ミニマムな編成の中での最大級のパフォーマンス
──でも、マックショウが作る広島"風"お好み焼きはセンスが巧妙で、それはそれで絶品でしたけどね。
K:まぁね。"風"ならではの美味しさはあったと思う。
──それが今回は広島で過ごした青春時代への追憶をテーマにしたコンセプチュアルな部分もあるし、純然たる広島のお好み焼きを作ろうと真っ向から挑んでいますよね。
K:ロックンローラーがそういうコンセプトや「自分たちは広島出身なんだ」というプライドにこだわらなくなって久しいわけよ。でも、昔はレコード会社でディレクターを交えて「自分たちにしか描けない広島をコンセプトにしたアルバムを作ろう」なんて会議を真剣にやっていたんだ。俺たちが感銘を受けたアルバムっていうのは、そういう小さなこだわりの結晶だったはずなんだよ。
──発売日が広島に原爆が投下された8月6日の平和記念日というのもこだわりのひとつですね。
K:間に合わなかった可能性もあったんだけどね(笑)。8月6日の発売日から逆算してマスタリング日を設定して、それまでに3日間集中して録ったんだよ。そういうやり方しかできないし、やりたくなかった。
──期日的にも体力的にも極限まで自身を追い詰めて、その状態で生まれ得たものを残したかったということですね。
K:魂を込めるにはそういうやり方しかないんだよ。日本語で言えば「火事場のクソ力」でマジックが生まれる。チェス・レコードをモデルにした『キャデラック・レコード』っていう映画があったけど、チェス・レコードでもサン・レコードでも録り方は同じだよね。掘っ立て小屋みたいな町工場を改装した所でレコーディングのチャンスはたった一度だけ。しかも、テレコに直接マイクをぶっ差すような環境でさ。歌詞もメロディもその場で変わったりして。本来のレコーディングはそういうものだし、俺たちも今回は同じやり方を踏襲したんだよ。事前に用意した歌詞やメロディもいくつかあったけど、曲作りはほとんどスタジオに入ってからやった。さすがに『情熱のロカ・ローラ』みたいなテーマとなる曲は作ってあったけどね。
──キワキワまで自分自身を追い込んで初めて生まれる力ってありますよね。
K:TOMMYが手練れで弾いたフレーズにもNGを出してね。曲の進行を急遽変えて、その場で慌てて考え出したフレーズが逆に良かったりする。もっと時間を掛ければもっと良くもなっただろうし、満足していないギター・フレーズや歌も正直あるけど、それを言い出したらキリがない。ライヴでやればまた変わっていくし、俺たちのオリジナル曲に完成形なんてないんだよ。
T:まともなレコーディングって言うとおかしいけど、あれだけ集中して録ったのは久々だったよね。緊張感も凄くあったしさ。
K:顔色が変わってたもんな(笑)。
BIKE BOY(以下、B):俺は初めてですよ、ちゃんとしたレコーディングを経験したのは。それまでは練習スタジオに毛が生えたような所でしか録ったことがなかったんで。
K:知らないうちに勝手に録られてたりとかな(笑)。
T:BIKE BOYが真っ青になってたのが判ったから、なるべく顔を見ないようにしたんだよ。緊張が移るからさ(笑)。
B:その場の空気に呑まれちゃって、1番の歌詞を叩いてるのに途中でどこを叩いてるのか判らなくなってくるんですよ。
K:息ができないくらい張り詰めた空気だったからね。あれは俺も久々だったよ。
──ザ・フェイスの面々によるハンドクラップまで一発録りだったんですよね。
K:うん。ハンドクラップが失敗しても一からやり直したから。でも、どの曲も本チャンテイクは2回くらいだったね。録り終えたら、その場でどんどんトラックダウンしていって。
──千本ノックみたいなレコーディングですね(笑)。今回はローリー時代からの盟友であるFUZZY MACKこと藤井セイジさんがリズム・ギターとコーラスで、MICKY"SLIM"MACKこと伊東ミキオさんがピアノとハモンドオルガンでそれぞれ参加されていますね。
K:藤井はマックショウのほとんどの作品に関与していて、カープで言えば衣笠祥雄みたいな立ち位置なんだよね。今までの作品でも一緒にコーラスをやってたりしてさ。
──KOZZYさんを山本浩二とするならばYK砲ですね。
K:そんな感じだね。自分のグルーヴを出しつつもバッキングに徹するギターを弾けるのはあいつくらいだからさ。小学校1年くらいからの付き合いだから全部を任せられるんだよ。伊東ミキオは広島じゃなくて熊本の出身だけど、絶大な信頼を置いている。有能なセッションマンだからレコーディングの手順も心得ていて、バーッと譜面を書いてエンジニアに説明もできるんだ。その場の潮時の判断もできるし、唯一マックショウを客観的に見られるしさ。この布陣が揃えば、ミニマムな編成の中でも最大級のパフォーマンスができるんだよ。
広島の地名を盛り込んだ追憶のラヴ・ソング
──言うまでもなく全曲捨て曲皆無なんですけど、頭の5曲の流れが最高にいいんですよね。とりわけ、広島の地名が随所に盛り込まれた『熱帯ドライヴ』と『100メートルの恋』の出来が抜きん出ていると思うんですよ。
K:まぁ、広島の人間じゃないと判らないだろうなとは思ったんだけどね。
──調べさせて頂きましたよ。『熱帯ドライヴ』に出てくる「ナタリー」は佐伯郡廿日市町阿品(現廿日市市)に実在したテーマ・パークだったり、『100メートルの恋』の「100メートル」は広島市の平和大通りのことだったり。
K:知らない人には何の意味もないことなんだけど、俺はそういうのが好きなんだよね。知ってるヤツだけがグッと来る感覚って言うかさ。ビートルズの『ストロベリー・フィールズ・フォーエバー』だってそうじゃない?
──ジョン・レノンが幼少期に通っていた孤児院ですからね。『ペニー・レイン』だってそうですし。
K:そうそう。「ストロベリー・フィールズってどんな所なんだろう?」とか思いながら俺は音楽を聴いてきたし、同じように感じてもらいたいという狙いもあったんだけどさ。マックショウの歌詞は全部実話を基にしているし、俺の頭の中に情景が残っているから説得力があるのかもしれないね。
──奥田民生さんも「遊園地と言えばナタリー」と話していたそうですが、KOZZYさんとTOMMYさんも「ナタリー」には足繁く通ったんですか。
K:小さい頃からよく行ったよね。だって、遊園地はそこしかないんだから。今みたいに大型の娯楽施設がたくさんあったわけじゃないしさ。
T:東京ディズニーランドもまだなかった時代だからね。
──100メートル道路は広島平和記念公園に隣接しているし、その広島平和記念公園と原爆ドームを結ぶ「相生橋」が歌詞の中に出てくることを考えると、『100メートルの恋』はマックショウなりのラヴ&ピース讃歌と言えそうですね。
K:そういうことだね。100メートル道路って今の広島の若い子に言っても通じないかもしれないけどさ。カープがセ・リーグで初優勝した時にパレードをやった所でもあって、俺も当然見に行ったよ。行かないヤツなんていなかったくらいでさ。俺は何故か床屋のおっちゃんと手を繋いで見に行ったけど(笑)。
──そう言えば、初回限定盤のカラーDVDに今回のレコーディング風景が収録されていますが、そこにさり気なく山本浩二の写真が盛り込まれていましたね(笑)。
K:今はネットを使えば何でも調べられる世の中だから、何でも判ってしまうのがつまらない反面、調べられるからこそ面白さが判る部分もあるよね。何事も手軽に調べられることが音楽をつまらなくさせている一因だとは思うんだけど、だからこそ仕掛けられる罠もあることは確かなんだよ。まぁ、仕掛ける以上は歌詞を書くのに凄い時間が掛かったけどね。
──本作の収録曲は概して歌詞の胸キュン度がグッと増しましたよね。
B:そう、青春度がね(笑)。
K:今まではくだらなさの中にも胸キュンが入ってる感じだったけど、歳を取るとやっぱり涙もろくなってくるんだよね。『あしたのジョー』を読んで号泣するしさ(笑)。ちゃんと自分自身も胸キュンできるような歌を唄いたかったんだよ。
──歌の世界観だけを見ると、KOZZYさんのソロ作よりも今回の作品のほうがパーソナリティが色濃く出ている気がしますね。ローリー、コルツも含めたこれまでの全キャリアを含めて。
K:結果的にそうなったかもしれないね。十代の頃の甘酸っぱい記憶をテーマとして取り組んだし、リスナーと共有できるのはそういう部分じゃないかと思ってさ。以前、17歳くらいの子に「マックショウの歌詞、泣けますよね」って言われたことがあって、青春時代の追憶というのは普遍的なテーマなんだなと思ってね。
──十代の若いリスナーにもマックショウが奏でるロックンロールの純度の高さがちゃんと伝わっている何よりの証拠ですね。
K:だったら尚のこと、本気で追い詰めたレコーディングをやらなくちゃダメだと思ったんだよね。ある種、失礼かなと思ってさ。コンセプトもテーマもはっきりしていたし、それならアナログの手法を取るしかない。すべては必然だった気がするよ。従来のリスナーにも新しいリスナーにも納得してもらえるだけの作品を作れた自負はあるよね。
──ロックンロールとしてのいい音は間違いなく過去随一ですよね。世間的にいい音なのかどうかは判らないですけど。
K:そういうことに尽きるんだよ。世の中的にいいか悪いかなんて知ったことじゃないから。
T:基本的にやってることはこれまで通りなんだけど、今回は気持ちの入れようが違うからね。さっき話に出たKOZZYの発破の掛け方もよく判るし、ふんどしを締め直せたのが音によく出てると思う。しばらくちゃんとベースを弾いてなかったし、久しぶりに真剣に弾いた気がする。ちゃんとリハをやってアレンジを詰めたのも久しぶりだったし、「意外に弾けるな」と思ったら楽しくなっちゃってさ(笑)。