ファンの写真を見ながら初作詞
──フォトブック『YOU & I』にCDを付けるアイディアは、柴田さんの強い意向だったんですか。
柴田:そうですね。やっぱりどうしても歌を唄いたいということで、私のわがままをスタッフの方に聞いて頂いたんです。メインはフォトブックになるんですけど、『YOU & I』という曲は私が初めて歌詞を書かせて頂いた作品なので、私にとってはどちらも大事なんですよ。
──フォトブックのほうは、真夏の酷暑の中で撮影を敢行されたそうですね。炎天下の中、冬服を着用するという...。
柴田:撮影当日は久々に猛暑が戻った日で、30℃を超えていましたからね。スタッフの皆さんも汗だくで。
──ロケーションごとに日にちを変えて撮影したんですか。
柴田:すべて1日で撮り終えました。しかも、お昼過ぎから表参道で撮り始めて、遊園地に移動して、夕方には都内の公園で全部撮り終えたんですよ。夕暮れ時の陽射しをちゃんと収めたかったので、それまでに何とか終わらせたんです。
──じゃあ、移動して着替えてメイクをし直して、かなり慌ただしく各所を回った感じだったのでは?
柴田:それがそうでもなかったんですよ。バタバタしたのは最後くらいでしたね。ポンチョを着て、カメラマンさんと2人で超ダッシュで撮ったんですけど(笑)。
──柴田さんが特にお気に入りなのは、その夕暮れ時に撮影した耳当て+ワンピースの写真だそうですね。
柴田:はい。フォトブックに携わったみんなの気持ちが最終的に溶け込んで、一緒になった感じがするので。撮影の最初のほうはお互い初対面でぎこちない部分もあったと思うんですけど、それが徐々に緊張もほぐれて一体感が生まれたと言うか。
──フォトブックのコンセプト的なものは、やはり元担当だけに"ナチュラル"だったんですか。
柴田:自然体で等身大の柴田あゆみを見せる、ということですね。CDもそうなんですけど、メロン記念日時代から応援して下さるファンの皆さんに思いを届けたいというのがコンセプトとしてありまして、作り込まずにありのままの私の姿をお見せしたかったんです。
──『YOU & I』という楽曲は聴くたびに味わいの増す名バラードだと思うんですが、曲調は当初からこの路線で行こうと?
柴田:そうですね。バラードは昔から大好きなので。
──歌詞を紡ぎ出す作業は、生まれて初めての経験だったんですよね?
柴田:生まれて初めてです。その時に起こったことを書き留めるメモ的なものは2冊ほど家にあったんですよ。『涙の太陽』の頃からなので、6年くらい前からちょこちょこ書き留めていたんです。それを書き始めたきっかけは、私の母が「辛い時こそ詩人になれるから、どうしようもない時は胸の内を紙に書いてごらん」と言ってくれたことなんですよね。それからは感じたことをその都度書き留めるようになって、当時は辛かったことでも、後で読み返せば"こんなこともあったなぁ..."と距離を置けるようになったんですよ。時間が経つと嬉しいことも辛いことも等しく忘れてしまうし、書き残しておけば記憶が鮮明に蘇るから、なるべくちゃんと書き記すことにしたんです。
──その2冊のメモ帳が歌詞に活かされたんですか。
柴田:いや、そこから引っ張り出してきた歌詞ではないんです(笑)。
──あれ?(笑)
柴田:『YOU & I』の歌詞は、ファンの皆さんやメロン記念日のメンバーの写真、ライブハウスとか思い出に残った場所の写真を傍らに置いて、それを見ながら書いたんですよ。ファンの皆さんの写真というのは、ファンの人同士の仲がいいから、グループでアルバムを頂いたんです。そこにメッセージが添えてあるもので。あと、最後のFCツアーの時にサプライズで私たちにプレゼントして下さったメッセージ・カードを束ねたものが何冊もあって、それを見ては涙したり、笑いながら書き進めました。深夜にイヤフォンをしてオケを聴きながらそういう思い出の品々を眺めていたら、思わず涙が溢れてきたりして。気がついたら朝の6時くらいになっていて、"うわ、今日も書けなかった..."なんてこともありましたね。最初は溢れ出す思いの丈をどう言葉にしていいのか判らなかったんです。
──完成に漕ぎ着けるまでどれくらい掛かったんですか。
柴田:2週間も掛からなかったですね。最初は恋愛モードの歌詞をワン・コーラスくらい書いたんですけど、それよりもまずファンの皆さんへの感謝の気持ちを伝える方向にしようと思って書き直したんです。
周りに活かされて良さが出るタイプ
──柴田さんらしい純朴さが歌詞によく出ていると思うし、平易な言葉でファンの皆さんとの絆の深さが綴られているのがいいですよね。
柴田:ありがとうございます。そう言って頂けることが多くて、有り難い限りです。あまり難しい言葉も知らないですし、そういうのはムラっちの担当ですから(笑)。
──『YOU & I』というタイトルは、ファンの皆さんや元メンバーとの"友愛"の意味も込められているのかなと思ったんですが。
柴田:ああ、なるほど。それこそムラっちっぽい発想ですね(笑)。私の頭にはなかったです。
──曲調に関して、柴田さんのほうから「こんな感じにしたい」と事前にリクエストはしたんですか。
柴田:私からは特にしなかったですね。ただ、アレンジはレコーディングの前の日までいろいろと変わりました。実を言うと、最初に曲を頂いた時には他の方が書いた全く違う歌詞が入っていたんですよ。それを自分の歌詞に書き替えるのがかなり難しかったですね。他の方が書いた歌詞でボイトレもしていましたし、そのイメージを消して自分の言葉にして書くのが凄く大変だったんです。
──それは二重の意味で難儀でしたね。初の作詞曲にして、よくぞここまでの歌詞を書き上げたなと感服しますよ。
柴田:それは多分、ファンの皆さんに対する思いが偽りのないものだからだと思います。だからあまり悩まずに言葉が出てきたんじゃないですかね。1番はこの言葉が出てきたから2番はこんな感じにしようとか、この部分は特にしっとりとしたメロディだから本当に伝えたい大事な言葉を乗せようとか、ここは大サビだから同じ言葉を繰り返してもいいかなとか。その結果、"あなた"という言葉が多くなっちゃったんですよね(笑)。伝えたい言葉が溢れすぎてしまって。
──端的に言えば、「今まで本当にどうもありがとう、そしてこれからもどうぞよろしく」というファンの皆さんに対するメッセージ・ソングですよね。
柴田:そうなんです。その思いをずっと伝えたかったんですよ。あと、これまでと違ってソロということで不安もあると思うけど、みんなの存在があるし、新しいスタッフさんも守ってくれるから大丈夫だよ、ということも伝えたかったんですよね。
──流麗なコーラスもすべて柴田さんによる多重録音なんですか。
柴田:はい、全部そうです。コーラスがまた凄く凝っていて、かなり難しかったんですよ。何度も「すいません、すいません」と謝りながら録り直しをしたんです。
──歌入れはどれくらい時間を要したんですか。
柴田:午後2時から唄い始めて、終わったのが8時くらいでしたかね。当初の予定だとTDまでを済ませるのが8時半だったんですけど、歌入れが押してしまって申し訳なかったです。どうしてもコーラスに手間取ってしまったんですよ。要所要所に上、下、ハモを入れたんですが、手の込んだコーラスでなかなか上手く行かなくて、アイドル時代とは違う厳しさをひしひしと感じました。
──グループの1/4ではなく、全くの一人で唄うことにプレッシャーを感じたりはしませんでしたか。
柴田:それはあまりなかったです。歌詞を自分一人で書き上げることにプレッシャーはありましたけどね。私自身は周りの人に活かされて良さが出るタイプだと思っているので、私のことを活かしてくれる人がステージ上に誰もいないのは心細いなと思っていました。実際、フォトブックの発売記念イベントの時もどうなるのかなと思ったんですよね。でも、いざステージに立ってみれば私は私で何も変わっていないんだなと自分でも感じたんですよ。もちろん、これからもっとたくさんのことを学んでいかなくちゃいけないし、補うべきところがまだまだあるとは思っているんですけど。
──ソロとして踏み締めた初ステージはトークも柴田さん一人で大丈夫かなと思いましたけど(笑)、意外と形になっていましたよね。
柴田:いやぁ...あれはホームだからまだ何とかなったんですよ。これがアウェイになった時に今のままじゃ厳しいと思うので、そこはこれから勉強していかなきゃいけないと思っています。
──大丈夫ですよ。いざとなったら照明を落としちゃえばいいんですから(笑)。
柴田:でも、いつまでもそこに頼ってばかりもいられませんからね。頑張りますよ。