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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】Naht(2007年8月号)- 6年振りに放たれたディベロップメント集『In The Beta City』そして紆余曲折を経て辿り着いた"純粋に音楽を楽しむ"境地

6年振りに放たれたディベロップメント集『In The Beta City』そして紆余曲折を経て辿り着いた“純粋に音楽を楽しむ”境地

2007.08.01

今の自分達なら絶対にいいものが出来る

──前作がJay Robbinsのプロデュースだったのに対して本作はセルフ・プロデュースですが、前作以上のものを作るプレッシャーは相当ありましたか?

SEIKI:俺はなかったですね。プロデューサーがいなくても、今の自分達なら絶対にいいものが出来る自信があったから。

TSUYOSHI:この2人と一緒なら大丈夫、っていう安心感も俺にはあったし。

TAKAHIRO:Nahtは今も昔も、レコーディングに入ると曲がガラッと変わるところがあるんですよ。今までは“どうしよう?”って戸惑うことが多かったんですけど、今回はスタジオで曲が出来上がっていく過程を素直に楽しむことができた。

──レコーディングは短期間に集中して臨んだんですか?

SEIKI:レコーディング期間は実質3週間弱。今回、特に煮詰まることなく作業が進んだのは、エンジニアの大原さんの力量に頼る部分も大きかったんですよ。決して出すぎず、空気を読んでさり気なくアイディアを提示してくれたから、凄くやりやすかった。「Calvanize Me!」のキックでシンセ・ドラムを使っていて、他の曲でも使いたいと思っていたんだけど、「こういうのはアルバムの中の1曲でいいんじゃないですか?」とアドバイスしてくれたり。スタジオに籠もっていると、バンドはまるで小数点を探すような作業になってくるけど、大原さんは常に正数の部分をしっかりと見てくれるから、出来上がりへのいざない方は凄くうまくやってくれたと思う。

──基本的には、SEIKIさんの中である程度形になった曲をスタジオに持ち込む手法だったんですか?

SEIKI:ケース・バイ・ケースですね。ある程度出来ている曲は最初から2人に説明しますけど、「Parallel Lines」みたいに一番最後に飛び込みで出来た曲もあるし。でも、このアルバムはスタジオでのジャム・セッションから出来上がった曲が多いんですよ。曲がシンプルになったぶん、そういうことが成立したんだと思う。複雑な曲にはペンと紙を用意して作り上げていく作業も必要だけど、今回はグルーヴ感やノリを重視したので。

──「Parallel Lines」のようにアルバムのリード・チューンとしても相応しい曲が即興で生まれるなんて、Nahtが今如何にいい状態にあるかの表れじゃないですか。

SEIKI:そうですね。バンドの中で通っている空気感みたいなものがうまく反射したんだと思う。

スクリーンショット 2020-09-03 14.51.32.png──楽曲のゴールは敢えて設けずに、TSUYOSHIさんやTAKAHIROさんにのりしろを委ねる部分もあったんですか?

SEIKI:2人で作ったものを聴かせてもらって、そこにギターとメロディを乗せていく作業も結構したし、そういうのも新鮮だった。結局、人が増えれば意思を伝えていく時間もそれだけ必要になるわけだし、今はこの3人だからそんな時間も要らないんですよ。付き合いも長いし、何を考えているのかもよく判るし。

──本作で、リズム隊が主導となって完成した曲というのは?

TSUYOSHI:「Edie! Edie!」はベーシックを俺達で作って、レコーディングの直前くらいにSEIKIさんがちゃんと歌を付けてきて、“へぇ、こうなったんだ…かっけぇ!”と思って(笑)。

SEIKI:「Moving Gravity」もフレーズから出来た曲だよね。これもレコーディング直前に歌を付けた。さっきTSUYOSHIが話してたみたいに、俺も心をフラットに保つことを心懸けていたから、曲作りの段階では余り無理をしなかったんですよ。レコーディング・プランが持ち上がって、8~9曲くらいの骨組みを出さなきゃと思った時に、いつも自分が陥りがちな過剰な焦りをなるべく無視するようにしたんです。ニュートラルな状態であることに極力努めて。まぁ、平たく言えば変わったんでしょうね。

TSUYOSHI:変な喩え方かもしれないけど、今のNahtは草野球をやってるような感じなんですよ。あくまで趣味なんだけど、ユニフォームは全員でちゃんと揃えてみたり、定期的に試合をやってるみたいなね。俺は敢えて趣味という言葉を使いますけど、趣味じゃないと音楽はできないし、過剰にプレッシャーを背負うつもりは毛頭ない。

──でも、草野球のチームがプロのチームに勝つことも時にありますからね。たけし軍団みたいに(笑)。

TSUYOSHI:そういう感覚でいいのかもしれないですね。好きでやってるからこそ真剣だし、勝てる時もある。

SEIKI:自分の好きなアメリカのインディー・バンドを見ても、自分達が音楽を楽しむことからすべてが始まっている。音楽を長くやり続けていく過程において、音楽がビジネスに置き換わってしまうこともあるだろうし、俺自身の経験もあってそういう世界ももちろん理解できるけど、今のNahtはそういうショービズ的な発想よりもインディー・ライクなほうがいい。今回のリリースにあたってdisk unionを選んだのもその表れで、インディーだけど流通はしっかりと全国まで行き届いているし、Nahtのために“SECRETA TRADES”という新しいレーベルを立ち上げてくれたりもした。そういう部分でのフィット感は凄くある。

前作と対照的なレコーディング環境

──そうした今のバンドのフラットな在り方は、やはり活動休止期間があってこそですよね。

SEIKI:そうですね。目から鱗が落ちたような感覚もちょっとあったし。

──Naht休止中にSEIKIさんが展開したソロ・ミッションにおいて、音楽を奏でる喜びを取り戻したことも大きく作用したんじゃないですか?

SEIKI:うん。あの経験があったからこそ、自分という存在を心の中で支えられた部分は確かにありますね。

──SEIKIさんがソロ・ミッションで試みたテクノロジーの導入が、この『In The Beta City』にも活かされているようにも感じましたけど。

SEIKI:よくそういうふうに言われるんですけど、自分の中では特段意識はしてないんですよ。ソロをNahtの代わりにやってるつもりは一切ないし、一人のプレイヤーとしてその時点でできることをやろうとしただけです。ソロでiPodを使ったのも、iPodを買った時に“これは楽器としても使えるな”と思っただけだし。

──また、本作の収録曲は1曲1曲が非常に簡潔で、良質なショート・ショートを読み繋いでいく感覚がありますね。曲順の流れもよく考え抜いた上で構成されているのが窺えるし。

SEIKI:そこがアルバムを作る上での醍醐味だし、難しいところでもありますね。1曲1曲を磨きすぎて完成度が余りに上がってしまうと、その曲が周辺の曲に及ぼす弊害みたいなものが起こってしまう。そのまま40分というタームを過ごした時に、歪な並びに思われかねない。その40分間は自分達が聴き手の耳を独占できる唯一の時間だから、曲の並び方には慎重でありたいんですよ。曲順はマスタリングの時までずっと悩んでいたし。

──曲順がやっと決まったかと思いきや、最後の10曲目に入る予定だった「Ill Beat Awakes」が6曲目になったり、最後の最後まで変動がありましたよね。

SEIKI:ペンタグラフのような完璧なバランスにしようと思って、悪あがきは最後のギリギリまでしましたね。「Ill Beat Awakes」は今のライヴで一番最後にやることが多くて、昔の俺達で言えば「Real Estate」に当たる曲を敢えてアルバムの最後に持ってこなかったのは、そこで完結させたくなかったからなんですよ。中途半端でもさり気ない終わり方のほうがいいと思えた。自分の好きな海外のアーティストのアルバムにも、“こんな曲で終わるのか?”と感じるものがあるけど、それも敢えてそうしているんだと思う。だから「Ill Beat Awakes」も、最後に締めるよりは真ん中に持ってくることで前後の曲を盛り上げるほうが今作には相応しいと思い直して。

TAKAHIRO:曲順に関しては完全にお任せだったんですけど、確かにやり直したほうが流れは良くなりましたね。「Ill Beat Awakes」を真ん中に置くのも最初はどうかと思ったけど、結果的に並びは完璧だと思いますよ。

TSUYOSHI:今回はレコーディングの日程がギッチリと詰め込まれてなくて、合間、合間に小休止して曲を冷静に聴けたんですけど、それが結構大きかったと思いますね。

SEIKI:前作は海外レコーディングで、ずっとホテルに缶詰だったから。帰国は1日も延長できないという状況下で作った前作とは対照的に、本作は国内でリラックスして録れたし、そんな環境も今回はいい方向に作用したと思う。

TAKAHIRO:そうは言っても、日数は余裕あるのに今回も結構焦っちゃったんですけどね(苦笑)。急いで1日に8曲録ってみたり、それでも何度か録り直してみたり…。

──日程にゆとりがあると、何度もやり直したくなりませんでしたか?

SEIKI:確かにトライすることは選ぶけど、やっぱり最初のテイクがいいんですよ。それはヴォーカルも含めてね。今回、半分くらいは一発目に録った歌を活かしてる。助走期間をしっかりと作り込めていたし、何回もチェックをしてスタジオに挑めたから。

──そういういい意味でラフなスタンスで臨めば、まだまだ前に行けますね、Naht。

SEIKI:ギスギスした感じは全くないし、敢えてレイドバックすることも凄く大事だと気づきましたから。俺達の作る作品は、今まで割と肩肘張ったように見られがちだったんだけど、そういう先入観より今は“一緒に楽しもうよ”っていう感覚のほうが大きい。

──いわゆるEMOの潮流を生んだ先駆者としてNahtを理解したつもりでいるオーディエンスにこそ今のNahtのライヴを観て欲しいし、この『In The Beta City』を聴いて欲しいですよね。

SEIKI:そうですね。

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