MAD3の地獄へようこそ
──今回はファースト以来の全曲インストになってますけど、原点回帰みたいな意識はあったんですか?
EDDIE:…ちょっと引用したいんだけど。三島由紀夫の文章で『度々作家は処女作に向って成熟するということが言われるのは、作家にとって、まだ人生の経験が十分でない、最も鋭敏な感受性から組み立てられた、不安定な作品であるところの処女作こそが、彼の人生経験の、何度でもそこへ帰って行くべき、大事な故郷になるからにほかならない』っていうのがあって。ホントは元々インスト以外やりたくなかったんだけど、今まで実験的に歌モノもやってきたりして。色々やってみて結果的に戻ってきたって感じだね。
──でも、ファーストとは全然印象が違いますよね。
HARUTO:それはやっぱり色々やった結果なんですよ。インストだけやってたら今回みたいなものはできなかったと思うし。熟成されたと言うか、行間が出てると言うか。フル・インストっていうカタチは一緒でも、ひと味もふた味も違うっていう。前作ぐらいからインストを見つめ直そうっていうのがあったんですけど、今回は基本に立ち帰ろうっていうのがより明確になった感じですね。
──内容としては、全体を通して自分の内なるものを表現してるんでしょうか。
EDDIE:そうですね。内側のものを引きずり出す感じ。また引用になるんだけど、『一歩外国へ出てみなくてはつかめないものなのだろうか? あるいは日本人は、そんなにも贅沢になってしまって、自分の持っているものの値打ちを、遠くからでなくては気づかなくなってしまったのであろうか?』。初めはやっぱりアメリカとかイギリスに憧れて行くんだけど、いざ現地へ行くと自分の存在価値と言うか、内面を見つめ直すんだよね。ジャポニズムというものを強く意識する。それをロックンロールで表現したらこうなったっていう。
──全体的にどことなく仏教的な匂いも感じたんですが。
EDDIE:仏教っていうより、縄文時代ぐらいからの日本古来のもの……八百万〈やおよろず〉の神的な考えとか。そういうのが根底にある。
──そういう原点に帰るっていうのと、もう一度フルインスト・アルバムを作るっていう部分でリンクしてるところもありますよね。
EDDIE:だから最後は基本に戻って来るんです。
──『Lost Tokyo』っていうのは何を意味しているんですか?
EDDIE:これから東京が何処へ向かうのかって考えると、破滅だと思うんですよ。でもそれを引き起こしたのも自分達だし。因果応報って言うか。それはもう全世界に向けて言いたいことだけど。
──「京都」っていうキーワードも出てきますけど、失われゆく東京と、京都との共通のイメージっていうのもありますか。
EDDIE:京都っていうのは東京の前に栄えた都なんだけど、いいものがちゃんと残ってる。京都は手本にするべきだよね。東京にも古い、いい風景は残ってるんだけどね。
HARUTO:東京は全てが上書きなんですよね。元々あったものに上書きしてしまう。古い街並みだったり、職人の技術だったりとか。今の日本は商業主義って言うか、売れさえすれば正義っていうのがまかり通ってて、いいものを作ろうという意識さえも消されちゃってる。そういう意味も『Lost Tokyo』に込められてますね。我々はいいものを作りたいっていうだけですから。
──今は音楽も消耗品のように扱われてますからね。
HARUTO:ホントにそうですね。今なんか半年前に流行った音楽とか覚えてないでしょ。
EDDIE:でも、いいものっていうのは絶対残るから。
HARUTO:そう。何十年でも輝きを失ってない音楽もあるじゃないですか。手前味噌になっちゃうけど、俺達のファーストなんか未だにカッコいいと思うし。忘れられていかないものっていうのを作りたいですよね。
EDDIE:今なんて特に何でもダウンロードだから、形として手元に残らないんだよね。パッケージの魅力とかも、そんなのどうでもいいっていう。
HARUTO:今の若者はそんなの要らないって言うんですよね。哀れだなぁと思いますけど。
──そういった現状を嘆きつつ、最後には一筋の希望が見える曲が入っていますが。
EDDIE:だってやっぱりそれがないと……
KYO:地獄で終わっちゃう(笑)。
HARUTO:みんな忘れてるだけで潜在的な意識はあるだろうから、「判ってくれるよね?」っていうところでの希望。
──気付かせることによって希望を見いだす。
EDDIE:もし俺達の音楽を聴いて何かを感じてくれるなら…って言うか、俺達にできることって音楽しかないから、それで最大限にできるだけのことをやって、カタルシスに向かってメタモルフォーゼしていくっていう。
──ところで、今回これだけ1枚で完結された世界だと、ライヴでの他アルバムの曲との兼ね合いが気になりますが。
EDDIE:それは全く違和感ない。
HARUTO:全然大丈夫だよね。
KYO:「メタモル〜」は最近のライヴでは必ずやってるんですけど、どの会場でもお客さんが「感動した」とか「涙が出た」とか言ってくれるんですよ。
HARUTO:あと、今までの曲はライヴで常にやってるし、急にセットリストが大きく変わるっていうわけでもないので、その辺は違和感はないですね。そこは自信を持って。
KYO:でもね、今回のアルバムは今までより聴きやすいと思うんですよ。
EDDIE:えー、そんなことないよ。そうかなぁ。
KYO:情念がちょっとだけオブラートに包まれてるって言うか。
EDDIE:いや、もう情念だけでいいよ。怨念が世の中を動かしてるんだよ。
KYO:俺にとっては聴きやすいよ。
EDDIE:俺は、聴いたら事故に遭ったぐらいの衝撃とか疲労感とかを与えたい。あとはまぁ、癒しも。
──私は魔界からの音楽って印象を受けたんですが。
一同:(笑)
HARUTO:KYOちゃんは自分が一番狂ってることに気付いてないっていう。聴きやすいってのは多分アウトプットする側として。レコーディングもスムーズに行ったから、聴いてもスッと入って来るのかなって。こっち側から見てってことじゃないですかね。
KYO:じゃあ、俺は魔界の住人ってことなんだ。ショック!(笑)
──(笑)12月23日のシェルター・ワンマンはどんなライヴになりそうですか。
HARUTO:新旧取り混ぜて。新曲も、バンドでできる曲は全部やろうと思ってる。ワンマンじゃないと伝えきれない部分を出して行きたいですね。まぁ…MAD3の地獄へようこそ、みたいな(笑)。
──次の作品の構想なんかもできてますか。
EDDIE:もう次の作品のことしか頭にない。次の次のことまで考えてる。俺は一度に3つのことを考えつくんですよ。ひとつのことを喋ってる間に、もう次のことを考えてる。だからメンバーとか周りの人はついて来れないんだよね。アイディアはまだまだあって、ホントはもっと色々やりたいんだけど、体がひとつしかないから追いつかない。
HARUTO:EDDIEは常にそうなんですよ。アルバム作り終わったらもう次のこと考えちゃってるから。ついてくのが大変。
KYO:何とか食らいついて行きたいですけど。全力疾走で。
EDDIE:遅い遅い(笑)。
──じゃあもう目標に向かってやるだけっていう。
EDDIE:もう作りたいものが見えてるから、そこにいかに近づけるかっていう感じ。答えは判ってるから。