届けたい、踊らせたい、どうにかしたい
──今回、『Before the flood four』と題された3月5日のリキッドルームでのライブトラックが入ってますけど、あの日は良いライブでしたね。先ほども話が出ましたけど、ひとつの集大成でしたよね。
佐々木:出発点でもありましたし、余計なものを精算してやろうっていう気合いもありましたから。ようやく一区切り付けられるって思っていたんです。
──収録時間の関係もあると思いますけど、選りすぐりの8曲ということになるんですか?
佐々木:今のところ、BEST OF a flood of circleというか、シングルを名刺代わりに出すので今までの曲も聴いてライブに来てもらえたらと思っています。
──リキッドのワンマンを見て思ったのは、新宿ロフトでのワンマン(2009年1月)よりも格段に成長しているのではないかと。
佐々木:ロフトは初めてのワンマンだったので不安だらけだったんです。お客さん来てくれるかなっていうのは今でもありますけど、音楽的なところでもできるかなとも思ってましたし。今は自分たちの至らない点もわかってきていますし、その分強みもあると思うし。
──魅せることに対して意識的になった?
佐々木:自分がやりたくてブルースを選んでいるし、人にも届けたいと思っています。誰かのためにやっているけど自分のためでもあるという、絶妙なバランスが音楽にはできると思っていて、だから踊らせたいとか詞を伝えたいという気持ちは前より強いんですよ。それがフィードバックできたら、もっと良いものを出す原動力にもなりますし。それは長く続けたいっていうのに繋がってくるんですけど、届けたい、踊らせたい、どうにかしたい、というモードはすごくあります。
──『月に吠える』の最後で佐々木さんがマイクを外して地声で歌った時は、伝えたいという思いがすごく伝わりましたよ。あの日のライブを見ていない方は、「いきなりオフマイクになったぞ!」って思うかもしれませんけど(笑)。
佐々木:めっちゃ小さくなっちゃいましたよね(苦笑)。でも、ライブ前に「ここでマイクが外れます」と伝えておくものでもないですから。
──あれは、ナマの声だけで届けたいっていう気持ちから?
佐々木:ええ。あと、リキッドはまだ後ろまで聴こえる距離だろうなと思ったのでやってみました。
──最後3人だけでしっとり終わるというのは粋な演出でしたよ。でも、あくまでスリーピースのバンドでやっていこうという思いはないんですよね?ギターが2本ある形でないとという。
佐々木:自分が作ってる曲がギターが2本鳴ってるイメージがあって、曲のために必要なんです。ギターソロのバッキングが工夫されているものに魅力を感じたり、2010年にリリースされた色んな作品を聴いても、アレンジ的にギターの絡みが多い方が面白いなと感じてます。シンプルで男気があるのも素晴らしいと思いますけど、それは今の自分の音楽じゃない。昔を見ても、ギター1本でやっているブルースマンじゃなくて、ハウリン・ウルフとヒューバート・サムリンが一緒にやってるものが今はいいなと思っているんです。
──今後作ろうと思っている曲は、今回の2曲に代表されるアップテンポな曲が多いんですか?
佐々木:そうかもしれないです。攻めようとは思っています。
──描かれるテーマはやはり人間?
佐々木:このシングルの流れにはなっていくと思いますよ。
──石井さんと渡邊さんの意識もだいぶ変わってきたというのは、シングルの制作過程で感じたりしました?
佐々木:ツアーも含めて、結局自分たちが何をしたいのかと根本的なところをはっきりさせないと、弱いしブレる可能性があるというのは常にあってよく話し合っています。僕は僕で考えがあって、3人それぞれの考え方がある中でひとつのものができるというところで、何がしたいのかはっきりしないとよくないという意識は2人にもあると思います。
──アルバムを2枚作ってシングルも作れるようになると、自分たちの良さを出せる塩梅みたいなものがだんだん掴めてきているんじゃないですか?
佐々木:無意識的にそうかもしれないです。フレーズの選び方が今まで通りじゃなくて、こっちのほうが良いなって思う部分もありますし。
──今でもいしわたり淳治さんからは教えを請うところが多いんですか?
佐々木:前は教えてもらう事が多かったですけど、今はフラットに意見交換出来ている感じがあります。
──それは『PARADOX PARADE』の一連の作業でバンドがワンステップ上がった感じなんですかね。
佐々木:それは淳治さんからも言われました。一度淳治さんとやってるのもあるし、それを経てからの『PARADOX PARADE』があったので、アレンジはその時の影響があると思います。淳治さんは、スタンス的に少しでも自由なところが多い方が良いってよく言ってました。
──アイディア的には、お互い自由な感じでやれた?
佐々木:今回、淳治イズムをちょっとわかったような気がします(笑)。淳治さんの"自由が多い方が良い"というところと、自分はこうしたいというどちらもはっきりしていたので、そういう意味ではやりやすかったです。
──ライブの見せ方ひとつにしても自由になったというか、だいぶやりやすくなったという部分はあるんじゃないですか?
佐々木:ライブをいっぱいやってきて、石井は昔ライブで全く動かなかったので、今は積極的になってるかなと思います。
──三者三様でライブでお客さんを楽しませようというモードにはなっているのかもしれないですね。
佐々木:過剰なサービスはしたくないとも思ったりしますけど、そこはこれから考えないとと思っています。曽根さんは、いろいろなバンドでサポートとして弾いているんですが、今が一番激しいらしいです。ギターを回したりしてますから(笑)。ここで何が必要なのかを考えてくれているんだと思います。
──キャリアのある先輩方が身近にいると、いろんなものが吸収できますよね。
佐々木:その中で自分が何を選ぶかなんですよね。曽根さんや大さんに入ってもらって一番感じるのは、場の空気をコントロールしてくれるというか、ギスギスするかもしれないっていう時に曽根さんの関西弁がバシッと入ってくると空気が和らぐんです。大さんの時もそうでした。俯瞰されている感じはあると思います。
──佐々木さんも俯瞰で見れるタイプじゃないですか?
佐々木:いやー、見れてないですよ。さっき言ったように、ブルースという立ち返る所があるので、それ視点で何かを考えることはできますけど。今向かっている方向が合っているかどうかを自分に尋ねるようにはなってきてます。ただ、自分が今どこにいるかは見れてないのかもしれないけど...。
──一日の中で自分を見つめ直す時間ってあるんですか?
佐々木:歌詞を書く時は見つめざるを得ないし、音楽をやってる以上はあります。心が動いたら自然と考える方向になってます。
──最近心が動いた一番大きなことってなんでした?
佐々木:岡山のライブの時に3人で真面目にミーティングしたんです。それで心が動くというのも変ですけど、もっと何がしたいかということを話し合った時に、メンバーが1人いなくなって3人の関係が密になったかのように見えて、実は暗黙の了解みたいなものが増えてしまっていたんです。だから話し合う事も少なくなっていて...。その辺が良くないと思ったし、一度整理しようよって。
──バンドって個人活動じゃないから社会の縮図みたいなところもありますよね。そういうところも学べた、と。
佐々木:またちょっと大人になっているんじゃないかと(笑)。もう大人になってないといけない年齢かもしれないですけど。
──年男ですしね。
佐々木:まさに。しかも厄年なので厄を振り払いつつ。
──前厄の時に大変だったから...。
佐々木:ピークは昨年来たので、もう怖くないですよ(笑)。