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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】ASPARAGUS(2007年10月号)- 3ピースのポケット・シンフォニーが奏でる胸を打つメロディの"最高峰"(MONT BLANC)

3ピースのポケット・シンフォニーが奏でる胸を打つメロディの“最高峰”(MONT BLANC)

2007.10.01

追い詰められた時に初めて生まれるものもある

──ボツになった曲は結構あったんですか。

渡邊:いや、今回は1曲潰しただけですね。余りにテンパって、どうしようもない曲を1曲だけ書いちゃったんですよ。

一瀬:でも全然悪くない曲だったし、俺はやってみたいと思ったんですけど、忍の中ではナシだったんでしょうね。

渡邊:その曲を一瀬に聴かせた時は凄いショックで、“俺はこんなふざけた曲しか書けないのか…”って思ったら自分にイライラしてきて(笑)。でも、そこで気を取り直して頑張れたから良かったですけどね。

一瀬:そんな状況だったから、俺は「大丈夫?」って遠回しに煽ってやりましたけど(笑)、締切の直前には「曲数が10曲でもいいよ」としか言えなかったですね。それまでに出来上がってた曲が凄く良かったから、「俺はこれだけでも満足だよ」って何度言ったことか(笑)。それくらいのサポートしか俺にはできなかったですね。

渡邊:スタジオの店長にまで「『YES』と『NO』、『HONESTY』も入れて全10曲でいいよ、大丈夫だよ」なんて言われて。「もうお腹一杯だよ」って(笑)。僕も「だよねぇ?」なんて言いながら、心のどこかでは“あと2曲くらい作らないとマズイな”と思ってたんですけどね。ヘンな話、「今ここで20曲書け」と言われたら、多分そこそこのものは書けると思うんですよ。だけどそういうレヴェルじゃなく、自分を含めたこの3人が本当にいいと思える曲だけを書きたかったんです。

──直央さんが加入する前に発表されていた「YES」と「NO」、BEAT CRUSADERSとのスプリット・アルバムに収録されていた「DEAD SONG」、すでにライヴで披露されていた「SILLY THING」や「WITH THE WIND」など、次作の期待を増幅させる秀逸な曲が揃っていたので、『KAPPA』2部作を越える作品が生まれるのはまず間違いないと一ファンとしては思っていましたけどね。

渡邊:言い方は悪いかもしれないけど、シングル曲だけが良くて残りはイマイチ…みたいなアルバムってよくあるじゃないですか? そういうのはイヤだな、と。でも、曲作りの締切は目前に迫っている、と(笑)。ただ、闇雲に時間があればいいっていうものでもないんですよ。結局ダラダラやっちゃうだけだし、時間に追い詰められて初めて出てくるものもありますからね。短い時間の中で集中していい曲を集めた自負はあるので、決して手抜きではないんです。でも、何て言うのかな…今回の曲作り期間はきっと自分では忘れたい事柄だったんだと思いますけど、どうやって作ったかはほとんど忘れましたね(笑)。まぁ、いつも大概そうなんですけど。

一瀬:「I FLY」なんて、Aメロは7時間掛かったよね。

渡邊:そうそう。そういうのもありますよ。

──へぇ。鼻歌の延長で、スーッとメロディが降りてきたかのような淀みないメロディに思えますけど。

渡邊:もちろん、そういうところも結構あるんですけどね。ただ自分としては、一音がちょっと上がってるだけとか、歌詞の一言の部分だけのメロディに凄くこだわったりしたんですよ。でも、そうやって色々頑張った感じを出して聴かせるのは格好悪いじゃないですか? もっと自然に聴けたほうがいいと思うし。自然に聴けつつ、実は結構こだわってる部分もあるっていうバランスがいいかな、と。

──忍さんの曲が上がってくるまで、一瀬さんと直央さんは他の曲のアレンジを詰めたりしていたんですか。

一瀬:いや、ずっとテレビを見てましたよ(笑)。曲がないから、何もやりようがないですからね。

──ドラムやベースのフレーズから曲が生まれたりするようなことは?

一瀬:ないですね、ASPARAGUSの場合は。『KAPPA』の時に、手助けしたいと思ってドラムのリズムだけテープに録って忍に渡したことがあったけど、「絶対使えねぇ」って言われましたから(笑)。やっぱり、ドラムとかベースは歌メロやギターの音があるからフレーズが浮かぶんだと俺は思うし、それがなければ何も始まらないですよね。それだとただのインストにしかならないっていうか、ASPARAGUSは歌のあるバンドですから。

──曲が足りなかった段階で、忍さんが木村カエラさんや小泉今日子さんに提供した曲をセルフカヴァーしてみようという発想はなかったんですか。

渡邊:それは120%なかったですね。単純にキーが高いから、自分では絶対に唄えないだろうし。自分で書いた曲はそのキーが最高だと思ってるし、僕は基本的にそのキーを動かしたくないんですよ。それとやっぱり、その曲はその人のために書いたものだから、自分で唄うっていうのは何か違うんですよね。…なんて言っておきながら、いつかちゃっかり唄ってたりするかもしれないけど(笑)。

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レコーディングを通じてやっとバンドになれた

──まぁ、どれだけ曲作りに時間が掛かろうが“忍なら大丈夫!”という絶対的な信頼がお2人にはあったんでしょうし。

一瀬:さすがに、今回はそれもなかったですけどね(笑)。余りにギリギリすぎたんで。ただ、それまで溜まった曲がどれも格好いい曲ばかりだったので、球数にはこだわらなかったんですよ。仮に全8曲でもいいから、その時にある曲を出せればいいと思ってた。今回の収録曲はどれもそうだけど、アコギ1本で唄うだけでもいい曲がすでに揃ってましたからね。でも、締切の直前になって出来た曲が「LITTLE DEVIL」と「BEFORE THE NIGHT」で、特に「BEFORE THE NIGHT」が出来た時は“こいつスゲェな”って素直に思いましたよね。

──「BEFORE THE NIGHT」みたいなスタンダード性の高い曲がそんなギリギリになって出来たとはとても思えませんね。

一瀬:最後っ屁で出した曲がそれだったから、ビックリしましたよね。まぁ、欲を言えば、個人的にはもうちょっと練習する時間が欲しかったですけど(笑)。ギターと歌録りは特に日にちが短くて、かなり大変だったんじゃないかな。

渡邊:歌詞が上がるのもギリだったしね。お察しの通り作業は連チャンで、最初は僕も「余裕だよ!」なんて言ってたんですけど、ギターを弾いてプレイバックを聴きながらうっかり寝てたこともありましたからね(笑)。あと、事前にバンドで音を合わせないでレコーディングした曲も何曲かあるし。

一瀬:もちろん、プリプロはしたんですよ。パソコンに入れてアレンジを考えたりして。ただ、同じ時間軸で歌もありきで一緒にやってない曲もあるんです。だけど、そこはバンドの経験値なのか気心が知れてるからなのか判らないけど、“多分こんな感じになるだろう”っていうイメージがそれぞれにあって、自ずと自分のやるべきことが理解できたんですよ。忍は今回、ベースのラインもドラムのパターンも自分で打ち込んだしっかりしたデモを持って来てたから、その時点でもう曲の全体像が見えてたんです。ドラムに関しては、ドラム・マシーンのほうが巧いから負けないようにやるプレッシャーが大きかったですね(笑)。

渡邊:よく言うよ(笑)。『KAPPA』の時は、そこまで細かいデモは作らなかったんですよね。今回は最初に自分なりの全開で2人に聴かせようと思ったんです。前からそうなんですけど、まずメンバーに聴かせた時に“いい!”と思われたいんですよ。まぁ、言ってみれば主婦みたいなものですよね。

──主婦ですか!?(笑)

渡邊:うん。料理を作って旦那さんに「旨そうだね!」って言われたいし、掃除をしておいて喜ばれるような感覚。それと一緒かな、と(笑)。曲を聴かせる時も、「全然自信ないんだよなぁ…」なんて言いながら、「いいじゃん!」っていうリアクションが欲しいんですよね(笑)。そこで自分がちゃんとした曲を聴かせられれば、2人もそれ以上のものを演奏で返してくるし、いい相乗効果になるんです。前まではギターと歌メロを聴かせて、“何となくこんな感じ”っていう曲の雰囲気だけを伝えてたんですよ。一応、自分の頭の中ではドラムもベースも鳴ってるんですけど、そこはイメージしてもらおうと考えてた。でも、今回はまず自分のイメージを全部出してから2人に+αを委ねてみたんです。そのほうがガッとアガれると思ったし、案の定凄く良くなったんですよね。お互いにみんな全開で行こう、っていう感じで。

──細かいアレンジも、デモの段階でかなり固まっていたんですか。

一瀬:曲によりますね。まっさらの新曲はアレンジがバッチリ固まっていて、もう曲が完成していたんですよ。あとは個々にプレイしてみて、自分なりのフレーズを加えてみるパターンもあったし、勝手に雰囲気の変わったアレンジにした曲もあるし。既発曲は一緒に作ってたのもあるし、そのバランスが偏ってなかったのが良かったと思いますね。

──直央さんが加入して再レコーディングされた「YES」と「NO」、「DEAD SONG」は鋭さがグッと増して、より引き締まった印象を受けますね。

一瀬:全然違いますよね。レコーディングに入る前に、まずツアーを回ったことが作用してるんだと思いますよ。直央が曲に馴染むと同時に、バンドとしての足固めがちゃんとできる期間があったから。直央は色々と大変だったと思うけど。

原:ツアーを回ってた時は、どこか実感の伴ってない部分があったのは確かなんです。でも、今の自分自身の実感としては、レコーディングができてやっとひとつのバンドになれたという気持ちが強いですね。

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