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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】平田博信(Swinging Popsicle)×杉山オサム(STUDIO IMPACT)×高橋浩司(HARISS)(2007年8月号)- 何でこんなにいい音が雑然としたスタジオで出るのか!? STUDIO IMPACTと杉山オサムのレコーディング・マジックを徹底解明!

何でこんなにいい音が雑然としたスタジオで出るのか!?STUDIO IMPACTと杉山オサムのレコーディング・マジックを徹底解明!

2007.08.01

音楽を刺激的にすべく作用する雑味

13_ap01.jpg──「オサムちゃん、それやりすぎ!」みたいな部分はないんですか?

平田:うーん…強いて挙げるなら、レヴェル突っ込みすぎなところかな(笑)。僕らは必ず2つのヴァージョンを作ってもらうんですよ。レヴェルがグイッと飛び込んでくるヴァージョンと、ちょっと抑えめなヴァージョンと。それはマスタリングの時にエンジニアと相談して、どちらが音のはまり具合がいいかを決めるんですけど。でもやっぱり、オサムちゃんの選択が吉と出ることが多いんですよね。『Go on』に関して言うと、生演奏で録った楽曲と打ち込みで録った楽曲とが半々あって、それぞれ別のセッションで録ったんです。その2つのセッションを、歌という素材でオサムちゃんが巧く繋げてくれたんですよ。あれは本当に見事でしたね。

杉山:それは素直に嬉しいな。『Go on』も『POP SAVE US』も、僕は普段から家で結構聴いてるんですよ。自分が関わった作品というのは置いておいて、バンドの持ち味がどちらもよく出てるから。アーティスト・パワーがあって、バンドの良さが出し切られてる作品は、自分が携わったものであっても、自分の手から離れて一リスナーとして聴けるんです。

平田:『Go on』をマスタリングしてくれた方も、このアルバムをエイジングに使ってるって言ってましたよ。

高橋:僕も『POP SAVE US』をレコーディングをする時の基本として聴いてますから。『Go on』は、ポップスな方向に行きかねないところをちゃんとロックなアルバムになってるのがオサムさんの手腕だと思う。決して無機質なものになってないし。

杉山:仮に打ち込みのミックスでも、人の手が加わった意志の感じられるものにしたいんですよ。そうすれば必ず有機的なものになるから。

──『Go on』と『POP SAVE US』の共通点を敢えて挙げるなら、どちらも歌の良さが際限まで引き出されているところですよね。

高橋:そうですね。だからHARISSは最初のレコーディングでハードルがもの凄く高くなっちゃったので、これからが大変ですね。『POP SAVE US』であれだけのことができちゃったから。今度iTuneシングルとしてリリースする「NEW WORLD」は別のスタジオで録ったんですけど、さっきオサムさんも言ってたように、IMPACTのほうが猥雑な感じが出るんですよ。どれだけミックスしてもザラついた感じが最後までちゃんと残ってるというか、いい意味で耳障りな音にちゃんとなってくれる。

──それこそがIMPACTマジックかもしれませんね。

杉山:そうかもしれない。他のスタジオで仕事をすることもあるんですけど、“この曲だけIMPACTのドラムの音にしたいな”って思う時が実際ありますからね(笑)。もちろんいいスタジオにはそれだけの良さが必ずあるんだけど、どんなスタジオでもキャラクターの見える所が僕は一番好きですね。お店でもそうじゃないですか? 洋服屋にしてもレストランにしても、その店で働いてる人の温かさがお客さんに伝わったほうがいい。ライヴハウスなんてまさにそうですよね。

高橋:僕らで言えば、IMPACTは4人の個性が凄く出しやすい。スタジオがそういう気持ちでやってるからじゃないですかね。“自分の叩くドラムってこうだったなぁ…”って改めて思わせてくれるんですよ。良くも悪くも素が出るんだけど、レコーディングってそういう瞬間を切り取ったものが盤になるわけだし、IMPACTはそういう作業に凄く適したスタジオだと思いますね。

──そこはやっぱり、オサムさんの人柄に担う部分が大きいんでしょうね。

平田:うん、それは凄く思いますよ。実は僕、HARISSが最初に作ったCD(『DEMO 5 POPS!!』)のミックスをやったんですよ。録った人が別にいて、「レヴェルを揃えるだけだから、平田頼むよ」って高橋君が素材を持ってきて(笑)。

高橋:そうそう。そんな時だけ先輩風を吹かせて(笑)。[編註:高橋と平田は大学の先輩・後輩関係で、共にMOTHERSというバンドをやっていた]

平田:その自分が携わった作品と『POP SAVE US』を聴き比べると、音質が違うのは当たり前だけど、録ってるテイクは『POP SAVE US』のほうが格段に恰好いいんです。レコーディングは物理作業だから、“ここでこうやればこういう音になる”という道筋と方程式があるじゃないですか? だけど、『POP SAVE US』に関しては“なんでこんないいテイクが録れてるんだろう?”っていうのがあって。誰とは言いませんけど、演奏もいい加減なところが実はあって(笑)、でもそれがアルバムを刺激的にする雑味としてちゃんと作用してるんですよ。その雑味っていうのは、誰かが判断しないとOKテイクにならないじゃないですか? その雑味をOKにしたディレクションを含めて、IMPACTでどんなことが行われたんだろう? っていうのは凄く興味あるんですよね。僕が思うに、音にはならないこのIMPACTで行われた作業──メンバーとオサムちゃんとのコミュニケーションだったり、オサムちゃんが言った気の利いた一言だったり、そんなものが作用してるんじゃないかな、と。

高橋画伯はアトリエとしても利用!?

高橋:オサムさんが迷うことなく「今のでOK!」って言ってくれると、それがワン・テイク目でも“これでいいかな?”と思えるんですよね。“ホントに大丈夫かな?”と思っても、聴いてみるとまず間違いがない。『POP SAVE US』も、3回演奏した曲があるかどうかっていうくらいだったし、録るつもりで叩いてないテイクが採用されたケースもあるし。

杉山:ギター・ソロのミスとかの失敗はあるにせよ、やっぱりワン・テイク目って確実にいいですからね。それは何があっても押さえておくことにしてるんです。エディットする気になればそうすればいいと思ってるし、「今の消していいよ」って言われても、僕はまず消さないんですよ(笑)。HARISSは仮歌でOKなのも多かったんです。ワン・テイクどころかゼロ・テイクだけど(笑)、最初に無意識で唄ったものは“唄いたい!”っていう思いが詰まってるから、多少粗っぽくても間違ったテイクではない。スタジオに持ってくるまでに何度もリハを重ねてるだろうし、すでに熟成した形になってることが多いですからね。

平田:オサムちゃんの音の演出との相乗効果なんだろうけど、「WHO KILLED?」の8小節のドラムのロール・プレイにはシビれたねぇ…。

高橋:ホント? そういうのやってたっけ?(笑)

平田:頼みますよ、先輩(笑)。ここ1年で聴いたロックンロールの中で、最も刺激的なプレイのひとつだったんですけど。

高橋:そこまで言ってくれるなら、今度からどの曲にもロール・プレイを入れようかな(笑)。

──ストレートなロックンロールを奏でる高橋さんのようなタイプもいるし、純度を上げて録音していく平田さんのような宅録派もいるし、多種多様なバンドマンの資質に対応できる才能がエンジニアには求められますよね。

杉山:でも、凄く面白いですよ。ウチのスタジオは音を録れるブースが3つとコントロール・ルームがあって、完全に分かれてるので、僕はヴォーカリストがどんな表情で唄ってるかは全然判らないんです。だけど、マイクから乗ってくる声が如実に物語ってるというか、今何を考えてるかが充分判るんですよ。“今ひとつピンと来てないかな?”とかね。よく「演奏してる人の顔が見えなくて不便じゃないですか?」って訊かれるけど、僕は全然不便じゃないんです。

高橋:僕はブースに入ってるよりも、ここのロビーにいることのほうが多いかも。

──ああ、画伯はここがアトリエみたいなものですからね(笑)。

高橋:そうですね。ここでだいぶ絵をマスターしたから、それがIMPACTでの一番の成果かもしれませんね(笑)。でも、僕はレコーディング中に相手の顔が見えないとイヤなほうなんですけど、IMPACTだけは大丈夫なんですよ。そういうのは初めてですね。

平田:バンドっぽいバンドには適したスタジオなんでしょうね。ブースが離れてても、プレイとか音の呼吸で以心伝心し合えるというか。僕らはIMPACTでよく誕生会をやらせてもらいましたけど(笑)、やっぱり凄く居心地がいいんですよ。

──オサムさんはエンジニア単体としてサンボマスターからも絶大な信頼を置かれていますよね。

杉山:有り難いことです。基本的に彼らは気持ち良くプレイできたらOKなんだけど、作品を構築していく段になるともの凄く細かくなるんです。まぁ、曲にもよりますけどね。ミックスまで入れて1時間も満たないような曲もあれば、凄まじく時間を掛ける曲もある。その落差が面白いですね。逆に言うと楽曲に対してのブレがないんじゃないかな。

──高橋さんや平田さんのようなキャリアのあるバンドマンだけではなく、IMPACTはレコーディング初心者にも懇切丁寧に向き合うスタジオでもありますよね。

杉山:自分がやる時は、相手が誰であろうとスタンスは変わりませんよ。初心者の方とはどんなサウンドにしたいのかを事前にちゃんと確認するようにしてるし、レコーディングの合間の雑談からその人達のキャラクターを掴めるように意識してコミュニケーションを図ってますね。僕みたいな仕事をしてる人は誰でもそうだと思うけど、ちょっと心理作戦に近いところはあるのかな(笑)。まぁ、初心者の方はいくらでも気軽に相談して欲しいですね。レコーディングのやり方や専門用語すら判らなくても全然大丈夫だし、誰でも最初は初心者なんだから。先月号のRooftopで表紙を飾ったa flood of circleだってそうだったしね。彼らは凄く吸収力が早くて、グングン成長していく様を傍らで見ているとなかなかスリリングですよ。

高橋:僕らもまだまだスポンジのように吸収していきたいんですけどね(笑)。

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