心動かされるものが今のサウンドにはある
──おしゃれ方向に進むきっかけは何かあったんですか。
楠:や、でもやっぱ……トシの作る曲が、真っ直ぐなリズムよりも、ちょっとおしゃれ系のリズムが合うような曲が多くて。特にサードとか、前のミニの時は。曲が要求してるリズムっていうか、俺がイメージするリズムも、なんとなくそういう感じになりますね。
菊川:だから自然な変化ですよね。自然というか、今までずっとバンドをやってきたうえで、いろんな対バンもあったし、いろんな音楽も聴きますし。その中で必然的に、自分にとっても気持ち良かったもの、いいと思えたものが残っていって、それが次の曲に反映されていくっていうか。
楠:俺の中でボッサのリズムを取り入れたっていう意識はないんですよ。あの、聴いたことないっていうか(笑)。普段から聴こうと思わないし、ジャズとかも一切聴かないんで。ただ、なんだろうな、今まで聴いてきた音楽とか、触れてきたバンドは絶対に増えていってるはずで、いいなと思って自分の中に残ったものが、結果的に自分のドラム・スタイルになってるはずで。その中のひとつにバンド・アパートとかの影響は絶対あると思うんですよ。ただ、それを意識して叩くわけじゃなくて。今は、できあがってきた曲に対して「こういうドラムが一番合うな」と思えたものを、ほんと素直に出してるでけで。
──なるほど。じゃあ、もう意識せずともキレイな方向、おしゃれな方向に、全員の意識が向かってるような。
楠:そうっすね。ウチは特に、曲は2人が作るけど、全体のアレンジまで、流れを誰か1人の人が作っていく、っていうやり方じゃないから。4人集まってみんなで雰囲気を作っていくから。
──求める雰囲気がどんどんおしゃれになってる? さっきからずっと「おしゃれ、おしゃれ」言ってて馬鹿みたいなんですけど(笑)。
菊川:はい(笑)。まぁ単純に言えば、トシが入って曲作りにおいて変わったことが多くて。トシが僕の知らないコードをいっぱい知ってたんですよ。それでまず引き出しが増えたっていうのがあって。で、その知らないコードを使い出したら、結果……おしゃれになった(笑)。
楠:知らないコードって基本おしゃれコードが多いじゃん(笑)。そういうのって掻き鳴らして、歪ませて、ガツンと鳴らすコードではなくて。だから自然とそういう、クリーンな音になってきて。
菊川:そう、ガーッと歪んだ音でできないコードなんですよ。
──改めて訊きますけど、大西さんってどんなルーツの持ち主なんですか?
菊川:トシは……ルーツっていうと、まぁジュディマリをコピーしたのが初めてだって言ってた気がする(笑)。でも基本的にそんな、僕らと変わらないはずなんですよ。
──昔ジャズをかじっていた、とかじゃなくて?
菊川:そういうのはなくて。多分僕らと一緒で、そういうコードや楽曲に触れたのは、まわりのバンドの影響なんだと思いますよ。普通にメロコア畑で育ってきたはずだし、前に大西がやってたバンドもそうだったから。
──でもこのサウンドって、他に言いようがないんですよね。言葉を探そうとすると「おしゃれ」としか言えなくなってきて。
菊川:ですよね(笑)。
──多分これって世界的に見ても例のない動きなんですよ。メロディック・パンクは世界的にブームになったけど、そこからこういう流れが始まったのはここ日本でしかなくて。何を求めてみんなこの方向に進んでいくんだろうって、ずっと不思議に思っていたんだけど。
菊川:あー、なるほどね。そうっすね……何を求めて…………うーん。
楠:ひとつ言えるのは、単純にカッコいいというか、音楽をやる人間にとって心動かされるものがそこにあるから、だと思うんですよ。それが具体的にどこなのかっていうのはわかんないですけど。
100点のメロディがあれば他に何も要らない
──それはテクニック的な話も含めて、ですか? より高度なものを弾ける楽しさ、モノにしていく喜び。
楠:そうですね。それはあると思う、絶対。
菊川:きっと今後も、ロング・スケールとして、技術的なものはどんどん必要になってくると思いますし。普通にバレー・コード押さえて、普通のスリー・コードで曲を作ってくっていうのは……まぁないとは言い切れないけど、今後もうそんなに増えないと思いますよ。多分。
──それを意識的に言えるのは大きいですよ。パンク出身だと「高度だから何? 気合いのほうが重要!」みたいになりがちだけど。
菊川:うん。昔からそうなんですけど、3人でやってた頃の僕らも、その前に違う名前でやってた時もそうなんですけど、精神的な話ってそんなピンと来ないんですよ。その当時にメロコアって言われるものがバーッと世の中に出始めて、実際そこに影響されてバンドを始めたんですけど……なんつうのかな、パンクだとか、そういう精神論には全然興味がなかったんです、僕は。ほんと楽曲の良さというか、シンプルでカッコよくてギターが歪んでて、みたいなカッコよさ。単純に表面的な部分をすごいカッコいいなと思っていて。で、基本は今もそこにあるんですね。シンプルな歌が好きっていう。
──なるほど。
菊川:それこそ本当のこと言うと、本気ですごいメロディ、80点とか90点じゃない、95点とか100点のすげぇメロディがあれば、他に何も要らないんじゃないかな、っていうぐらいの気持ちは今もあって。
楠:だから今、俺らはメロコアをやっている、みたいなイメージって全然なくて。もともとシンプルな歌が好きだっていうところが基本にあって、その時々でいいと思ったものをいろいろ取り入れつつ進んできたら、自然とこうなったんだと思うんですけど。
菊川:うん、さっきの話じゃないけど、より高度なものを作れるっていう、そこに感じる喜びは確かに今あって。サードの時とか特にそうだったんですよ。好んで複雑な曲を作ってみたり、好んで複雑なアレンジにしてみたり。その喜びは確かにあって、それが楽しくなってた時期ですね。オリジナリティっていうか、ロング・スケールがロング・スケールであるために、どんどん複雑になっていったというか。
──他にないものを探すうちに、自然と高度になっていった。
菊川:うん。「じゃあアレとコレとアレを足せばオリジナルになんじゃないか」みたいな感覚じゃなくて。もっとアンサンブルっつうんですかね、いわゆるおしゃれ系(笑)。そのおしゃれな雰囲気に、今までメロコア畑で培ったストレートさだったり疾走感だったりが自然と合わさっていって。それがサードとか、前のミニ・アルバムぐらいまで。
──今は違いますか。
菊川:うーん、今回も試行錯誤は繰り返して、全然ガラッとアレンジが変わったりした曲もあるんですけど。ただ、今回ようやく辿り着いた一個の答えっていうのが、「もうシンプルにしねぇか」と。
──えっ? こんだけ言っといて(笑)。
菊川:実はそうなんですよ(笑)。その答えが、みんなで曲作りしてる時にふと出てきたんですよ。曲の構成なりリズムなり、もっとストレートなものに戻そうよって。それが1曲目の「melt down」なんですけど。これ、もともと全然違う、3連のリズムの曲だったんです。それを突き詰めて、あーでもねぇこーでもねぇってやってたんですけど、まぁそんなにピンと来てなくて。これは元ネタをトシが作ったんですけど、「ちょっとこれ大幅に変えていい?」つってリズム・マシーンで作り替えたものが今回の原形になったんですよ。こんだけ速い、疾走感丸だしの曲に。
──結局は疾走感だと。
菊川:そう。これができた瞬間「あぁ、これでいいんじゃん」っていうのがあって。そっからダダダッと、難しい曲もちょっとシンプルに変えてみたりして。それで今回のアルバムができたっていうのがありますね。
──本来は、もっと練ってひねってやるつもりだったんだ。
菊川:そうですね。ひねって、もっといろんな展開とか変拍子だったりとか、付けよう付けようとしてた流れが、初めはありましたね。
楠:ミニ・アルバムまでの流れで複雑になりすぎて、いろんなものくっつけすぎて。それを削ぎ落としていいものだけを残していった、っていうイメージなんですけどね。