
現代のUK/USインディー・ロックの素養はもとより、あらゆる価値観の転覆をもたらした60年代/70年代のユース・カルチャーを分母に置きつつ独自のエッセンスを加味した"我流のNEW PSYCHEDELIC"で目下急激に支持者を増殖し続けているザ・ジョンズ・ゲリラが初のフル・アルバム『Seize The Time』を満を持して発表する。彼らが志向する音楽性は聴き手が精神の中へ潜り込む手段としてのレベル・ミュージックであり、聴き手の情動を促すマインド・ゲリラそのものだ。在るべき世界と生命の循環を主題とした処女作において、その姿勢はさらに確信に充ち満ちたものとなっている。何はともあれ、まずは先入観なしに彼らの紡ぎ出すドラマティックかつロマンティックな旋律に耳を研ぎ澄ませて頂きたい。そこには美しい営みを繰り返す世界への憧憬と、希望と愛に溢れた大いなる人間讃歌が約束の場所として用意されている。諸君、これぞ新たな世界基準である。(interview:椎名宗之)
世界は美しい営みを絶えず繰り返す
──今回発表される『Seize The Time』ですが、去年の段階でミックスまで終えていたそうですね。
RYOJI(g):もう1年くらい前には作業を終えていましたね。ただ、『When The Sun Goes Down』だけがどうも惜しくて、録り直したんですよ。ライヴでも人気の高い曲だし、アルバムのリード・チューンにするべく録り直そうと思って。
LEO(vo, g):本来はもっとキレキレな感じだったんです。それを、たとえば悲しい時に口ずさめるような、広く親しみやすいイメージに再構築したんですよ。他の曲もかなり濃いので、突破口としての位置付けもしたかったし。
──言うなれば、本作はジョンズ・ゲリラの初期の代表曲を集めたようなニュアンスですよね。
LEO:うん、初期ベストみたいなものですね。結成から今日に至るまで構築してきたもののすべてを詰め込んだ感じです。
RYOJI:曲を作った時期も様々で、その時々で影響を受けた音楽を自分たちがどう消化してきたのかも判りますね。
LEO:音楽で言えばファースト・アルバム、本で言えば処女作にその人の基本姿勢がすべて凝縮していると言うじゃないですか。歌は歌詞も含めて魂をそのまま残すと言うか、等身大以上の等身大を刻み込むと言うか、嘘は絶対につかないように気を留めましたね。
RYOJI:サウンド的にもそういった感じですね。ここまで来た道程が全部音に表れていると思います。
──収録曲の中で一番古い曲は、シングルにもなった『Shoot The Radio』なんですか。
RYOJI:いや、『All Tomorrow's Genius』ですね。
LEO:それと『Jewel』、『Limitless Ze Elo』。この3曲が一番古いですね。
──『Jewel』はシングルに収録されていたライヴ・ヴァージョンでは窺えませんでしたが、今回のスタジオ録音を聴くと凄くメロディアスで情感に訴えかけるナンバーなのが判りますね。
LEO:ライヴ・ヴァージョンとは趣を変えて、もっと情熱を掻き立てるようなアレンジにしたんです。アルバムに入れるのならもっとディープな感じにしたかったんだけど、エンジニアの人に曲本来の持ち味を活かしたいと言われて。アルバムに入れた曲はどれも自分たちの血となり骨となっているものばかりだから、そういう客観的な意見はなるべく受け入れようとしたんですよ。慣れ親しんだ曲だけど手綱を締め直して、最良のヴァージョンを作ろうと思って。
──ライヴでもやり慣れているからこそ、音源化する難しさがあったのでは?
LEO:『〜Sun Goes Down』だけありましたね。でも出来には凄く満足しているし、結果的には以前のヴァージョンよりも今のモチベーションに近くなりましたね。
──アルバム全体が人生のとある1日を音像化したような印象がありますよね。『〜Sun Goes Down』で陽が沈んで夜が来て、『Limitless Ze Elo』で漆黒の闇を抜けて朝陽を迎えると言うか。
LEO:そう、だから夕陽から始めたんです。陽が沈む前くらいから物語が始まって、後はとある1日の在るべき美しい世界を描いている。日々の生活の中で生まれる喜びと葛藤を全面的に表現したアルバムだと思います。イメージとしては、雨が降った後の大地を少年が裸足で走り回っている。木々の葉には雨の滴が付いていて、花は咲き乱れ、蝶は舞っている。次第に夜が訪れて、色とりどりの世界が展開されていく。少年に踏み潰された草木や花、つまりは生物の誕生と死を踏まえながら、新しい1日の象徴である太陽が『Limitless Ze Elo』の後に昇ってきて、また別の裸足の少年が丘の向こうから駆けて来る。そうやって世界は美しい営みを絶えず繰り返していくと言うか。

これからは俺たちの時代なんだ
──生のバトンタッチみたいな感覚ですか。
LEO:うん、美しき輪廻ですね。
RYOJI:『Limitless Ze Elo』が終わってもう一度『〜Sun Goes Down』を聴き直すと、今度は夕陽ではなく朝陽のイメージになるんですよ。
──ああ、確かに。"goes down"が"rise up"に聴こえますよね。そういったコンセプトのことは脇に置いても、楽曲のレンジの幅広さを純粋に楽しめますよね。『All Tomorrow's Genius』のように溜めの効いたミディアム・ナンバーも新鮮に響きますし。
LEO:『〜Genius』は『Jewel』と同じ時期に書いた曲で、個を突き詰めた時に抱く言葉の在り方や人間の表現を描いています。そこにはこの世界に対する夢想や挑戦も含まれていますけど。『〜Genius』が希望に溢れている反面、『Jewel』では憂鬱や絶望を提示していて、『〜Ze Elo』はその両方を内包している。だからその3曲だけでもジョンズ・ゲリラの世界は充分に体現できていると思いますね。
──最後の『〜Ze Elo』は11分を超える大作ですね。
LEO:ライヴだと16分はあるんですよ。
──珍しく日本語詞で絶叫しているのは、ダイレクトに伝えたいという意図からですか。
LEO:自分にとっては英詞が自然だったし、二面性のあるものが好きなんですよね。言葉の奥に潜む意図と言うか、漠然とした言葉が時に真実を伝えるようなニュアンスが好きで。『〜Ze Elo』に関しては、自分の本当の傷を見せると言うか剥き出しになったほうがいいと思って、敢えて日本語で唄ってみたんです。そのほうが鮮烈さを伝えられると思ったし。
──11分以上も中弛みすることなく聴かせるのは相当な力量だと思うんですが。
RYOJI:普段のライヴとはアレンジを変えてみたんですよ。
LEO:『〜Ze Elo』は様々な変遷を辿ってきた曲で、詞もその時々のライヴで異なるし、一度として同じ演奏はできないんです。音源として形にするならどうすればいいかを提示して、みんなで構築していった感じですね。
──"そして世界は再び創造の時を迎える"というフレーズは、ジョンズ・ゲリラの高らかな闘争宣言のようにも受け取れますね。
LEO:そうですね。『Seize The Time』というアルバム・タイトルも、60年代後半から70年代にかけて急進的な黒人解放闘争を展開していたブラックパンサー党のアンセムから付けたんです。彼らが提示した"Power To The People"という言葉もジョン・レノンが歌にしたことがあるんですけどね。『Seize The Time』というのは、社会のマイノリティだった黒人たちが「これからは俺たちの時代だ」と宣言した時の言葉なんですよ。これはまさに今の自分たちにはピッタリの言葉だと思って。
──なるほど。時代の新しい波がここから生まれる躍動や予感みたいなものが作品全体に漲っているのを感じるし、言い得て妙なタイトルですね。
LEO:このファースト・アルバムからすべてが本格的に始まるということですね。自分たちの表現活動はとっくに始まっていましたけど、戦闘開始の宣言をやっと出せた感じなんです。アルバムを締め括る『〜Ze Elo』から次の作品へと繋がっていくはずだし、終わりの始まりであり、始まりの終わりでもあるんですよ。この3年、ジョンズ・ゲリラをやってきて、ありとあらゆるカルチャーを吸収して咀嚼してきましたけど、世界とか日本とか関係なく自分たちのオリジナリティがテーマの作品に今後は取り組んでいきたいですね。つまり俺たちにしかできないもの、俺たちらしさを如何に出すかということですね。まぁ、ファーストも俺たちにしかできない作品になっていると思いますけど。

レベル・ミュージックで人を覚醒させる
──皆さんにとって"ジョンズ・ゲリラらしさ"とはどんなところだと思いますか。
LEO:一番大事にしているのは、精神の感性ですね。精神なしに美はないという姿勢をメンバー間で共有しながら歩を進めています。後は時代が証明してくれるのを願うばかりですけど。
──僕はジョンズ・ゲリラの音楽を聴くと自らが解放されると言うか、ウィリアム・ブレイク流に言えば知覚の扉が開かれていくのを感じますけどね。
LEO:そう言われると嬉しいですね。レベル・ミュージックで人を覚醒させるのが俺たちのやりたいことですから。
──"ロックンロール・リヴァイヴァル・ムーヴメントの旗手"という呼ばれ方についてはどう感じていますか。
RYOJI:メディアが勝手にそう呼んでいるだけなので、余り関心はありませんね。成長の過程で吸収してきた音楽をバックボーンとしつつ、自分たちなりに表現しているだけですから。
LEO:俺はやっぱり、"ニュー・サイケデリック"という呼称が一番しっくり来るんです。"ロックンロール・リヴァイヴァル"だなんて、まだ本当の意味で始まってもいないものを"リヴァイヴァル"って呼んでも...って感じですね。"リヴァイヴァル"どころかこっちは"ビギニング"だから、せめて"ロックンロール・ビギニング"にして欲しいですね。
──この記事が掲載される頃には凱旋帰国されているでしょうけど、このインタビューの翌々日にはシアトルへ飛んでライヴを行なうそうですね。
LEO:向こうで俺たちの音楽がどう響くのか、今から楽しみですね。言葉の壁も余りないですし。俺としては、缶や瓶を投げられてもいいと思っているんですよ。少ない日数ではありますけど、ジョンズ・ゲリラがアメリカという自由の国で何ができるかがテーマですね。
──渡米経験を積めば、今後の作品にも反映されていくでしょうね。
LEO:作風が変わることもあるでしょうね。
RYOJI:音楽は精神の面で一番センスを問われると思うんですよ。アメリカでのツアー経験を経て、実際の自分の強さよりも強く持てる精神みたいなものを持ち帰ってこれたらベストですね。
LEO:ただ、アメリカで得た成果はきっと10年後くらいに出てくると思う。すぐに何かを得ようとするよりも、1日1日を無駄にしないと言うか、一瞬に情熱を注ぎ込むモチベーションは常に持っていたいですね。これから先は幾多の戦渦をくぐり抜けていかなくてはならないし、そのためにもメンバーが同じ経験をして同じ景色を見ていくのは凄く大事なことなんです。今回の渡米はその意味でもいい経験になるんじゃないかな。
──継続的に海外で勝負していきたい気持ちは?
LEO:もちろんあります。それが俺にとっては最大の夢でもあるし。海外の音楽から受けた恩恵を自分なりにどう恩返しができるかをずっと考えているんですよ。恩返しと言うよりも、リヴェンジという言葉のほうがニュアンスとしては近いのかもしれない。近い将来の夢としては、この先5年前後で海外でCDを出したい。それが今のところ一番叶えたいことですね。
──MySpace世代はいとも容易に国境を超えるし、自らの志向性に自覚的な皆さんなら叶えられるんじゃないですか。
LEO:実際、叶うと思うんですよ。メンバー同士で強いシンパシーを抱けば簡単なことだと思うし。知覚の扉を開けば、可能性は無限ですからね。