シングルは自分たちなりに形にした部分は大きかった
──イチファンとして気になるのは、『Mother Goose』の曲順はどんな風に決めていったんですか? 繰り返し聴きたくなるような、絶妙なバランスでとても感動しました。
成「まず『街』を1曲目に持っていくことは決めていたんです。1曲目って聴いた瞬間に空気が変わるというか、世界に入れるというか、そういうアルバムがいいなと思っていて。後半は妄想の世界というかフィクション的な曲が増えてきますね。『君と背景』や『かくれんぼ』はシングルという印象が強かったので、どこに置けばこのアルバムを綺麗に聴かせられるのかっていうのはありました」
──アルバムタイトルの『Mother Goose』はアルバムが出来てからついたタイトルなんですか? 元々、アルバムにあったコンセプトからだったのですか?
成「昨年リリースしたシングルの『君と背景』や『かくれんぼ』のジャケットが小説のような感じだったので、繋がりで何かないかなって思った時に浮かんだ言葉です」
──お話を聞いていると今回のアルバムは、昨年出した2枚のシングルの存在がとても大きいように感じるのですが、sleeoy.abにとってのシングルってどんなものですか?
山「シングルを出すという選択肢はもともとなかったので、リリースが決まってからみんなで話し合ったんです。1曲でバンドが見えないとダメだし、変にポップになる事もないけど、やるなら広がりのあるポップな曲じゃないとダメだろうとか、パッと聴いた時にインパクトのあるメロディや歌詞にしないとなとか、いろいろ考えましたよ」
成「この1枚でイメージされてしまうのは怖いというのはありましたね。例えばベースの田中と作った『君と背景』は、ポジティブなイメージでメロディが作れたので、あとはサウンドでこのメロディをもっと深く聴かせるように出来ればいいのかなって。ちょうど冬が終わって春になって、キラキラした感じとイメージが重なったので、山内には光の量を多くしてくださいって言って出来上がった曲です」
──2枚目のシングル『かくれんぼ』は?
成「『君と背景』が外に向かって作った曲だったので、開いた後は閉じる作業を見せたいなと思い、『かくれんぼ』の詞は内面を見せるというバランスを考えました」
──『君と背景』と『かくれんぼ』では正反対ですね
成「自分のイメージではそういう感じです。シングルを作るとなった時に色々と考えて、自分たちなりに形にした部分は大きかったです。それがアルバムの中で活きている。出した時に“ポップになったな”って言われるかなという感覚もあったし、それが怖いなって思ったし。でも“これで良いんだ”ってのもあった。すごい揺れている感じは、他の曲に活きていると感じています」
──ちなみに曲を作る時って、どんな時が多いですか?
山「札幌のゆったりとした生活の中が多いですね。ちょっと思いついたから録ってみようとか、作ろうという感じでもなく作っています。それが面白かったら、どんどん進めていくし」
──どこへ行っても曲の事ばかり考えている感じですか?
山「意外と考えていないです(笑)」
成「オフの時は完全オフな感じですよ、この2人は(笑)。やる時にやるみたいな。1回オフにしてしまうと立ち上がりが遅いです(笑)」
──これだけの名曲を作ってしまった後だから、次の作品をに向かうのは大変ですね。
成「今回は終わったー! という満足感とはまた違って、次はこうもいけるよね! みたいな続く感じのアルバムになりました。色んな事をやったし、色んな作り方をしたし、そんな中でこういうやり方があるんだって、勉強しながらやっていった感がありますね」
──今回の作品を録音していく上で、印象に残っているエピソードってありますか?
山「『トラベラー』のデモが送られてきて、そのままでも良かったんですが、違う色を加えてアルバムに入れる事が出来たらどんどん広がるんじゃないかって。そのアレンジを何種類もやり、最終的に今の形に落ち着いたんです。sleepy.abにアナログシンセがもう1人いたらどうなるのだろうなって。そういう漠然とした事をやっていた。今までやってないことが出来ました」
成「サウンドの色分けというか、最後の仕上げをするのが山内なので結構苦労しました。『トラベラー』はだいぶ振り幅が違うというか、曲があがった時に困ったなって思ったんです(笑)。十何年音楽をやってきて、苦手な事がまだいっぱいあるんだなと思いましたよ」
──山内さんは全体のサウンドプロデュースとメンバーとしての視点がありますが、やはりそのふたつは違うんですか?
山「今回は今までよりも一歩引いて見る感じにはなってました。個人個人の良い部分がどんどん出るようにしようと。とっかかりは今まで通り、“面白いからこういうのやってみよう”“面白いのが送られてきたからこれ使ってみよう!”とか好奇心で作っていき、ある程度出来てから外から見る作業をしています」
──サウンドプロデューサーとして一番大事にしていた部分って何ですか?
山「今までのsleepy.abの音って背景にある音が雰囲気を作っていたので、核になるものと雰囲気を作るものとが同等だったと思うんです。それで、その核になる部分がもっと目立つようになると、インパクトが出てくるのかなって。パッと聴いて入ってくる感じとか。そういう輪郭を意識しました」
──あと気になっていたのが、歌を録音する時にボーカリストとして意識した事って何ですか?
成「今回の作品は、自分の得意な歌い方だったり、クセを見直したのがありますね。山内がサウンドの輪郭を出したように、自分もそういう意味では歌詞の譜割は、今までの曲よりも輪郭がはっきりと思います」
──私の中のsleepy.abの魅力のひとつとしてボーカルが持つ声質があるので、その声をどう生かして歌っているのかなと気になっていました
成「今回はどっちかと言うと、1枚通して聴くと声に飽きてしまうのかなっていうのがあったので、飽きさせずにというのは考えていました。質感だけでいきたくなってしまうので、歌い方や符割感を工夫したらもっと気持ちよくなるかなって。自分なりの実験だと思います」