特に派手な露出があるわけじゃないし、目立つための戦略を立ててきたわけでもない。しかしいつしかメロディック・パンクというフィールドを軽々と越え、普遍的かつ恒久的な良質メロディの担い手として絶大な信頼を得るようになったWRONG SCALE。3人から4人編成となったここ数年の躍進は特に大きく、過去最高にバラエティを広げた前回のミニ・アルバムはバンドの新たな可能性をいくつも示唆していたと思う。あれから1年半、ようやく完成した4枚目のアルバムが『bed and board』。メロディの切なさや美しさは相変わらずだが、アレンジの細やかさ、ロック的な勢いに頼り切らない精緻なアンサンブルがとにかく白眉で、3作目までにはなかった円熟と洗練がはっきりと窺える内容だ。進化を続けるサウンドと、その奥で変わらないメンバーの想いとは。ギターの菊川正一とドラムの楠 誠一に話を訊いた。(interview:石井恵梨子)
バンドとしていい年齢を重ねられた
──私、取材が久しぶりなんですよ。ギターが増えて音が豊かになったことも知ってるし、ライヴもちょくちょく見てるつもりだったんですけど。
菊川:はい。
──でも今回アルバムをじっくり聴いて、改めてびっくりしましたね。いつ間にこんな素敵な、おしゃれバンドになっていたんだって(一同爆笑)。
菊川:ああー、はい(笑)。
──4人になってからの変化が大きいことは自覚してますか。
菊川:そうですね。まぁ自覚はしつつも、なんて言うんですかね? 昔があって今がある的な。大人になっていくのと一緒で、小学生の時もあれば中学生の時もある。まぁ、今はその成長過程みたいな感じですかね。基本的にやりたいことっていうのは、ファースト・アルバムの頃から変わってはいないと思うんですよ。ただ、そこに他からいろいろ得たものが肉付けされてっただけで。
──確かに、ファンが「嘘だろ」って思うような変化ではないと思う。ただ、豊かな熟し方、実り方みたいなものが今回は全然違って。
楠:うん。あの、今回のタイトルの候補で「熟した」みたいな単語を使おうかと思ったくらいですから。まぁちょっといい年齢を、バンドとしての年齢を重ねられたっていう手応えはありますね。この音源。
菊川:まぁ、いい成長の仕方をしてるんじゃないかな、という感じですかね。
──野田さん(b, vo)と大西さん(g)はどんなこと言ってました?
楠:や、同じじゃないですかね。やっぱ4人になって、この4人での経験も積んでいって、作業にも馴れてきたし。今はいい頃合いというか。段階がちょっとずつ上がってきたかなって思います。
──やっぱりサードの時は、ギター1本増えたけどこれからどうしよう、という戸惑いもあったと思いますし。
菊川:そうですね。サードの頃よりは、曲に対しても歌詞に対しても、まぁ役割分担がよりはっきりして。いい曲を作るにはみんなでどうしよう、っていうのが昔に比べるとよりはっきり出てきたかなって。
──役割分担というのは?
菊川:基本的には曲を書くのが僕ともう1人のギターのトシ(大西)で。で、歌詞を書くのがドラムの楠と剛の2人っていう。今回は特にはっきり分かれましたね。サードの頃は確か、みんな歌詞を書いたから。それがミニ(・アルバム『fate effects the surface』2006年4月発表)の頃から役割が分かれてきて。
楠:そこは効率的な話でもあって。やっぱ曲を作れる人間というのが2人しかいない、まぁ前は1人だったんですけど、俺と剛が曲を書けないっていうのがあって。曲が上がってこないとそれぞれの作業も進まないというか。もっと効率良く曲を上げてもらうためには、2人の負担を減らすために俺と剛で何ができるかっていうのを考えて。それで役割分担という形になってきたんじゃないかな。現状を把握しつつ、みたいな。
菊川:うん、ウチの場合はこのやり方が自然ですね。
──ちなみに曲作りは2人一緒にやりますか。それとも別々に?
菊川:別々ですね。まぁ曲作りっていうか、元のネタを作ったり1曲の方向性を考える作業がメインで、そこからのアレンジはみんなでやるんですけど。だから僕が持って行くのはもうメロディだけですね。コードとメロディだけ。トシのほうはまぁ、ある程度のギターのアレンジまでができてるパターンが多いですけど。まぁでも2人いるから、俺がまず1曲を持っていったら、トシがその曲とは被らないようにまた別の曲を書いて。それを俺が聴いて、さらにそれに被らないように、っていう積み重ねで。それでいつもやってますね。
──でも、正直そんなに作者のカラーの違いを感じなかったですね。むしろ全員見てる方向が同じなんだろうな、っていうか。
菊川:あー、そうですか。それはそれで嬉しい話ですけど。
──それだけ今のロング・スケール・サウンドっていうのが、2人のソングライターの中ではっきりしてるんだろうなと。
菊川:そうですね。まぁ……2人もなんか似てきたっていうのもあるんですけど。お互いやろうとしてることが似てきて。
──やっぱり昔と何が違うって、ギターのアレンジだと思うんですよ。クリーン・トーンのアルペジオとか、単音とか、空間を広げていくようなキレイなギターがほぼメインを占めていて。
菊川:そうですね。はい。
──なぜそういう方向になったんでしょう。
菊川:なぜ、と言われると非常に困るんですけど(笑)。なんですかね?
楠:単純にその時その時に「こうしたほうがいいかな」って考えが、時間によって変わってきてて。
──今は、ロックっぽさやリフの激しさを追求する方向ではない。
菊川:そうですね。方向性って意味では、そうっすね。
──それに伴うリズムの変化も大きいですよね。エイトというより、シャッフルとかハネのリズム、ボッサっぽいものもあって。いわゆるおしゃれサウンド、おしゃれリズムが満載ですけど。
楠:(笑)なんでしょうね。まぁサード、ミニ・アルバム、っていう流れの延長だと思うんですよ。サードからミニの時に、今までの真っ直ぐなリズムから、ちょっとこう、屈折というか、言ったらおしゃれ系っていうリズムに挑戦してみて。それを残しつつ、今回は昔のシンプルでいいところも取り入れつつ……って感じなんですけどね。