ライヴに勝る歓びはこの世にない
──ところで、上原さんは創作意欲が途切れたことは今まで一度もありませんか。
上原:全くないですね。創作意欲がなくなったらどうしようと考えたこともないですし。とは言え、絶対になくならないと思っているわけではないですけどね。別に誰かに強制されてやっていることじゃないし、意欲がなくなったらなくなったでやりたくないということですから、その時はやらなければいいと思いますね。
──ミュージシャンとして最も歓びを感じる瞬間は?
上原:ライヴですね。ライヴに勝る歓びはこの世にありませんよ。私にとってはレコーディングもライヴですから。コントロール・ルームにいる人たちがお客さんみたいなものなんです。
──連日連夜ライヴをやっていたいくらいですか。
上原:体力が続けばやれますよ。ただ、ちゃんと休みを取らないと自分が納得できるレベルのライヴが継続できなくなりますからね。
──体調を管理する上で自身に課していることはありますか。
上原:筋肉をほぐすためにも、毎日浴槽に浸かることは重要だと思っています。ミュージシャンはある一定の筋肉をアスリートのように使うので。
──上原さんのステージはアスリートと見紛うばかりの激しさがありますからね(笑)。
上原:動きは激しいですね。家にいる時や日本へ帰ってきた時は食事にも気を遣えるんですけど、ツアー中は出されたものを食べるしかないし、選択の余地がないんですよ。昼間はほとんど空港にいるので、空港で食べられるものしか選びようがないんですね。この場を借りて、空港の食べ物のグレードアップをお願いしたい限りです(笑)。
──世界の空港にお勤めの皆さん、どうぞよろしくお願い致します(笑)。
上原:でも、日本の空港に勤めている方に訴えても意味がないんです。日本の空港の飲食店は本当に充実していますからね。
──帰国されるたびに、日本の街の景観が歪になってきているのを感じたりはしませんか。闇雲に高層ビルが乱立していたりとか。
上原:高層ビルが凄いのは北京とかのほうが印象は強いですね。日本は何て言うか、日本でしか起こらないような事件が多い気がします。子が親を殺したり、親が子を殺したり。しかも、そういう事件が全国で連鎖して起こるじゃないですか。あれは国土が小さいからなのかな? と思ったりもするんですよね。ニューヨークで起こった事件はロサンゼルスで起こりづらいと思うし。でも、やっぱり日本はいい国ですよ。
──どんなところに日本の良さを感じますか。
上原:交通機関の人が優しいですね。新幹線に乗っても乗務員さんが深々とお辞儀をしながら「切符を拝見します」と言うし、細部にまでサービスが行き渡っているじゃないですか。あと、何より安全ですね。電車の中で寝られるって凄いことだと思います。電車でコクッと居眠りができた時に日本を実感しますね(笑)。ヨーロッパで3時間電車の長旅をする時は絶対に寝られませんから。棚に荷物を置くと置き引きに遭うのが怖いし、同行する人がずっと起きている保証があれば寝られますけど。居眠りができる日本は安全ですよ。
──そうやって弛緩することなく、適度な緊張感が保たれる状況に身を置くからこそタフでスリリングな音楽性が生まれるものなんでしょうか。
上原:それはあまり関係ないと私は思っています。曲作りは自分が今何を感じているかがすべてですから。次に何をやるかを考えるのは楽しいし、やりたいことはまだまだたくさんあるんですよ。
──たとえば今、どんなことにトライしてみたいですか。
上原:マニア向けライヴとかをやってみたいですね。イントロだけ聴いて何の曲か判るマニアの人たちだけを呼んで、1曲=70分のライヴをやるとか(笑)。そういうコアなことを受け入れてくれる人たち限定で。
──それは是非、新宿ロフトでやって下さい(笑)。
上原:『VOICE』のジャケットを撮ったライヴハウスで、コアファン・オンリーのライヴを(笑)。凄く遠い所から来ても1曲しか聴けないですけど大丈夫ですか?(笑) まぁ、ロフトは普通のライヴでもいいんですけど、せっかくの機会なので何か面白いことを考えたいですね。
写真:野村佐紀子
2010年10月27日、新宿ロフトにて撮影。