2009年のa flood of circleは激動の1年だった。1月に新宿ロフトにて初めてのワンマンライブを行ない、4月には1st.Full Album『BUFFALO SOUL』をリリース。全国ツアーを各地で開催し、順調に一歩ずつ進んでいるように見えたが、ツアーファイナル目前にギターが失踪。しかし、その後も走り続けた3人は、ゲストギタリストを迎えて2nd Album『PARADOX PARADE』を11月に発表し、今年3月に『PARADOX PARADE』ツアーファイナルワンマンを恵比寿リキッドルームで行なった。このファイナルワンマンは、3人になってもがむしゃらに突っ走ってきた彼らの集大成でもあった。
そのa flood of circleが、今回1st. Single『Human License』をリリースする。ワンマンを持って一区切りついた彼らから生まれた新たなる作品は、"人間らしさとは"という一石を投じるものであった。様々な経験を経て、辿り着いた"人間って何だろう"という素朴な疑問を歌にした今作は、ブルースをベースに置きながらダンスロックで聴かせる作品となっており、これまでとは違う一面を覗かせている。
今回は、a flood of circleの作詞・作曲の多くを手がけるVocal & Guitar佐々木 亮介への単独インタビューが実現。"ブルースを更新する"ことを念頭に置く彼らが、変わらずに走り続け、進化をしようとしている姿を感じていただきたい。(interview:やまだともこ)
音楽が必要だと実感している
──3月5日にリキッドルームで行われたワンマンのタイミングで、サポートギターが奥村 大さん(wash?)から曽根 巧さんに変わられましたが、a flood of circleとしてはこのワンマンで一区切りという意識が強かったんですか?
佐々木:昨年7月にギターが失踪して、すぐに2nd Album『PARADOX PARADE』を作り始め、リキッドがいろんな意味でひとつの区切りだったのかなって思っているんです。岡庭がいなくなって大さんに急遽サポートをお願いをしたんですが、wash?のボーカリストでもありますし、いつまでもお願いできないとは思っていて、一段落するまでお願いしますっていう感じだったんですよ。
──曽根さんはこれまでに何度か弾いてもらうことはありましたが、レギュラーでサポートしてもらうことになっていかがですか?
佐々木:ブルースや70年代サウンドがすごく好きな人で、相性はとても良いです。
──今作の『Human License』から曽根さんが参加されてますが、初参加の楽曲がゴリゴリのブルースロックじゃなくて、ダンスロックというのには驚かれたんじゃないですか?
佐々木:ブルースを基調に新しいことにチャレンジしようとしているというのをわかってくれて、すんなり弾いてもらいましたよ。
──『Human License』は、和訳すると人間の証明みたいな感じになるんですよね?
佐々木:そういう感じです。人間の資格とか。
──ここで訴えたかったのは、人間らしさの探求ということですか?
佐々木:大きく言えばそうです。きっかけとしては最近、職務質問をされることが何回かあって、でも僕は免許も持ってないし、身分を証明できるものが何もなくて、このまま人間かどうか聞かれても答えられないなってふと思ったんです。『PARADOX PARADE』は、日々の生活の中で矛盾しているところをピックアップして歌詞にしたら面白いなというのがあったんですけど、そこからもう一つ先に進んだのかなって思います。青臭いと言えばそれまでですけど、人間らしさって何だろうと思っていたし、そういう時に職質が良いタイミングで来てくれたんですよ(笑)。
──でも、人間らしさって難しいですよね。100人いたら100通りの答えがあって、その中で歌いたい事は、人間らしくあることを忘れてはいけないっていうことになるんですか?
佐々木:人に対して人間らしくいなさいと言えるほど立派な人間ではないんですけど、100通りあるからそれを知りたいとも思うし、当たり前ですけど1人では生きていけないですし、自分や相手がどういう人間かを知りたいというのはテーマとしてずっとあるんです。衝動的な気持ちで一気に書いている部分があると思います。
──佐々木さんにとって『Human License』を証明するのは、バンドだったり音楽活動だったりするんですか?
佐々木:『Human License』を探すためにいろいろと模索していますし、証明できないものとして書いたつもりでもありますし、そういうところを曲にしたいと思ったんです。ただ、僕の場合は証明するものが音楽しかなかったのでテーマになりやすいんだと思います。
──いよいよ退路を断っているというか、音楽でやっていこうという意志は年々固まってきていますか?
佐々木:生活費の為の音楽じゃなく、今は生きていく本質として音楽が必要だと思っているんです。たとえ事務所やメーカーがなくなったとしても、辞めるとも思えないですし。だから、『Human License』という単語を使えるようになったのは、自分には音楽が必要だという事がよりはっきりしてきたからなのかもしれません。
──歌詞も練られて奥深いですし、比喩も年々上手くなってますよね。
佐々木:今回はディテールをちゃんと届けられるよう心がけました。リズムで踊らせたいと思っていたし、歌詞を伝えたいという気持ちは前より強くなってきていますね。
──サウンド的には今までにはないパターンですよね。サンバっぽい感じというか。
佐々木:もともと2曲作ろうと思っていて、その時から"踊らせる"というのをキーワードにしていたんです。それで、『Human License』がトライバルなビート、『Quiz Show』が機械っぽいダンスビートになりました。
ブルースをアップデートするための作業
──『Quiz Show』は"さて問題です"から始まる曲ですが、いわゆる3分間のポップミュージックでクイズ番組をやるというのはユニークな試みですね。
佐々木:自分に対する謎解きがいっぱいあるほうが、聴いてくれる人にも共感してもらえるかなって思ったんです。『Human License』で"あなた"と言ってるところは、自分にも置き換えられますし。『Quiz Show』のようにテーマ性があって、それを音楽と結びつけたりカウントダウンを入れてみたり、『Human License』より曲と詞の親和性があるかもしれません。
──歌詞の中には3つの質問があって、2問目の答えは歌詞の中からわかりますけど、1問目と3問目はすごく難しいですよね。
佐々木:3問目は絶対にわからないものにしているんです。
──リスナーそれぞれの解釈で良いってことですよね?
佐々木:ええ。自分としてもどの解釈が合っているのかわからないから、それをゴールに1番と2番を作っていったんです。
──身につまされますよ。これまで生きてきた中で何度考える事から逃げてきたかって。
佐々木:そこは音楽の良いところであって、パスしている時はパスしてますという状態をひとつの形にできるんですよ。
──『Human License』で訴えている"人間とは何か"という部分は、『Quiz Show』にもリンクしてくるところがありますよね。
佐々木:バンドというよりは個人的に、そういうモードなんだと思います。
──哲学的な感じ?
佐々木:そんな大袈裟なものではないかもしれませんけど(苦笑)。でも、もうすぐ24歳になるんですけど、ちょっと前にモラトリアムの時期があって、青臭いことばかり言ってられないなという時期を経てからの今なんです。『PARADOX PARADE』の詞の世界ができた後に、人間とは何か? というところに自然と行きついて、もうちょっと衝動的な気持ちでやっています。
──人間の生臭い部分や尊い部分を曲として包み込めるというのが音楽の素晴らしいところで、今はポップミュージックの中に哲学的なエッセンスを埋め込むモードということなんでしょうね。
佐々木:本当は言葉で全部言えるはずのものかもしれないけれど、言えないもどかしい部分を曲に託しているというか、その辺は葛藤があります。
──サウンド的には曽根さんという新たな血を導入したことで、『PARADOX PARADE』辺りから変わったポイントってあったりします?
佐々木:昨年のツアーは対バンのバリエーションも豊富で、いろんなものを身につけることができたと思っています。大さんとは、どうすれば様々なシチュエーションに対応するライブができるかを考えてきましたし、そこで身につけたものや手に入れたものが多い分、どこを削ぎ落とすのか見極める作業が難しかったです。この2曲ではうまく表現できたと思いますけど、手に入れたものが多いということはブレる可能性もあると思うし、それはバンドが常に直面している問題だと思っています。ブルースが芯にある分、更新するために多くのものを手に入れたくなってしまうんですが、手に入れれば入れるほどブレる危険性が高いものばかりなので、その葛藤やバランス、戦い方は大さんと一緒にやっていた時に発見したものでもあります。昔はもう少し無頓着にやってましたけど、考え方は変わってきていますね。
──『泥水のメロディー』の頃に比べたら、やりたいことのピントが絞れている事はこの2曲からも感じますよ。考えてみればフラッドって結成以来、タイトロープの上を歩いてきたような感じがありますよね(笑)。だからブルースがひとつの軸にあって良かったなと思います。
佐々木:別の目的で始めていたら、もうなくなってるかもしれないなっていつも思いますよ。何か問題があっても、自分にはブルースという原点に戻って立て直すことができるんです。メンバーとぶつかることもあるんですけど、芯がはっきりしているのでそこが変わらなければやっていけるかなと思っています。
──ブルースがベーシックにあれば、なんでもやっていいという感じってあります?
佐々木:ええ。レコードとして残っている音楽で一番古いものがブルースだと思うんです。エジソンがレコードプレーヤーを商品化した時とブルースが歌われていたタイミングが合ったことって、実は運命的なものなんじゃないかと勝手に思っていて、みんなブルースからやらざるを得ないことになってるんじゃないかって。だからブルースに立ち返ると正解かどうかがわかる気がしているんです。
──ここまで何度バンドが危機的な状況になっても、続けようというのは意地もあるんですか?
佐々木:意地というのもあるかもしれないし、冷静に考えても続けるべきだと思っています。ブルースをベースにして、更新するためには次の形式を見ないと新しいことはできないですから。そのためには大きい会場でやったり、もう少しCDが売れるようになりたいっていうのはすごく自然な流れだと思っています。
──でも、既発曲もちゃんと更新はされてますよね。3月のワンマンの最後に演奏された『ブラックバード』もアップデートできていた気がしますし、いろんなものを吸収して更新するサイクルがすごく早いなって思いますよ。ここ数作聴いても明らかに変化もしてきているし、来年再来年の今頃には、また大きく変わってるんじゃないのかなって。
佐々木:全然違う事を言ってるかもしれませんね(笑)。
──以前に比べると歌い方もだいぶ変わってきてますし。
佐々木:意識的に変えている部分もありますけど、削ぎ落としの作業や何が必要なのかというのは、大人になるにつれてわかってきたのかな。『ブラックバード』は19歳ぐらいの時に作った曲で、もうちょっと闇雲だったし、音楽の仕組みも今以上にわかってなかったですし、自然とそうなってきているんだと思います。『Human License』のAメロの音程がすごく低いのも歌詞が届きやすくするためで、曲をもっと良くするための歌い方があるんじゃないかと自然と思うようになりました。