温』が11月からライブ会場限定でリリースされましたが、バンドサウンドではなくソロの作品というのは心境として変化がありますか?
「感覚的にはあまり変わらないですね。No Regret Lifeの解散ライブが7月6日にあって、そこからあまり時間をあけたくなかったというのが、この作品を作った理由のひとつでもあるんです。俺の音楽人生はまだ終わらないよということを外にアピールしたかったし、自分でも、音楽を続けていくことを確かめたかったという意味もあって。新しいバンドのことは毎日考えていて、曲もアイディアもため込んでいたりするんだけど、やっぱり始動させるまでには時間がかかるから。その分、ソロは気ままなんですよね。それで、とにかく早くリリースしたくて、最初はミニアルバムぐらいのサイズで考えていたんですけど、あれよあれよと曲が仕上がり、多くの仲間にも手伝ってもらうことが出来て、この勢いのままフルアルバムを作ってしまおうと思ったんです。それに、2013年のうちにもう1回ツアーをまわりたかったのもあったんです」
── No Regret Lifeが解散して以降、コツコツと曲を作り始めて、年内目標でリリースしたかったと。
「年内にツアーをするために、どこでリリースをしたら良いかというのは考えましたね。制作スケジュールとライブの仕込みを同時進行で超スピーディーにやって、ツアーをまわろうっていう感じだったかな。そのツアーを昨年の11月から12月にかけてやったんだけど、バンドでは行ってなかった町に行ってみようとか、ちょうど季節が秋から冬になるから、北から南下していくツアーをやろうかなと思ったんです」
── ツアーは、これまでのバンドでのライブとは、雰囲気の違う場所でやられていましたよね。
「いつもとは違う会場でというのが自分の中のテーマとしてあって、カフェとかバーとか、仙台はハンバーガーショップだったし、盛岡は明治時代に立てられた武家屋敷だったり。今回のアルバムがすごくパーソナルな面が増えた作品だというのが実感としてあって、お客さんとの距離が近いところで歌いたいというのも考えていたんです」
── 今回の作品はより聴き手に近くなったというか、より和奏さんという人がわかりやすくなったという印象を受けました。
「No Regret Lifeの時はジャカジャーン“行こうぜ!”ってお客さんに投げかける感じだったけど、これはポロリーン“行こうよ〜”というもう少し肩の力が抜けた感じ。アコースティック作品だけに、肌触りというか手触りの感じもあるし、歌が剥き出しになるんだなというのを作りながら実感してましたね」
── 以前AJISAIの松本さんとアコースティックのスプリットCDをライブ会場限定で販売してましたけど、それとは違うものを作ろうという感じはあったんですか?
「あれは弾き語りのイメージで作っていて、今回はアコースティック編成のバンドサウンドというか、ギターだけの曲もあるけれど基本はアンサンブルをしているというイメージで作ろうと思ったんです」
── 今回の作品には以前から交流のある中内正之さんやchoroさん、高橋レオさん、石川龍さん、おかもとえみさんが参加しています。レコーディングはいかがでしたか?
「No Regret Lifeの時と同じレコーディングスタジオで、これまでと同じエンジニアさんとやって、マスタリングもNo Regret Lifeからずっとやってもらっているタッキーさんにお願いして。ミックスまで入れて4日間で全部やったんです。俺はほぼワンテイクでギターも歌も録って、ゲストプレイヤーが来た時に時間を割けるようにしてました」
── ゲストの方をお迎えするというのは、これまでバンドで合わせていた時とは感覚として違いました?
「似てる部分もあるけど、プレイヤーがカラフルだからそこは新鮮でしたね。気心知れた仲間とやってるというのがおもしろかった。十何年ずっとバンドをやって来たから出来る感じのゆるさと早さがあって。あとさっき言ったようにソロだからこそ自分のペースで楽曲が出来上がるから、ゲストにこういう感じでというリクエストも明確だったし。10年ぐらいの経験があったからこそのペースでやれたし、うまいことアイディア出しのショートカットとかツーカーな感じは、今までのバックボーンが活きてるかなというのは思いました」
── ゲストプレイヤーのみなさんの音からも人肌感というか、温かい感じが滲み出ている作品ってなかなかないですよね。
「考え過ぎずに作ったらこういう感じになったというか、とてもナチュラルな作品です。1枚目って1回しか出来ないから、これが指針になるし、曲がほぼ出揃った時に、こういう感触なんだろうなという手応えはあったし、あったかい感じがメインの作品かもしれないですね」
やることひとつひとつに意味を持たせなくても良いんじゃないか
── 今作を聴いて、まさに和奏さんが手掛けた作品だと思ったのが、和奏さんってNo Regret Lifeの時もそうですけど、アルバムの起承転結をキッチリと作っているイメージがあって、1曲目の『どれみ』はソロの幕開けを華やかに彩っている感じもあるし、アルバムの1曲目としてもソロの1曲目としてもストーリーが考えられているなという印象を受けたんです。
「言われてみるとそうですね。『どれみ』はドレミファソラシドしかない世界の中でいっぱい曲を書いていて、そうやって音階が羅列されている中に、自分たちの思いを詰め込んで音楽にしてきましたけど、改めて『どれみ』の三音階で何が伝えられるんだろうと思ったんです。その時に、全世界で一番伝えられるドレミの三音って何だろう、アイラブユーかなと考えて。自分の曲でアイラブユーを歌ったのは初めてだし、なんとなくつま弾いていたところからこの曲が出来ていったんです」
── ソロになって歌詞にしたいことって変わってきているんですか?
「変わってきているのかもしれないけれど、特別な意識はしてないですね」
── 全体的にラブソングが多くなったという印象がありましたけど。
「今回人の話を聞いてアイディアが浮かんだものもあるんです。『モバイル』は友人の話で、『数十年後のラブソング』は友人夫婦の話を聞いて、友人に贈ろうと思って書いた曲で。すごく良い曲だったからこの曲でMVを作りました」
── 『真夜中の交差点』は聴きながら、和奏さんがマスターを務めるLive Bar crossingを思い浮かべました。普段から、和奏さんがcrossingを“交差点”と言ってるのもそうですけど、歌詞はcrossingに来ているお客さんが楽しそうにコミュニケーションをしている雰囲気が想像出来たし、その場を作っているのがマスターの和奏さんだったり、お店の感じがすごく出ていたんです。
「でも背景的なものを理解していないで聴いてもらっても良いと思っていて。『デタラメ〜』は何も考えずに曲を作ろうと思って、歌詞に意味なんてないということを意識して書いた曲だから、あまり意味がわからないと思う(笑)。『どれみ』は限られた音の中に思いを込めるというか、限られた中で自分が音楽を作ることのおもしろさとか強さを言っているけれど、反対に歌詞なんてどうでもいいという曲があったり、両極端な曲が同じ1枚に入りましたね(笑)」
── 和奏さんから、“歌詞なんてどうでもいい”って言葉が出てくると思わなかったです。
「結局何が言いたいかわからない音楽って世の中にいっぱいあって、それがヒットしたりもするし、単純におもしろおかしくやりたかったんです。今回ルーパー(・エフェクター)という1人で多重録音やジャムセッションが楽しめる機械を使ったんだけど、それがすごく新鮮で、どうにかしてこの機械を使って遊べないかなから始まって、やることひとつひとつに意味を持たせなくても良いんじゃないかというのも思ったんです」
── その中で『ハシル』はメッセージとして強い気がしました。リズムもこれまでの和奏さんとしては珍しい16ビートの曲で、歌詞もカタカナ。
「歌詞読みにくいでしょ(笑)。感情を剥き出しにした曲なのに、カタカナで書いてあると無感情に見えるのがおもしろいなと思ったんです」
その日にしか出せないテンションで歌い続けていたい
── ところで、アコースティックの作品って演奏も剥き出しになるじゃないですか。これまでのバンドサウンドだと勢いで演奏されていた部分が、アコースティックになったことでわかりやすくなった分、ギターはここでこういうコードにするんだとか、複雑なことをやってるんだなというのは聴いていて思いましたね。
「ごまかせないですからね(苦笑)。弾き語りのライブをやって、バンドとは全然違うなって思ったから、こういうのも弾けるようにならないとダメだなというのを感じていて。それが1、2年あっての今なんですよ」
── また和奏さんの渋みのあるしゃがれた歌声は、アコースティックサウンドに乗るとより深みを感じますよね。
「オーバードライブのサウンドじゃないから、歌い方が全力じゃない感じというのはあると思います。レコーディングも昼11時とか12時に作業が始まって、おっしゃーって気合い入れてウォーミングアップするんじゃなくて、日常的な感じで歌を録って。プライベートな感覚に近くなったかな。ピッチがちょっとぐらい合ってなくても、これがいいかなって。あんまり歌い直したくなかったから」
── ずっと聴いていたいと思うほど、心地よいCDでしたよ。
「前までアコースティックはバンドのサイドワークという意味合いが強かったけれど、今自分が出来るアウトプットはこれだし、おもしろおかしくやりながらもこの音楽を聴いてくれる人を増やしたいなと。No Regret Lifeを聴いていた人たちは、この作品を聴いてこれまでとはちょっと違うなというのが実感としてあると思うんだけど、ちょっと違うというのを良い意味で捉えられるような素晴らしい作品を作り続けたいなというのがあるんです。自分のスタート地点に帰った来たような感じ。今回手触りの音楽というテーマを付けて作っていたんですけど、そういうものを広げたいなと思っていて、自分のペースでと言いながら、アイテムはどんどん作っていこうかなと思っています」
── ということは、もう次の作品のことも?
「考えてます」
── ちなみに、アルバムタイトルの由来は?
「ミュージシャンって日本全国をツアーでまわっていて、旅人みたいだなと思って、弾き語りは体温ぐらいの温度感だと思ったから、『旅人の奏でる体温』というタイトルにしたんです。誰しも体調が毎日良いわけではないだろうし、微妙に毎日体温って違うし、寒ければ体が熱を発するし、熱ければ汗を掻いて冷まそうとする。そういう日常の呼吸する感じを表現したかったんです。俺は体がしんどい時ほど歌いたいと思うタイプで、だからこそ、その日にしか出せないテンションで歌い続けて行きたいと思ったんですよね」