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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】おとぎ話(2007年9月号)- 高校生の時に夢中で聴いていた音楽を目指した作品『SALE!』

高校生の時に夢中で聴いていた音楽を目指した作品『SALE!』

2007.09.01

バンドとエンジニアがしっかりと戦っている

──では具体的にサウンド面でのお話を聞かせてください。最初にアルバムを聴いた時、フレーミング・リップスのサウンドをバックにエレファントカシマシの宮本さんが歌っているようなイメージを受けたんです。

有馬:それ、嬉しいです。

──陳腐な表現ですいません(笑)。生ドラムと打ち込みのサウンドとの加減が、奇妙な気分にさせるんです。夢見心地な気分なのに怒号と野次にさらされているとでもいうか…。

有馬:ドラムに関してはすべて生で、打ち込みはしてないんです。

──サウンド作りは順調にいったんですか?

有馬:エンジニアの岩田純也さんには録音前にライブに来てもらい、おとぎ話がどんなバンドかというのを理解してもらった上で、綿密なミーティングをしてからレコーディングに望んだんですよ。

──ガッチリ話し合ってから始めたんですね。

有馬:はい。始めは他にも制作に関してアイデアはあったんですけど、岩田さんが「オレに録らせてくれ。だけどオレの好きなようにやってもいい?」と熱く言ってくれたんでおまかせすることにして一緒に作業しました。「やりたいようにやらせてくれ」って言われることは、製作者としても演奏者としてもこれ程に幸せなことってないと思いましたね。だから演奏して素材を用意するのは自分達で、後のミックスは基本的に全部岩田さんに任せちゃったんです。他のメンバーも「ミックスを岩田さんに全部預けてみたい」って思ってたみたいです。

──ミックス後の出来を聴いてみてどうでした?

有馬:ミックス直前に「リバティーンズと中村一義と奥田民生を合わせた感じにしてください」っていうメチャクチャな注文をしたんです。

──ははは。本当にメチャクチャな注文ですね(笑)。

有馬:でも自分が思っていたよりも遥かにカッコよくてびっくりしました。それで「この曲はどういうミックスしたんですか?」って聞いたら、「教えない!」って(笑)。でも教えてくれないのは、バンドとエンジニアがしっかりと戦っているということだと思って、それも嬉しかったですね(笑)。

──エンジニアさんもおとぎ話の魅力を良く理解していないと、こういった信頼関係は生まれないですからね。

有馬:そうなんですよね。ライブを観ていい事も悪い事もちゃんと言ってくれるんで、完全に信頼することが出来たんです。最終的な曲順に関してもアイディアを出してくれて助かりましたし、客観的におとぎ話を捉えてくれる人がみじかにいることが、今回は非常に良かったです。

──お互い素晴らしい関係性で作れたんですね。

有馬:はい。おとぎ話の楽曲に興味があってこそだと思うんで、岩田さんには本当に感謝してます。

「集大成」って表現は使いたくはない

──個人的に、このアルバムは「広がっていくこと」が使命であるような気がするんです。

有馬:僕もそう思います。パッとでと思っている人もいるかも知れませんが、バンド結成してからファーストアルバムを作るまで7年もかかったから、ハンパな使命感ではないんです。

──その7年間は今思い返してどうですか?

有馬:辛かったですね。自分が何をしていいのかがサッパリ分からなかったんです。

──楽曲には自信はあったんですよね?

有馬:そうですね。でも「曲がいい!」って言ってくれる人はいても、どこがいいのかが自分では理解できなかったというか、自分の曲との向き合い方が分からなかったんですよ。ライブもその日の気分によってかなり散漫になっていましたからね。それがこのアルバムが完成して聴き返した時に、「いい曲じゃん!」って素直に思えたんです。

──初めて客観性を持ったということですかね?

有馬:はい。それに気付くまでは自分で自分の曲を殺していたんです。

──「自分で自分の曲を殺す」とは?

有馬:無理して他のバンドと同じ土俵で戦おうみたいな意識が、自分の楽曲を殺していたんだと思うんです。でも改めて自分のアルバムを聴いて自分達の良さを再発見できたんですよ。

──自分達の良さは、誰かから教わるものではないということですね。

有馬:そうです。それに気付くのに時間が必要だったんです。

──基本的に有馬君は「皆の期待に応えてあげよう」っていうサービス精神が多いタイプに見えるんですよ。

有馬:そう見えますか(笑)?

──だから音楽で他人の期待を100%演じようとするところがあると思うんですね。でもその自分の許容量を越えてしまうと放り投げてしまう感じかなと。

有馬:その通りですね。自分は自分でしかないとやっと最近理解できたんです。ただ自分が歌えばいいんだって。

──それが有馬君の一番の魅力ですよ。もともと自然にバランスは取れるタイプだとは思うので、意識してバランスを取ると疲れるんだと思いますよ。

有馬:まさにその通りですね(笑)。

──ファーストアルバムの時点で、「自分は自分でしかない」っていう感覚を持てていることは強いですよね。

有馬:結成してからファーストアルバムをリリースするまでの時間が長かったからか、それまでのヤキモキした気持ちが結果的に良い方向に向かったんだと思います。

──それは時間でもなくてバンドの力だと思いますよ。

有馬:だからファーストアルバムをリリースさせて、ようやく好きなバンドと良い意味で余裕を持って対バンできるなぁと。

──おとぎ話としては、何かに対してのアンチテーゼで音楽を奏でる時代は終わったんですね。

有馬:そうです。だけどその分、自分やお客さんを裏切ってしまうような時は「オレは何をしてんるんだろう?」ってホントにヘコみます。ヘコむ時もありますけれど、もっと自信を持って活動できるようには心がけています。

──結成して2、3年でファーストアルバムがリリースされてトントン拍子で活躍していくバンドも多いんですが、おとぎ話にとってはこの空白の7年間が非常に重要な期間であったことは良く分かりました。

有馬:売れるか、売れないかは別として、非常にいい時間を過ごしてきたと思います。バンドというより一人の人間として。だから今回の作品は簡単に「集大成」って表現は使いたくはないんですよね。

──今作は今までの「集大成」というものではないと?

有馬:まだまだ続いていくものなんです。作り終えて「やった~!」なんて思わなかったですからね。作り終えた瞬間から次への焦りがはじまりましたし、その焦りがなくなったら音楽をやる必要はないなぁとも思っています。

──それにしても今作でずいぶんと有馬君自身が強くなったんじゃないですか?

有馬:ホントに強くはなりましたね。作っていた期間は辛かったですけど、かなり成長できたと思います。

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