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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉川晃司 前編(2007年4月号)-捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

2007.04.01

どれだけ絶望してもくたばるまいぞ!

──「TARZAN」は今の時代において納得の行かないことに対して反逆の旗を立てた曲ではあるけれど、虐げられた弱者に対する共感や温かい眼差しというものが、このアルバムの大きな魅力のひとつになっていると思うんです。かつては自分さえピュアに生きられればいいというところで完結していたものが、エールを贈る感覚に移行してきたと言うか。

吉川:たとえば宮本武蔵のような孤高の存在になる覚悟があるのなら、そういう発想もいいと思うけど、武蔵は結局のところ個でしか成り立ちようもなく、言わば社会との決別ですよね。それもいいと思った時期はありましたけど…それじゃ伝わらないよなぁとある時思い直したんですよ。自分は決してアウトローになりたいわけじゃないしね。アウトローって呼ぶと響きは良いわけだけど、その実はなんだろうか、たとえばサファリパークにいる肉食獣のような、本人はサヴァイヴァルを生き抜いてる気満々なんだけど、ほら、よく見渡せば檻に囲まれたサファリパークの中、餌は飼育された足の鈍い兎を狩ってご満悦、天敵はまた別のサファリ風の檻ん中だからご安泰! みたいなね。そんならやっぱり。たとえば僕が虎だとして、強ええ奴らは東京というちっせえ檻に集まってるらしいという噂を聞いてジャングルから上京するわけですよ、腕試しにね。そこには鍵のかかってない檻があって、逃げたけりゃいつだって出られる枠ではあるんだけれど、戦うんなら己から入っていかなならんわけです。で、そこにはブローカーがいて、やれ手枷、足枷をつけて上手くコントロールして一儲けしてやろうと企んでいる。何やら最初は踊らされてるフリをしなきゃならねぇ、掟もあるらしいぞ、と。そんじゃあ~ってんで対戦してるうちに操ろうとする糸をバシバシと断ち切ってゆくわけなんだけれども、いやはや中にゃシブトイ操り糸もあってねぇ、全部取っ払うにゃあ一苦労、暫く時を要するわけだなぁ。しかしまぁ、強ええ奴とか権力者だの、ブクブクな金持ちとやりたいだけ対戦はできるわけだから、やっぱり虎は少々手足が不自由であってもね、そこから出てゆこうとはしない。出てゆけば己に負けることを知っていると(笑)。だからまぁ、鍵はいらねぇ檻ね。アルティメットみたいな感じ?(笑) ジャングルに帰るのはつまらねぇし、サファリパークに住むのも嫌だなと。…どうでしょうか? 事の喩えが判りにくいかなぁ?

──いやいや、凄く判りやすい喩えだと思いますよ。それと、周りの人間に対して「おまえをぜんぶ晒せよ」と促すパワーや説得力もこの「TARZAN」には充分ありますね。

吉川:でも、自分も40代になってある程度世の中の仕組みが判ってくると、反面では怖い部分もあるんですよ。勝負を挑む姿勢を貫くことは誰かを必ず傷つけることになるやもしれないし、犠牲も伴う。敵を後ろから殴って倒して、それでも勝ちは勝ちだとする若いうちはまだいいですよ。でも、この歳になると時に味方なのかもしれないエリアを潰さなければいけないようなイクサもある。その折り合いをどう付けるかはこれからの課題だし、自分が一番恐怖に思うところだし、そういう矛盾は正直あるんです。だから決して恰好いいことばかりじゃないんですよ。もう至極滑稽と言うか、ドン・キホーテみたいなところが多々あるわけなんです。

──でも、それが仮にドン・キホーテみたいだとしても、かつてはより孤高の存在だった吉川さんのイメージが、今回のアルバムではみんなが吉川さんのもとへ集ってくる感じはありますよね。最後の「Juicy Jungle」にしても、みんなで雄叫びを上げてジャングルの中で戯れている印象があって、そこが従来とは大きく異なると思うんです。

吉川:まぁ、少しは大人になったんでしょうね。「俺は孤独だぜ」と言ってみたところで、「じゃあ独りでやりなよ」と言われれば寂しい(笑)。日本という国がこれだけ強烈に疲弊している状況で、まず何より「みんな元気になろうぜ! モチベーション上げようぜ!」っていう意識がある。僕の友人に、上司に騙されて身代わりに責任を負わされた末に業界を追放された男がいてね。そんな卑劣な野郎はぶった斬ってやれー! と言いたいところだけれど、浮き世は複雑だからねぇ、悪くない連中まで道連れにしなきゃ斬るに斬れないような縺れ方もしてたりもして、断腸の思いで彼はそれを呑み込んで疲れきってしまうわけなんだけれど。どれだけ絶望してもくたばるわけにはゆかない、落とされようが落ちようがドン底の土を踏む一歩手前で踏ん張っておかないと。モチベーション、人間力の基礎体温みたいなものがなくなったら浮上できないですからね。どんな状況にあれ、誰しもがみな苦境に立ち向かって奮い立たないといけないし、それは自分自身に対しても常にそう思っていますから。そういった思いをこの『TARZAN』の中でひとつの本筋として託したかったんですよ。

──「TARZAN」がある一方で、一見アルバムのコンセプトから外れたような「ムサシ」という曲も収録されていますが…。これは言うまでもなく、宮本武蔵をモチーフにした曲ですよね。

吉川:そうです。作詞を手伝ってくれたjamに「なんでこんな曲を入れるんだ!?」と猛反対されたんですけどね。散々シバリを付けてアルバムの曲を作ってきたのにっていう。源義経がジンギス・カンになったという説があるように、「ターザンは実は宮本武蔵だったんだよ!」とjamに言ったら、「バカじゃないの?」って言われましたけど(笑)。

──でも、吉川さんの中ではターザンと宮本武蔵は一本の線で結ばれているんですよね。

吉川:そうですよ。サムライ・スピリッツとなんとなく重なる気がするし、孤高の存在という意味でもそうだし。

──「ムサシ」の歌詞は、「ぶった斬りやしょ」「滅多斬りやしょ」といった日常的な話し言葉ともまた違うインパクトのある言葉が使われていて、面白いですよね。

吉川:「ぶった斬りやしょ」という言葉はちょっと英語のノリに近いんですよね。基本的に日本語は一語一語切れちゃうんですけど、促音便、濁音便を多用した江戸弁は英語に近い感覚があるんですよ。

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7. ジャスミン
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