「ここ一発で仕留めるしかない」という心意気
──レコーディング風景の映像を見るとヴィンテージの機材をこだわって使っているのが窺えますけど、細部にわたってキッチリこだわって作り上げたことを伝える意義のある映像だと思ったんですよね。
K:プレーヤーやレコーディングに携わる人以外に興味があるのかな? と思ったんだけど、レーベルのA&Rに「機材を見せましょう」って強く推されてね。確かに使ってるリボンマイクも50年代のヴィンテージだけど、俺はそういうのを得意気に見せるのは粋じゃないと思ってさ。リスナーには何の関係もないことだしね。
T:いっそのこと、機材に全部値札を貼っておけば良かったよね。「これは100万円」とかさ(笑)。
──でも、そういう細かいこだわりにニヤリとするリスナーは少なからずいると思うし、それを見てマックショウの魅力に益々ハマっていく人も多いと思うんですよ。僕自身がそうですから。
K:まぁ、そう言ってくれるなら良かったのかな。とにかく作品の出来には満足してるよ。すべては一期一会、背水の陣で臨んだからね。後から何とかしようなんて考えが甘いんだよ。保険なんてないんだからさ。
──現状のレコーディング・システムはアナログ・テープの時代に立ち返ったほうがいいような気がしますね。
K:もしくはアナログ・テープに代わるものがあればね。テープは限られた資源だからさ。ヒントとしては回るものなのかなと思うよ。ハードディスクも回ってるっちゃ回ってるんだけどさ(笑)。レコードだってカセットだって回るわけじゃない? CDですらトレイの中で回ってる。多分、CDって回さなくてもいいのに敢えて回るように作ってあると思うんだよね。
──テープが回るのも運任せみたいなところがありますよね。
K:そうだよね。録れてないかもしれないし、消えちゃうかもしれないんだから。
──退路を断って、一期一会に懸けてこそ真に迫る表現ができるということなんでしょうね。
K:そういうことだと思うよ。消えちゃったらもう一度やるしかないけど、別に何度だってやるしさ。それを最終的にマスタリングでCDにするために一回デジタルにはするんだけど、それまでは全くのノン・デジタルなんだよ。バンドで音を発信している段階はまだいい。でも、その音がデジタルの卓を通り、プロツールスを通り、プラグインを使ったりする時点でクソになるんだよ。俺が総理大臣になったら、プラグイン禁止令を施行するよ(笑)。あんなもん、上っ面だけ綺麗な絵と同じだよ。魂はどこにもない。デジタルを介して削ぎ取られるものがあっても利便性が優先される時代の中で、削ぎ取られて残ったものが今の世の中にあるクソみたいな音楽なのだとしたら、それはもう方向を変えるしかない。俺はこの8年間くらいデジタルの録り方を研究してきて、自分の声がどう変わるのか、バスドラの音はどうエッジが消えていくのかとかをずっと分析してきたんだよ。
──その研究の成果が今回のアルバムであると。
K:うん。いろいろ試してみたけど、デジタルで何をやってもダメだった。我慢できる許容範囲はあるよ。大きいスタジオでちゃんとしたコンソールがある場合、プロツールスを使っても大丈夫な時はあった。だからと言って、結局のところそれは絵に描いた山並みの風景と同じで、本物の富士山の美しさにはかなわない。夏の朝の空気の匂いとか直射日光のジリジリした熱さまでは伝え切れないんだよ。パソコンの画面から匂いがしてこない限り、音楽はパソコンじゃ作れないね。ロックンロールは根源的なピュアな部分が大切なのに、それをデジタルに削がれちゃ何も残らないんだよ。
──『首都高ムーンライト』の「運転手さん、追い越すぜ」という歌詞の乗せ方が僕は凄くいいなと思って、そういう日本語の歌の化粧ノリもアナログの触感のほうが向いていると思うんですよね。細かいことかもしれませんけど。
K:そういうのは絶対にあるよ。俺もテープを聴きながら唄って演奏もしてるからしっくり来るしね。それを後からいじって何とかするなんてさ、ケーキ屋が生クリームのケーキを後で手直しするようなもんだよ(笑)。神に対する冒涜だよね。それなら最初から作り直したほうが断然早いよ。他のバンドは何でマックショウみたいに真摯な姿勢で音作りに励まないんだろう? と思うよね。俺たちはそこに命を懸けてるからさ。多分、みんなマックショウが凄い儲けてると勘違いしてると思うんだよ。ライヴもデカい会場でやって、CDもある程度売れてるからね。でも、利益は全部音作りの研究に費やしてるんだよ。全然儲かりっこない(笑)。だからこそ新しい作品を作り続けなくちゃいけないし、毎回新たなテーマや発見が生まれるわけ。同時に演奏するからこそこういう音の積み重ねができるんだなとかさ。これまで切ったり貼ったり研究してはみたものの、結局はその場の偶発性に優るものはない。森羅万象、そういうことなんだよ。これから先は今以上にシンプルに研ぎ澄まされたドキュメンタリー性の高いロックンロールをやりたいね。日本特有の侘・寂や日本男児の格好良さを出すには「ここ一発で仕留めるしかない」っていう心意気が大切だし、本来の意味でのロックンロールっていうのはそういうものだと俺は思うからさ。