スタジオ・レコーディング作品としては前作『ETERNAL ROCK』から2年半振りとなるストリート・ビーツの最新作『凛として風の如く』は、前作で提示した誰しもが共鳴し得る普遍的なロックンロールの可能性を更に押し広げた重厚な一枚だ。どれだけ苦境に立たされようと希望を忘れず、絶望も悲哀もすべて背負い込んで優しく包み込む強靱さ、そしてその過程で滲み出る切なさを併せ持った歌詞とメロディはまさに唯一無比。特に「ただひたすら熱く生きてやれ/凛として風の如く生きてゆきたい」と唄われる表題曲は、迸る情熱を胸に秘めて生きるすべての人達を勇気付け、魂を激しく揺さぶる傑出した一曲だ。己の信じるがままに、闇を振り払う風のように、彼らは揺るぎない思いを一遍の歌に託し紡いでいく。その姿勢がより確信に満ちた意志のもとに具現化された渾身の一作を携え、自らの存在証明を追い求めて歌を紡ぐ旅は今後スリリングの度合いを一層増していくはずである。(interview:椎名宗之)
困難な状況でも揺るがぬ思いを貫いて行く
──前作『ETERNAL ROCK』が“普遍的なロックをとこしえに体現し続けるんだ”というストリート・ビーツの意志表明だとしたら、今回発表される『凛として風の如く』はその最前線からの実践報告と捉えることができるんじゃないでしょうか。
OKI(vo, g):そこは聴き手の判断にそれぞれお任せしますけど、自分達としてはまた一歩進んでいくしかないというか。『ETERNAL ROCK』はビーツのアティテュードを余すところなく形にできたアルバムで、バンドにとって何度目かのポイントになった作品だったんです。自分達の在り方を再確認できたというかね。今度の『凛として風の如く』はその流れを分断することなく、繋がったものとして在るという感じですね。バンドのサウンドや在り方を殊更に変えようという意識はなく、前作からの流れの中で自然と湧き上がるように生まれた作品なんです。
──『ETERNAL ROCK』以降、精力的なライヴ活動はもちろんのこと、コンスタントに作品を発表している状況を見ても、バンドがすこぶるいい状態にあるのが窺えますね。
OKI:『ETERNAL ROCK』以前も、何があろうがなかろうがライヴ・ツアーありきの活動は不変ですけどね。まぁ、確かに短いスパンで良質な作品を発表できている自負はありますよ。
SEIZI(g, cho):前作から今作までの2年半という時間も決して長いとは思いませんからね。むしろ、凄く早かった気がします。『ETERNAL ROCK』を引っ提げてツアーを回って、今作発表までにやってきたライヴはどれも充実したものだったし、あっという間でしたよ。
──『凛として風の如く』というタイトルは、ストリート・ビーツの佇まいを表す言葉として言い得て妙だと思ったんですよ。ライヴでは激情が迸る熱量の高いサウンドを放出する一方で、バンドの姿勢は常に毅然としたクールな印象があって、何物にも囚われず風のようにすり抜けて行く柔軟さもあるという。
OKI:そう言ってもらえると有り難いですね。いろんな言葉の断片が自分の頭の中に渦巻いていて、人としてどう在りたいかを考えた時にふと出てきた言葉なんですよ。凛とした風のように在りたい、と。それはもちろん、自分自身と密接にリンクしているバンドとしての在り方にも言えることですね。その在り方を追い求めていく姿が作品の世界観として表出していると思います。
──本作は、前作と同じ最強のエンジニアを起用してレコーディングに臨んだそうですね。やはり前作の制作過程で確かな手応えがあった故ですか。
OKI:そうですね。エンジニアとは強い信頼感が互いにあるし、いい仕事が非常にスムーズにできるので、変える理由がないですね。一番大きなポイントは、ビーツの音をそのまま拾ってくれることなんです。それに尽きます。
SEIZI:鳴らしたギターの音をそのまま形にしてくれるから、とにかく話が早いんですよ。そこで食い違うと、録りの最初の一日が丸々潰れてしまうので。
──スタジオの空気感もまた、作品作りに大きく作用しているんでしょうね。
OKI:長いこと使っているビクターのスタジオで今回も録ったんですけど、音決めの段階で違和感のない音がスピーカーから聴こえて来るんですよ。その時点で“これは大丈夫だ”と思えたし、そうするとこちらも突っ込んで作っていけますからね。
YAMANE(b, cho):ボトムの音も凄くいいんですよ。ちゃんと判って録ってくれているから。
ATSUSHI(ds):鳴らした音がこうなってて欲しいなというのが、そのままドンと出ているから何も言うことはないですね。
──1曲目の「守るべきもの」に顕著ですが、どれだけのものを失っても前を向いて進んでいくんだというポジティヴな意志が収録曲すべてに通底していますね。困難な状況でも常に希望を抱こうという強いメッセージはビーツの歌に一貫して在るものですが、本作ではその部分がより前面に出た印象を受けます。
OKI:自分の生き方として、それしかないんですよ。特に意識したわけでもなく、溢れ出たものをそのまま形にしたというか。「RIDE ON MY JET」は今年の頭に書いて先行シングルとして出した曲なんですけど、年内中にアルバムを発表することを見据えて、最初のフックとして作ったんです。言葉に関しては、己の揺るがぬ思いを貫いて行こうというテーマがどの曲にも一貫していますね。最終的に歌詞を客観視した時に、それを敢えてばらけさせる必要がないと思ったんです。それに対して、逆に曲の切り口としてはいろんなやり方で攻めることができると思って。そこはバンド・マジックですよね。
ビーツならではの強靱さと切なさの融合
──本作において、バンド・マジックが起こった瞬間はありましたか。
OKI:「夕凪」は元々イントロダクションがなくて、猛暑の中で回った夏のツアーの空気を音にしたようなイントロが急に閃いたんですよ。あのアコースティック・ギターのイントロが生まれたことで、曲の世界観が凄く広がったんです。
YAMANE:あのイントロには鳥肌が立ちまくりましたね。俺がいない間にダビングされていたので、凄く驚きましたけど(笑)。
OKI:アルバムを作るというのは、今この瞬間を捕まえて音にすることだと思うんです。プリプロやリハーサルで影や形もなかったものが出来ると、やっぱり凄く面白いんですよね。
──「RIDE ON MY JET」然り、シングルのカップリングでもあった「COME ALONG, SING ALONG」然り、ライヴでオーディエンスとの一体感を増すことを念頭に置いたと思しき作風ですね。
OKI:その2曲に関してはそうですね。まず先行シングルを出して、春のツアーで温度を高めたかったんですよ。それを受けて、バンドの空気をアルバム作りに向けていきたいと思ったんです。たとえば、心情を吐露するようなヘヴィな曲を書くのはその後でいいと思ったし、「RIDE ON MY JET」や「兆し」といった躍動感のある曲をまず形にしたかったんですよね。
──「RIDE ON MY JET」のようにシンプルなパンキッシュ・ナンバーは、キャリアの浅いバンドがやると凡庸で音も薄っぺらくなると思うんです。それをビーツが奏でると、ちゃんと重心の取れた聴き応えあるサウンドになるんですよね。
OKI:ビーツの世界観というのは、苦境を乗り越えて行く強靱さだったり、ある種の切なさだったりすると思うんですよ。パンク・ロックの熱い部分と歌モノのグッと胸を衝く部分が上手く融合したものがビーツ・サウンドの核にはあると思うし、それがざっくりと伝われば嬉しいなと思うんですけどね。
──強靱さと切なさの融合という意味では、哀愁に満ちたメロディながら躍動感のある「HOWLING SOUL」はその最たる曲と言えますよね。
OKI:そうですね。こういう曲ができるのは日本でビーツくらいじゃないですかね。これで叙情性が強まると泣きの方向に行き過ぎてしまうし、ロックンロールではなくなってしまいますから。決してそうならないのは、自分達独自の世界観を貫いているからでしょうね。「WIND AND CALM」が甘さに流されていないのも、あくまでもロッカ・バラッドだからだと思います。
──ATSUSHIさんがバンド加入から10年を経て、「夜を蹴散らせ」で初めて作曲に参加したこともトピックのひとつですよね。
ATSUSHI:OKIさんからは「曲のアイディアがあればいつでも持って来てよ」と言われていたんですけど、なかなかそういう機会がなくて。今回はたまたま浮かんだフレーズがあって、それをOKIさんの作っていた曲と合わせてみたら上手く行くんじゃないかと思ったんですよ。クローズのハイハットでキチキチ押していくナンバーをやりたかったので、そんな仕上がりになりましたね。
──最初にOKIさんが持って来るデモは付け入る隙がないというか、割と固まった形であることが多いんですか。
OKI:昔からそうなんですけど、最初にSEIZIにタイコをやってもらうんです。2人で向き合って座りながら、まず自分の頭の中で鳴っている音を叩いてもらうんですよ。そこで基本のリズムを鳴らしつつ、自分が弾き語りをして曲の幹を作るんです。そうやってワン・クッション置いてから、ATSUSHIとYAMANEには伝えやすい形で曲を聴かせていますね。そのやり方が一番合理的なので。だから、付け入る隙は充分あると思いますよ(笑)。
SEIZI:最初は曲のタイトルになりそうなサビやイントロを作って、コーラスくらいまで付けるのかな。1番のワン・コーラスを聴いたら、2番はこうなって間奏はこうで…というふうに、初めて合わせた曲でも一緒に始めて一緒に終われるんですよ。4人で一斉にやっても目配せだけじゃ終わりまで行けないから、ある程度の形をまずこの2人で作っておくんです。“ラララ…”と適当に歌を付けているのを見ると、次はこう行くだろうなというのが大抵は判るんですよね。
OKI:俺達だけのノウハウですね。SEIZIが最初のリスナーなんです。自宅でリズム・マシンやちょっとしたミキサーでデモを作り込んでいくと、そこでイメージに縛られてしまうから余りやりたくないんですよね。それとまぁ、単純に面倒なので(笑)。曲として形にするのは、本当に最後の段階にしたいんですよ。