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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】平田博信(Swinging Popsicle)×杉山オサム(STUDIO IMPACT)×高橋浩司(HARISS)(2007年8月号)- 何でこんなにいい音が雑然としたスタジオで出るのか!? STUDIO IMPACTと杉山オサムのレコーディング・マジックを徹底解明!

何でこんなにいい音が雑然としたスタジオで出るのか!?STUDIO IMPACTと杉山オサムのレコーディング・マジックを徹底解明!

2007.08.01

我がLOFT PROJECTが快適なレコーディング環境とコスト面の良心性を追求すべく設立したSTUDIO IMPACTは、メイン・エンジニアの杉山オサムの手腕と人柄もあり、数多くのバンドマンから絶大な支持を得ている。最寄り駅の西武新宿線・下井草駅から徒歩5分、新青梅街道に面したビルの2Fにある小さなスタジオではあるが、リラックスして雰囲気の良いレコーディングをするには絶好の環境だ。このSTUDIO IMPACTで録れる音と杉山の技巧に惚れ込み、杉山とは旧知の間柄であるHARISSの高橋浩司、Swinging Popsicleの平田博信の両名を迎え、他のスタジオにはないSTUDIO IMPACTの魅力と特性(スタジオ周辺の食情報を含む)について存分に語り合ってもらった。(interview:椎名宗之)

IMPACTはカジュアルな雰囲気で煮詰まらない

──高橋さんがSTUDIO IMPACTで初めてレコーディングしたのは、THE TURN-TABLESの『MAKE A TRICK』(2004年10月発表)でしたよね。

高橋:ええ、それが最初です。その後にPEALOUTのライヴ盤『PIANOMAN R&R SHAKE, SHAKE, SHAKES!!』(2005年9月発表)のミックスがあって、今年に入ってからHARISSのファースト『POP SAVE US』(2007年3月発表)があって、IMPACTにはホントお世話になりっぱなしなんですよ。

──他のスタジオにはないSTUDIO IMPACTの良さとはどんな部分ですか。

高橋:うまく言えませんけど、単純に自分に合ってるとしか言い様がないというか。それはこのスタジオの空気感であったり、オサムさんの人柄であったり。PEALOUTのミックスをした時も、“これで解散は悔いなし!”と思わせてくれるような文句ナシのアルバムが作れましたからね。THE TURN-TABLESの時も有り得ないくらい録りの作業が早くて、2日くらいドラムを叩いて、後はずっと絵を描いてましたから(笑)。

──ああ、ジャケット周りにも使われた、泣く子も黙る高橋画伯のあのイラストですね(笑)。

高橋:ええ(笑)。とにかくIMPACTではドラムを気持ち良く叩けるんです。PEALOUTの時に何度かニューヨークでレコーディングをしたことがあるんですけど、その時叩いたドラムの感じに凄く似てるんですよ。自分の音がしっかりうるさいというか。THE TURN-TABLESの1曲目のドラムを録った時から凄く好きなスタジオなんですよね。

杉山:ありがとうございます(照れ笑)。PEALOUTのライヴ盤で僕が大事にしたかったのは、ライヴの臨場感がまず第一。最終的にはオーディエンスの熱気みたいなものをどう再構築するかがライヴ・レコーディングの醍醐味ですから。でもね、THE TURN-TABLESにしろHARISSにしろ、高橋君が参加したバンドはリズム録りの記憶がほとんどないんですよ(笑)。

──あれ!?(笑)

杉山:いや、それはむしろいいことなんです。どうやって録ったか余り覚えてないっていうのは、それだけスムーズに作業が進んだってことですから。時間が掛かった部分だけは覚えてるんですけどね。

高橋:そうですよね。僕も正直、余りよく覚えてないんですよ(笑)。

──オサムさんから見たSTUDIO IMPACTの特性というのは?

杉山:ウチのスタジオはマンション改造型じゃないですか? 大きいスタジオみたいなスペースの使い方はできないし、天井が低いぶんロウが回って、綺麗な音が出せるというわけにはいかない。でも、それが逆に良かったりするんですよ。いい意味で雑然とした感じが出るというか。それを利用して録ろうというのをいつも念頭に置いてるんです。狭い所だけど、この部屋を使ってる僕らの愛情が確実に音に出ると思うし、そこは自分でも好きなところですね。東京のスタジオには珍しくロビーに窓があって、煮詰まることも少ないし。

高橋:そう、演奏する側にとっては時間の経過が判るのが凄く大事なんですよね。夜になってIMPACTの窓から人通りが少ないのを見ると、「ぼちぼちレコーディングやめない?」なんて話になったりもするし(笑)、ダラダラやらなくて済むんです。だからIMPACTは、自由にやらせてもらって、いい部分だけをちゃんと録ってもらえるっていう印象が僕の中にはあるんですよ。

平田:僕らはいつも自分達で素材を用意してオサムちゃんにミックスをお願いするので、IMPACTで録音したことはほとんどないんですけど、スタジオの密閉感みたいなものがないのがいいと思いますね。カジュアルな雰囲気で、煮詰まることがない。それが僕らみたいな宅録派のバンドマンにも合ってるんじゃないかな。

──平田さんは、Swinging Popsicleの『楽園主義 swinging of eden』(2002年6月発表)がオサムさんと関わった最初の作品ですよね。

平田:そうですね。オサムちゃんとは、エンジニアとして出会う前にまずバンドマンとして出会ってるんですよ。以前からオサムちゃんのパーソナリティや音楽の趣味を理解していたし、その頃僕らが志向していたシカゴの音響シーンもオサムちゃんは詳しかったから、コラボレーションをお願いしたんです。その作品で期待以上の気持ちいい音が出せたので、それ以降『transit』(2004年3月発表)、『Go on』(2007年5月発表)と3枚続けてお世話になってます。

杉山:宅録のミックスも凄く楽しいんですよ。平っちのドラムの録り方がどんどん巧くなってるのも判るし(笑)。

平田:(笑)そうやってオサムちゃんに褒められるのが楽しみな部分はありますよ。見えない部分でオサムちゃんと競争してる意識はいつもありますね。

杉山:Swinging Popsicleみたいに何にも情報のないところから曲が集まってきて、その後を任されるっていうのも凄くやり甲斐のある作業なんです。自分が一から録ってる作品よりもアクティヴになる瞬間すらありますからね。“意外な引き出しがあるんだな”って思われたい部分もちょっとあるし(笑)。やっぱり、平っちみたいに古くからの知り合いだからこそヘタは打てない。僕のミックスでドキドキして欲しいしね。それはどの作品もそうだけど、アルバムを何枚も任せられればその意識はより強くなりますね。

平田:僕らはオサムちゃん独自の色を付けて欲しいから、あらかじめ余白を作って素材を渡すんです。で、オサムちゃんがそこに手を加えてくれて、“あれ、こんなところにフィルが入ってる!”っていうようなサプライズが毎回あるんですよ。そんなコラボレーションが凄く楽しい。それと、僕らのアイディアにとことん付き合ってくれるのがオサムちゃんを信頼してる一番の理由ですね。

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