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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】Naht(2007年8月号)- 6年振りに放たれたディベロップメント集『In The Beta City』そして紆余曲折を経て辿り着いた"純粋に音楽を楽しむ"境地

6年振りに放たれたディベロップメント集『In The Beta City』そして紆余曲折を経て辿り着いた“純粋に音楽を楽しむ”境地

2007.08.01

活動休止前の楽曲を封印した理由

──リマスタリングが施され、当時のライヴ映像が特典として付いた上にアートワークも新装された『Narrow Ways』を今聴いて、率直にどう感じますか。まだ客観視できませんか?

SEIKI:いや、逆に凄く客観視しちゃうんですよ。“すげぇな、このバンド”って純粋に思える。心の中ではそれだけ遠い昔のものになっているのかもしれないし、無軌道な若者の乱暴行為だったというか(笑)。もちろん、いいタイミングで再発することができて良かったと思ってますけど。

TAKAHIRO:まぁ、ファーストにしてはちょっとやりすぎちゃってる感じはありますよね。

──リマスタリングに際してバンドが留意した点というのは?

SEIKI:メンバー内で話していたのは、“長く聴いていると疲れるよね?”という印象がまずあって。高音と低音がアンバランスな部分もあったし。

TAKAHIRO:耳に優しくないっていうか、憤ってるじゃないですか? その憤りを消したほうがいいんじゃないか? って。

SEIKI:まぁ、本来は優しくする必要もないんでしょうけどね。ハードコアな音楽として聴ける人も中にはいるんだろうけど、作った本人達が長く聴けない音源というのはちょっと厭だなと思って。そのマイナスだと感じた部分をプラスの方向に補うようなリマスタリングだったんですよね。

TSUYOSHI:聴きやすくしたつもりが余計聴きづらくなった気がしますけど…(笑)。凄くギチギチしてるっていうか。

SEIKI:そうかな? 俺はこのミット感が結構気に入ってるけど。

──特典映像としてエンハンスド仕様で収録されているライヴは、『Narrow Ways』のレコ発ツアー・ファイナル“Learn It From Lone vol.6”(1999年8月21日、下北沢SHELTER)ですけど、今観ても新鮮ですよね。

SEIKI:自宅に50本以上あるテープを引っ張り出して、全部観たんですよ。その中でもこの『Narrow Ways』のレコ発のライヴが個人的に一番思い入れが深かったし、最も輝いてるように見えたんですよね。あの映像を編集している時に、当時のNahtをまるで自分のバンドじゃないかのように客観視してしまった。ヘンな話だけど。

TAKAHIRO:あの映像は俺、恥ずかしくて直視できなかったですね。若すぎるし(笑)。昔の作品を否定する気は更々ないですけどね。

──さっきも話しましたけど、『Narrow Ways』新装盤を聴いた後に『In The Beta City』を聴いてもちゃんと地続きであることがよく判りますね。

SEIKI:リマスタリングも、2作とも同じPeace Music Studioでした。

──でも、ひとまず現時点ではこの『Narrow Ways』の収録曲を含めて活動休止前の楽曲はライヴでは封印、と…。

SEIKI:技術的な面でもマインド的な面でも、今はできないかな。過去に発表してきた作品に対して責任を放棄したということではないですよ。本気でやりたくなったらいつかやると思う。ただ、「A Couple Days」での絶叫とか、今の自分にはやれない。やったら立ち直れないくらいのダメージを受けるだろうし。実際に当時、「A Couple Days」で絶叫すると首筋の血管がブチッと切れる音がライヴ中に聞こえましたから。打ち上げで酒を呑むと翌日は使い物にならなくて、自分でよく“燃え尽き症候群”って呼んでたんだけど、何もできないんですよ。それくらい絶叫するのは命懸けだった。あのボーナス映像もよく見ると、俺が絶叫して立ちくらみする瞬間が何ヵ所かあるんです。実際によくステージ上でオチてましたからね。一瞬、意識がなくなることがよくあったし。

──そうやって意識を失うほど絶叫するような唄い方は、今のNahtに必然性は感じないですよね。

SEIKI:まぁ、絶叫は相変わらずしてますけど、質が違うものになってる。満たされている部分もどこかにあるんでしょうけどね。昔は天井に手が届くほどの小部屋から絶叫していたけど、今はいろんな人達と温かい関係を持てているし、独りで寂しい感じでは全くない。ファーストのオリジナル・ジャケットにあった“憤り”って文字も、再発するに当たって消したし。もう要らないと思ったから。

──今のNahtにとっては、憤りよりも豊潤な音楽を作りたいというピュアな思いこそが楽曲を生み出す最大の原動力になっている、と?

SEIKI:うん。でもそれはどのバンドも同じ気持ちから始まってるんじゃないかな。その中で俺達みたいなバンドがいてもいいと思うし、誰にもこの存在を消し去ることはできないわけだし。事の始まりはインディーズ・ミュージック、独立した音楽が好きでこの3人が集まってるわけだから。自分達自身で活動の統制が取れていて、まず自分達が楽しめる音楽を一歩でも二歩でも突き詰めていきたい。やりたいのはそれだけですね。

──生活という土台がしっかりあった上で音楽を奏でるという在り方が、今のNahtには理想的な形なんでしょうね。

SEIKI:FUGAZIが再結成しないのも、メンバーが音楽よりも家族のほうにプライオリティを置いているからなのがよく判るし。だから、「再結成してくれ!」という声を乱暴に届けたくない。

──今後はこのマイペースな活動を維持していく方向ですか。

TSUYOSHI:とりあえず、音楽を楽しむだけの努力は惜しまないくらいの心持ちでいたいですね。

SEIKI:今よりもっとマイペースに行くかもしれないし、一歩一歩コントラストの強い歩みだけをしていきたい。川の流れのように自然に。

──バンドの自主企画を今敢えてやろうとしないのも、焦らずに活動していきたい姿勢の表れなんでしょうか。

SEIKI:今は待ち合わせをしたくないんですよ。待ち合わせに遅れそうになったとして、そこで無理に走ることをしたくない。昔は時代と待ち合わせしている感覚があったんですけどね。“急げ! 急げ!”っていう。でも、そうやって体裁を繕うことも馬鹿馬鹿しく思えるようになったし、結果的に失うことのほうが大きかった。自分達のやり方から自分達自身が学んだことなんですよ。いい音楽は10年、20年経っても名盤として普遍的な輝きを放っていると思うし、発表から8年が経過した『Narrow Ways』を未だにたくさんの人達が話題にしてくれるのも、作品が決して古くならずに普遍性があるからだと俺は思うんです。今作の『In The Beta City』もそうだけど、俺達はこれからも常にそういう作品を作っていきたいんですよ。流行りに乗っかった過去の遺物にだけは絶対になりたくないですから。

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