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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉川晃司 前編(2007年4月号)-捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

2007.04.01

強者に対するアンチテーゼとしての「TARZAN」

──ダンス・ビートは吉川さんの音楽を語る上で欠かせないキーワードですが、従来のダンス・ビートの切り口とは明らかに異なるサウンドがこの『TARZAN』で提示されていると思うんです。

吉川:いわゆる打ち込みモノっていうのは、かれこれ20年以上やってきていますからね。自分の中では、生のグルーヴを生み出す面白さや探求心がどんどん増えていく一方なんですよ。ダンス・ビートと言っても、プレイヤー全員で「せーの!」でやるのが一番いいと思うし、より生身な方向に行くのは僕の中で極々自然な流れなんです。今の時代、ダンス・ビートを人力でやることこそが逆にクールだと思ったりしてます。それは社会的背景も影響しているのだと思う。世の中なんでもかんでも合理化、デジタル化していく一方でしょ? ならばどうだろうか、身体で奏でることのほうが今はクールなのかもしれないじゃない?

──そのほうがよりダイレクトに、より深く伝わっていくものでもありますよね。

吉川:そうじゃないかと思いますよ。

──デビュー20周年の節目に村上“ポンタ”秀一さん、後藤次利さんとの3ピース・バンドでツアーを回った『Innocent Rock』('04年7月)、山下洋輔さんを始め総勢11名の豪華ミュージシャンを迎えたスペシャル・ライヴ『エンジェルチャイムが鳴る夜に』('05年12月)などを通じて得た経験も、この『TARZAN』に成果として表れているんじゃないですか?

吉川:そうですね。机上の空論で物事を進めてみても、自分はそれを血肉化できない質であるというのが大きいでしょうね。3ピース・バンドがいいだろうと頭の中で思っていても、実際にやってみないと判らないんですよ。知識はいくら積んでも知識でしかないと僕は思うんです。自分の身体を使って消化した後に、経験値として知恵を積んでいかなければ身になりゃしねぇだろと思う質なんですね。たとえばデジタルならデジタルそのものを全否定するわけじゃなくて、実際に自分でデジタル音楽をやってみてからその良し悪しを決めたいんですよ。コンピュータが要らないなんて僕は絶対に思っていないし、実際フルに使っているけれども。要は付き合い方であろうし、何がクールで恰好いいかっていうところで、要所要所において自分の美意識の中で選択していきたいんですよ。今どきコンピュータも携帯電話も使わないっていう人は逆にこだわり過ぎと言うか、そりゃちょっと意固地なんじゃないかな。

──「TARZAN」の歌詞は、巨万の富を得て傲り高ぶる者、そうした人間を時代の寵児として祭り上げる現代社会を生き抜く人間に対して、自分を全部晒して戦い抜けという強いメッセージ性に溢れたものですが、強きを助け弱きを挫く殺伐としたこの世の中をサヴァイヴする象徴としてターザンが選ばれたわけですよね。

吉川:そういう意図もありますね。自分が今一番言いたいことを象徴する存在がターザンだったんです。強い者ばかりが幸せを独占する今の世の中にうんざりしてしょうがないわけですよ。強い者と言っても心身が強いわけでもなんでもなくて、金や権力を持ってるんで強そうに見えるだけの連中を指すんですが、今の世の中、計る物差しがそれでしかないというのは如何にもお粗末だ。弱い者は虐げられ、不幸のドン底に突き落とされる。おいおい人間社会ってのはそんな薄っぺらなもんだったのかい? と。金や権力に躍起になる連中っていうのは汚れもヒドいでしょ、そんなものにはなりたくないなぁ。人間、いつか死ぬわけで、あの世に持って行けるわけでもあるまいし、いつか、結局は誰か他人の手に渡ってしまうようなシロモノ。それが判ってりゃそんなものに躍らされるのは愚の骨頂じゃないだろうか? と思っちゃうもんだから、そこに価値は見出せないんだな。じゃあ、人間はどう生きて何を残すべきなのかと考えた時に、その人それぞれの生き様や精神性…何を考え、どういうふうに生き抜いたのかが大事なものだと思ってしまうわけです。

──一方では、ターザンは孤高の存在の象徴として語られることもありますよね。

吉川:でもそれは人間が勝手に思うことであって、彼らは言葉を持たないぶん、人間の想像を遙かに超越した次元で動物とのコミュニケーション能力を持っているのかもしれない。言葉があるぶん、人間は裏切ったり嘘を駆使してしまうのかもしれない。少々キツい皮肉だけれど、そんなふうに思ってみたりもして。まぁ、ターザンは架空の人物ではありますけどね。

──でも、シンボリックな存在ではありますね。

吉川:ええ。現代における過剰な物質文明の向上(?)に対しての危惧的な意味合いもありました。モノはどんどん便利になって未来に向けて加速していくけれど、その根底を支えるべき精神文化が置き去りにされている、と言うか既にだいぶ死滅してしまっている。「まずいぞこれはっ!」「便利って幸せなのか?」という未来に対する落胆が凄くあるんですよ。物質的には豊かになる一方で、本当に欲しいモノはどんどん消滅してゆく現代社会を顧みた時に、ターザンはアンチテーゼでもあるのかなと。計る物差しが金や権威、権力一辺倒! それがこの先成熟するであろう資本主義の理想型だとするならば、それはドヒャヒャだよね? この頃テレビでよく耳にするセリフでね、「日本ではまだ定着していないけど、欧米では今や当たり前のことなんですよ」なんてのがあるけれど。欧米のほうが先に堕落しちまっただけの話かもしれないじゃない? 単純に先に資本主義が始まったぶん。なんでそうは考えないのかなぁ? その根本、基本構造がマズイものだったのかもしれないじゃない? そういう意味では、世界中のどの国だって発展途上の今なんだからねぇ。これが現代日本人の悲しい性なんですよ。アメリカに戦争で負けて、食べるものもなく“ギヴ・ミー・チョコレート”で戦後の復興が始まった最中に米国制作のコマーシャルが氾濫するわけだけれども、そこには、いつでも新鮮なものが食べられる大きな冷蔵庫が各家庭にあって、車もあって、奇麗なドレスを纏ったママが笑顔でテーブルに豪華な食事を運んでくるというなんとも豊かで幸せな光景! そりゃあアメリカンナイズされちゃうわけだよね。今の僕達が想像するだけでも無理もない話ではありますが、そういう欧米コンプレックスもそろそろ考え直さなければいけないんじゃないかな。決してアメリカ人が嫌いなわけじゃないですよ、実際友達もいるし。ただし、ヴェトナム戦争然り、イラク戦争然り、あの国政に対しては無性に腹が立ってます。

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1. TARZAN
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