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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】吉川晃司 前編(2007年4月号)-捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

捨てられぬもの、守り続けたいもの── 『TARZAN』で提示したロックの肉体性への回帰

2007.04.01

吉川晃司が『Jellyfish & Chips』以来4年振りに放つ通算16枚目のオリジナル・アルバム『TARZAN』は、躍動感に溢れたダンス・ビートと硬質なギター・ロックを融合させるというまさに吉川にしか生み出し得ない未踏の音像を見事に具現化した一枚であり、過去最高にメロディアスでエキサイティングな楽曲の数々は、先鋭性と大衆性が絶妙なバランスで共存したスタンダード性の高さを誇っている。タイトル・チューンの「TARZAN」に吉川が万感の思いを託した、強きを助け弱きを挫くこの浮き世を生き抜く現代人に対するメッセージの真意とは? 生まれながらの表現者として常にアウェイで勝負を挑み続けるその姿勢の根底にあるものとは? そうした問い掛けをしたくてミックス・ダウンを終えたばかりのK2氏を直撃した。その結果、本文を読んで頂ければ判る通り彼一流の反骨精神が如実に表れたインタビューとなったのだが、この『TARZAN』というアルバムは本来、純然たるエンタテインメント作品として理屈ぬきに楽しめるものである。先行シングル曲「ベイビージェーン」が温かい春の麗らかさを醸し出しているように、その表情は明るく柔和な笑みを湛えており、聴き終えた後に失くしかけた元気を取り戻せること請け合いの濃密なエネルギーに満ち溢れていることを付け加えておきたい。(text:椎名宗之)

自分が粋だと感じることを追求するだけ

──最新作『TARZAN』を一言で言えば、“生身の音楽”という印象を受けたんですよ。

吉川:ダンサブルなビートの上に今風の音色やフレーズを持ったギターがハマるという、ミスマッチなものが重なり合うのが面白いと思ったんです。ジーザス・ジョーンズがテクノやハウスとロックを融合させた手法で出てきた時に、“ああ、この手があったよね”と思ったわけですよ。ああいうサウンドは余りに個性的と言うかインパクトがあり過ぎて、刹那的な要素を孕んでいることも否めないんですけど、フランツ・フェルディナンドが出てきた時にも同じ印象を受けたんですよね。基本的にはバスドラが4つ打って、ハットが裏なだけなんですけど(笑)。要するに、そういうサウンドが自分にとって凄く新鮮だったんですよ。言うなれば、久しぶりに食べたものみたいな感じですかね。「懐かしい! ガキの頃によく食べたよなぁ…」って言うか、そういう瞬間って新鮮じゃないですか? でも、それでなおかつ味も微妙に今風に違って、新しくもある。ファッションでも、ジーンズで言えばベルボトムがスリムになって、またベルボトムに戻るという周期がありますよね。細くなったり太くなったりするネクタイもまた然りで。それは音楽も同様で、僕にはいわゆるディスコ・サウンドが凄く新鮮に聴こえたんです。自分が粋だと感じたものをやるってことでいいのかなと思って、サウンド的なコンセプトは基本的にディスコ・ビートで行こうと。

──1曲目の「TARZAN」に顕著ですが、そうしたサウンドと精神性が一体化しているところが大きな特徴だと思うんです。今の時代において新鮮と思えるビートとサヴァイヴァルしていこうとする意志が繋がることで、お互いを勇気づけていくと言うか。

吉川:そうですね。詞におけるコンセプトや精神的なものがサウンドとシンクロしていかないといけないと思ってますから。やっぱり、コアなファンは速い8ビートのロックンロールを求めてくるから、先行シングルの「ベイビージェーン」にしても賛否両論なのは当然だと思っていましたけど、保守的なものばかり作って「俺はロックだぜ!」って言ってることのほうが後ろ向きな気がするわけですよ。そこはどれだけ誤認されようが、今の自分がステキだなと思えることを追求するだけです。80年代のディスコ・ブームが終わった後の、いわゆるニュー・ウェイヴとかニュー・ロマンティクスと呼ばれた時代の音楽も、ひと回りして新しく感じられるように思えたんですよね。たとえば、ビリー・アイドルやユーリズミックスみたいな踊れる音楽は、8ビートなんだけど2拍でリズムが取れるようになっている。そういうのが自分の世代はド真ん中で、大貫憲章さんがツバキハウスでやっていた『ロンドン・ナイト』で流れる音楽は、ロックでも踊れるナンバーばかりだったんですよ。

──確かに、クラッシュの「Rock the Casbah」は充分踊れるダンサブルなナンバーですからね。

吉川:そうそう。あの曲も、当時『ロンドン・ナイト』で「この曲、なんですか?」って大貫さんに訊いて知ったんですよ。そういう懐かしさもあったし、フランツ・フェルディナンドみたいなイギリスの今の若いバンドはそういう音楽をリアルタイムでは聴いていないだろうけど、後から聴いて恰好いいと思えたんじゃないですかね。今回のアルバムの2曲目「プレデター」は、自分の中のイメージはビリー・アイドルなんですよ。緩いんだけど刺々しい感じ。1曲目の「TARZAN」にしても、典型的なディスコ・ビートにひとつのギター・リフがずっと鳴っている音を作りたいと最初に思ったんですよね。普段自分がやっているものよりも、もっとストーンズ的な余り歪んでいないカッティング・ギター・リフと言うか。作り方としてはド洋楽なんだけれども、そこに日本人らしい叙情的な感じを出したいと思ったんです。サビはずっと同じリフなんだけどコードが変わっていくところは、結構うまくいったと思ってますね。そういうのはなかなか計算してできるものでもなかったりするので、出来た時はかなり嬉しかったです。「TARZAN」は最初、アルバムから抜いていた曲なんですよ。曲自体はあったんですけど、レコーディング期間の最後の3日で急遽入れることにしたんです。

──この「TARZAN」という曲がなければ、画竜点睛を欠く作品になっていたでしょうね。

吉川:そうかもしれないね。この曲の代わりにあったのは、もっと今のダンスフロア・ロックっぽい曲だったんですけど、変化してゆく経緯としてはちょっと判りにくいかもなと思ったんです。やっぱり収録曲に詞がハマって、最後の1週間くらいにならないとアルバムの全体像は見えてこないんですよ。デモ・テープで適当な英語で唄っている段階だと、たとえば「Love Flower」という曲はブライアン・フェリーやデヴィッド・ボウイっぽく作れるわけです。でも、レコーディングで日本語詞を乗せた途端に凄く湿度が上がるんですよ。そういうのは、詞がハマってみないと俯瞰で見られないんですね。英語と日本語の基本構造の違いもあると思いますし、やっぱり日本語って凄く難しいんですよ。どうしてもベッタリしてしまいますからね。

非常に有益だったDISCO TWINSとの共同作業

01_ap02.jpg──「Love Flower」は、ソリッドなサウンドと日本語的な柔らかさが融合した独特の浮遊感があって、不思議な世界を醸し出していますよね。

吉川:「Love Flower」みたいな曲は、自分でも作っていると楽しいんですよ。もうニコニコ顔で作っちゃうんです(笑)。

──ブラック・ミュージックの一番肉体的な部分や衝動的な部分からプリミティヴな部分を抽出した結果、必然的にこうしたサウンドになった気がしますけれども。

吉川:仰る通りです。音楽を聴いて身体が自然に動くっていうのはそういうことですからね。自然に身体が動く音楽をやりたいし、そうなるとよりプリミティヴなもの、野性の感覚にグッと引き寄せられるんです。

──『TARZAN』というタイトルからして、野性とか本能、衝動という意味を強く表していますよね。

吉川:うん。音作りは歌のコンセプトとシンクロしたものにしたかったし、それにはダンス・ビートが不可欠だったんです。まぁ、ダンス・ビートやディスコは誤解されがちな言葉なので、使うことに慎重になってしまうんですけど…僕らの世代にとってディスコと言うと、やっぱりどうしても『サタデー・ナイト・フィーヴァー』的な世界になってしまうんですよね。目指したのはそういう、日本における第1次ディスコ・ブームっぽい感じじゃないんですよ。ブラック・ミュージックの本物感は、逆に排除してしまっていると言うか、ブラック・ミュージックに憧れて、でも出来ない滑稽さ加減を良しとする感覚。白人は黒人ほどのノリは出せないけれども、その白人がやるブラック・ミュージックこそが恰好良かったりする場合があるじゃないですか? タイミングがちょっとずつずれてしまってるんだけど、まぁええやないかっ! 大事なことは他にあるねん! みたいなね。

──ええ、凄くよく判ります。このアルバムには村上“ポンタ”秀一さん、坂東慧さん、菊地英二さん、そうる透さんなどいろんなドラマーの方が参加されていて、それぞれの違った肉体的なビート感が出ていますよね。ダンス・ビートでありながらも、最終的には生身のビートであるという。

吉川:そこはもちろんこだわりましたよ。ただし、じゃあ打ち込みマックスなデジタル物には拒否反応かと言うとそういうことでもなくて、結構興味あったりもするんでね。なんだろう、“隣の芝生にも寝てみにゃ判らんだろう!”的な感覚なのかもしれないけれど、“DISCO K2 TWINS”名義で『Juicy Jungle』を発表したり、日本武道館でのライヴにDISCO TWINSに参加してもらったのも、言うなれば右翼と左翼みたいな対極にあるものを己の中で融合させてみて、頭じゃなくて身体でそのミックス・ジュースを味わってみたかったりね。僕達みたいに楽器をやってる連中は、彼らが何を思って音にしているのか想像つかないところがあるし、その作業に直接触れてみたくてね。一度他流試合をしてみないことには、その体温は判らないですからね。なんと言うか、たとえば「グローヴをして殴り合いをするようなヤワなボクシングの連中とは勝負にならない」と話す空手家がいるとするじゃない? でも、実際にボクシングをやってみると、手袋を付ける拳は握りもまったく違うから、当たった時の痛さや破壊力の質がまるで違う。それは、彼が一度でもボクシングに触れてみないことには絶対に判らない境地ですよね。DISCO TWINSの関わりは、僕にとってそんな感覚に近かったですね。

──DISCO TWINSとの作業を通じて得たものはどんなところですか?

吉川:作曲における基本構造がまず僕らとは違いますよね。僕らの場合、Aメロ、Bメロ、サビがあるとしたら、サビが一番浮き上がるようにアレンジをするわけです、基本的に。それは歌謡曲もロックもポップも同じで、サビがドーンと来た後にAメロやイントロに戻る時はちょっと落としたり、サビをトップに持ってくる波を作り出すわけなんだけれども。彼らの世界が面白いのは、継続して踊っていられながらヒートアップしてゆくことが根幹にあるわけなんだろうから、曲の波が直線的に上昇していく感じなんですよね。その間にサビが来てもAメロに戻っても、右上がりの直線にするために曲の最後のほうにどんどん音を足していくから、1サビと2サビのオケがまるで違うと言うか厚みがね。言葉にすれば至極単純なことですけど、僕はそれに驚いてみたりして。彼らの曲にもサビはあって、「サビを持ち上げて強調したりしないの?」と訊いたら、「ゼロか100です」と言う。全部の曲がそうというわけではないけれども、曲作りのセオリーとしてはそういうものなんですよね。デジタル音楽のいいところも悪いところも自分なりに理解できて、凄く収穫がありましたよ。そういった経験も、この『TARZAN』の制作においてジャブとして効いてますよね。

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16th ORIGINAL ALBUM
TARZAN

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1. TARZAN
2. プレデター
3. ベイビージェーン
4. Honey Dripper
5. MODERN VISION 2007
6. Love Flower
7. ジャスミン
8. サバンナの夜 -ALBUM MIX-
9. Banana Moonlight
10. ONE WORLD -ALBUM MIX-
11. ムサシ
12. Juicy Jungle -ALBUM MIX-

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