Rooftop ルーフトップ

INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】bloodthirsty butchers(2010年3月号)- 生きている、生きて行こう── 砂を掴んで立ち上がる無頼漢のブルース

生きている、生きて行こう──砂を掴んで立ち上がる無頼漢のブルース

2010.03.01

メンバーのヒリヒリした音を拾いたい

──今回、オリジナル・メンバーの3人に何とか喰らいついていこうというプレッシャーがひさ子さんの中にかなりあったんですか。

田渕:特に意識はしていないけどバンドが変化していく部分ってあるじゃないですか? 僕が加入してからの3枚ではそんなに深く考えなかったけど、自分がどんな役割を果たしているのか? 自分は本当に必要かどうか? 自分が入って良くなったのはどんなところか? みたいなことをよく考えた気がします。この7年、トントントンと勢いで来たけど、ちょっと立ち止まって考えてみたと言うか。今は“賛否両論、上等!”って思うしかないって感じです(笑)。自分のできることは最大限やったし、あとはどう受け止められようが構わないですね。

吉村:最後に入ってる『curve』はひさ子と作ったんだけど、ホントは入れない予定だったの。ひさ子と一緒にメロディや詞を考えたかったんだけど、アルバムのテーマとはそぐわないと思ったわけ。そういう共同作業は次のアルバムでやりたいことだったんだよ。でも、このアルバムの次にどこへ行くのかを提示しようと思って入れることにしたんだよね。多分、ブッチャーズのことを凄く好きな人は“何で最後はあの曲なんだろう?”って思うだろうね。俺の中で言えば「ざまぁみろ!」なんだけどさ(笑)。でも、そういうのが楽しいわけ。それがブッチャーズなんだよ。

──『ocean』で漆黒の闇を突き抜けて、『curve』で瑞々しい清涼感を味わえるのが良いバランスだと個人的には思ったんですが。

吉村:そう感じる人もいれば、“ありゃないよな”って感じる人もいるんだよ。でも、それがいい。賛否両論あるのがいい。今のモードを判りやすく提示するには『ocean』で終わるのがいいんだけど、次にやろうと考えてたことも全部やり切って吐き出したほうがいいと思ったんだよね。「あんなブッチャーズはイヤだ」って言う人もいるだろうけど、全部考えてやってるんだよ。まぁ要するに…意地悪なんだよね(笑)。

──『幼少』のようにご子息へ語り掛けるような曲も新機軸ですよね。

吉村:どの曲も自分が見てきた風景からしか出てこない歌詞なんだよ。全部そう。ただ、青春賛歌みたいなアホッタレでクソッタレなものはどうでもいい。そういうのは全部ウソなんだよ。ウソを聴いたって面白くも何ともない。もっと冷静に考えてみなさいよって言うか、転んで鼻血を出した子供の頃のことを思い出してみなさいよって言うかさ。そういったことしか歌詞にはできない。想像で恋愛をテーマにした歌詞を作る人は素晴らしいと思うけど、俺にはリアルなことしか書けないんだよ。

──リアルさと過去への追憶が絶妙なバランスで溶け合っているのが『僕達の疾走』ですね。

吉村:そうだね。高校の頃に山本おさむの『ぼくたちの疾走』っていうコミックをみんなで回し読みしてたわけ。その光景を覚えていて、そこから膨らませただけなんだけどね。

──イースタンユースや怒髪天と共演したイヴェントのタイトルでもあったし、しんしんと降り積もる札幌の雪景色が脳裏に喚起されるメロディとサウンドですね。

吉村:最初にチャーンチャンチャンって何気なくひさ子が弾いたフレーズがあって、“ハイ、それもらい! そっから行こう!”って感じだった。それがブッチャーズのやり方で、まず第一の“ポン”なわけ。凄く考え込んでやることと、何も考えずにやることの楽しさがあるんだよ。いろいろとやりたいことはあるけど、俺はメンバーの出すヒリヒリした音をできる限り拾いたい。ちょっとしたフレーズが凄く新鮮だから。俺自身、一番好きなのは唄いたいことじゃなくて、コードをチャラチャラ弾いてることだしね。

──今回、射守矢さんや小松さんから“ポン”が出てくるようなことは? 僕は『happy end』や『story』といった射守矢さん独特の泣きのメロディが好きなんですが、本作にはそういったテイストの楽曲は少ないですよね。

射守矢:モチーフになるようなフレーズを今回は弾いてないからね。『散文とブルース』の元々のフレーズは俺が考えたんだけど、全然別の形になったしさ。あと、単純に採用されなかったんだよ(笑)。

吉村:“これだ! もうこの曲から逃れられない!”って曲が射守矢のにはなかったんだよね。ひさ子が作った『幼少』とかは“逃れられない”曲だったんだけど。『幼少』は俺の歌が上手く乗っかったと思うね。

4人の個性を尊重した音作り

──あと、確か小松さんが作詞を手掛けた曲が入る予定もありましたよね?

吉村:そうそう。ホントは入れたかったんだけど、最後はなるようにしてなっていったって言うか。俺も流れの中で身を任せる部分があるし、最後まで入れるように頑張ってたんだけど、その時間の中で入れさせてくれないんだよ。これはもう、そういうことかなと思ってね。自分の中で計算して時間をちゃんと残してたんだけど、意外に時間が掛かるのよ。何に時間が掛かるかっちゅうと、ドラムとベースの音をセッティングすることなんだよね。それが一番苦労する。自分のバンドだから音に関しては譲れないからさ。

──『デカダン〜I'm so tired〜』のイントロのドラムも、恐ろしく芯が太くて抜けがいいですよね。ブッチャーズ・サウンドの得も言われぬ独創性のカギはやはりリズム隊にあることを改めて痛感するアルバムだと思いますよ。

吉村:ちょっと気を許すと全然音が合わないことがあるし、リズム隊に「練習に入りなさい」って言ったこともあったの。でも、断固として入らねぇんだよ(苦笑)。

射守矢:だって、シャクに触る部分もあるからさ(笑)。でも、そのぶん特訓もしたんだよ。吉村が小松に対して音を注文することはよくあるけど、俺は普段それほど言われない。ただ今回は、「『black out』の8ビートをダウンピッキングで弾いてくれ」って注文を受けてさ。ダウンピッキングなんてほとんど弾いたことなかったんだけど(笑)。

吉村:俺はダウンピッキング以上のものを望んでるから、まずは練習をした上で個性を乗せて欲しかったわけ。

射守矢:それで自分なりに特訓してさ、苦労しながらも“だいぶ弾けてきたぞ、これでいいんじゃねぇ?”ってところまで来たつもりでも、吉村の反応がイマイチなわけ。だから“これ以上どうすればいいんだよ?”って思ったんだけどね(笑)。

吉村:その前に、最初は「ダウンピッキングなんてできねぇ」なんて言うんだから。できねぇじゃなくてさぁ…っていう(苦笑)。

小松:多分、できないんじゃなくてやりたくなかったんじゃないかな。自分がダウンピッキングを弾いてる姿がOKになるまでにまず時間が掛かるって言うか。それがOKになって初めて練習に入れる。

射守矢:8ビートを弾くのが嫌いなわけじゃないんだけど、4小節ごとのベースのオカズとか、歌前に入るオカズみたいな部分的に入れていくベースが嫌いなんだよね。なかなか大変なんだけど、8ビートを刻んでる中にも何とか自分のフレーズやメロディを入れてやろうと思ってさ。

──その姿勢があのオリジナリティの塊とも言えるベース・ラインとして帰結するわけですね。

射守矢:まぁ、基本的に俺は自分の知ってる自分の音を毎回同じように作るだけで、それがどう加工されるかは吉村に委ねてるんだけどね。

吉村:もうちょっと利口なら、音の中に差し引きがあるはずなんだよ。でもそれがないし、リズム隊が軸にもなってるから、削るわけにもいかない。4人の音がちゃんと聴こえるミックスを模索すると、答えはひとつしかないんだよね。どの曲もメンバーの個性を尊重するしかない。もうちょっと判りやすい音ならいいんだろうけど、上物がワンワン鳴ってるからね。単純なようでもの凄く辛い作業だったし、あの現場を3人に見せたかったよ。自分のバンドなのにエラい苦労してるんだからさ(笑)。

小松:俺が入った最初の頃は明確な方向性に立ち向かって行く感じで、『未完成』とか中盤の頃は思いつきでガーッと行くことが面白い作用を生み出してた。それがここ最近は、吉村さんが考えてることと俺達3人がやってることにギャップがある気がする。歌詞も歌も全部出来上がった状態でレコーディングに入ってれば、今回も作業はもっと早くできたと思う。でも、ブッチャーズは本来そういうバンドじゃないからね。

──そう、各人がちぐはぐでも最後はひとつの音の塊になるのがブッチャーズの妙味だと思うんですよ。

小松:たとえば、射守矢さんが作った曲で“エエッ! ここから歌が始まるの!?”ってその場で初めて知ったこともあるし(笑)。“ここに歌が乗ってるのに、何でドラムのオカズが入ってるんだろう?”とか、そういうのが前はあったんだよ。でも、今は吉村さんのイメージしてるものがもっと明確なんだと思う。ただ、完全な歌詞やメロが出来てないから具現化するのに時間が掛かるわけ。『フランジングサン』のベーシックは2年前に録ったものだし、そこから初めて歌詞や歌が生まれる。『ocean』なら“こういう音にしたい”っていう吉村さんのイメージが浮かぶ。そこで“このドラムとベースは違う!”ってことになっても、その状態のままで理想形に持っていこうとするから大変な労力が要るんだよね。

このアーティストの関連記事
休刊のおしらせ
ロフトアーカイブス
復刻