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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】BORIS(2005年11月号)- 「聴こえないもの」を聴かせる"世界を変える音"

「聴こえないもの」を聴かせる“世界を変える音”

2005.11.01

意識を変えるきっかけとしての音楽
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──アルバムの冒頭に「決別」という曲がありますが、矮小化していく日本のロックの現状へ向けたBORISからのメッセージなのかな? と思わず勘繰ったのですが(笑)。

ATSUO:それは日本に限らず、ですね。日本の音楽シーン云々じゃなくて“当たり前”とか“常識”とかそういった“慣れた意識”に対してですかね。

TAKESH:うん。「ちょっと先に行きますわ」っていう。

──“清廉を謳い、ただ見つめるだけの傍観者”(「ブラックアウト」)にオサラバすると?

TAKESH:そうですね。でもそれは、実際にこの場所を離れて遠いところへ行くっていう大それたものではないんですよ。自分達の立ち位置と言うか、見ているアングルを少し変えるだけで遠くまで飛んで行けるよっていう意味なんです。「さあ、世界を変えよう」という今回のアルバムの惹句にある“世界”も、地球上の国家や地域を指しているのではなく、日常とか世間と言われているもの、普段生活している中で感じる当たり前の意識(世界)を変えようってことなんですよ。

ATSUO:意識を変えるきっかけとして、僕らの音楽が作用してくれればいいなという願いを込めて。このアルバムでは、僕らと世界との関係性が音に表れてると思うんです。個々人が持っている主観が合わさって世界は成り立っていると思うし、世界=意識なんですよね。

TAKESH:その変化のきっかけは音楽でも、映画でも小説でも何でもいいんですよ。そういう使い古された題材ではありますけどね。

ATSUO:“世界が変わっていかないと、このままではマズイな”っていう危機感に誰しもが直面していると思うんです。そこでまずしなければならないのは個々人が意識の慣れから脱していくことだし、今のような便利な社会の中で何事にも考えないようにさせられているのが諸悪の根源だと思います。そのきっかけ作りをしていきたいんですよ。

──この間の衆議院選挙も、郵政民営化か否かという派手なパフォーマンスで二者択一を迫った自民党が我々国民に対して思考停止状態に追い込んでいましたけど(苦笑)。

ATSUO:とりあえず、テレビ見るのをやめましょうと言いたいですね(笑)。

──ロックに限らず、あらゆるジャンルの音楽には映像喚起力が備わっていると思うんです。ダイレクトに耳に届く音から聴く人が妄想を逞しくさせる楽しみ、歓びが音楽にはありますよね。それは思考停止だとできないでしょう?

ATSUO:そうですね。ネットの世界も凄く発展して、CDを買う人がすぐに情報に辿り着いてしまうから、その間に妄想を膨らませる時間がなくなっちゃうんですよね。それと、テレビがいつの時間でも食卓にあるような日本の家庭に身を置くと、いろんな価値観が端から固定されてしまう。自分の価値観で物事を考える時間がどんどん減ってしまう。不便な社会は意識が豊かだろうし、今の日本みたいに豊かな社会は逆に貧困な意識になっているんじゃないですかね。

──ジャケットも鮮やかな極彩ピンクですが、アルバム・タイトルの『PINK』には、単純に色の意味以外にも“極致”とか“感動(興奮)”、“刺す”“傷つける”といった意味もありますよね。そうした様々な意味付けをすべて内包しているアルバムだと思うんですが。

ATSUO:“PINK”というひとつの色なんですけど、一般的にはそういういろんな意味合いを持っていますよね。でも、僕らの中では逆に全然意味のなかった色だったんですよ。それが凄く面白いと思って。

TAKESH:こういった音楽でジャケットが黒だったら、何となく音のイメージも湧くじゃないですか。でもこれだけ派手なピンクだったら、意味がさっぱり判らないでしょう?(笑)

ATSUO:そういう意味では、妄想が膨らむ色って言うか。僕らの中で意味が希薄なぶん、いろんなものを吸収してくれる色かなと。でも本当に…意味がないんですよ(笑)。

──意味のないところに意味を持たせた?

ATSUO:まぁ、そういうことになりますね。そういう自分達でも判らなくなる瞬間とか判らない状態っていうのを凄く大事にしたいんです。すべてを言葉に換言してしまったら、そこで考えることや感じることをやめてしまいますからね。

──バンドとしては、ライヴを休んで以降今作に至るまで思考停止している暇がない活動ペースですよね。

ATSUO:ええ。特にライヴを休止して以降、逆にバンドが凄く加速している感じがあって。“バンド”とか“世界”というプログラムでいろんなアイディアとかイメージが湧いてきて、それに突き動かされていると言うか、ひたすらドライヴし続けてますね。外付けハードディスクもフル稼働させて(笑)。

目に映るものを通して“見えないもの”を見せる

03_dr.jpg──ひと月後に発売される『PINK』のアナログ盤のほうは2枚組で500セット限定、別ミックス&ノーカット・ロング・ヴァージョンの4曲を収録という、今回も期待を裏切らないアイテムですね。

ATSUO:やんちゃさせてもらいました(笑)。音楽が簡単にダウンロードできるようになってパッケージの意義がなくなりつつあるし、アートワークの部分で無駄にお金を掛けることはCDやLPの物欲を掻き立てる意味において凄く重要なことだと思ってますから。色々な意味での情報の豊かさがどんどん圧縮されてデータも軽くなって届けられてしまうし、印象が湧き起こるきっかけみたいなものがどんどんなくなっているので、アートワークも含めていろんな感覚や印象を伝えるものを作り続けていきたいんです。

TAKESH:ダウンサイジングしていく時代の流れの中で、僕らはあえて倍々で大きくして行きたいですね(笑)。LPだと、それを買って家に持ち帰ったらスペースを占有するわけじゃないですか。CDの棚にも入らないし、それなら立て掛けるか、飾るしかない。そんな印象を残していたいんです。

ATSUO:本来アルバムって、曲間の長い短いだけで全体の印象ってガラッと変わるじゃないですか。そのアルバムという単位が壊れて、無音の部分が意味するところがどんどんなくなってきた。1曲、1曲をダウンロードして、聴こえているものとか見えるものにしか感じることができなくなっているんですよ。

──CD『PINK』と同時発売となるDVD『Heavy Metal Me』は、目に映るものを通して“見えないもの”を見せることに意識を集中させた映像作品ということですが。

ATSUO:これはもう、実際に見てもらうしかないですね。「a bao a qu」はヨーロッパへ行った時にカメラに収めた素材がたくさんあって、それを編集したクリップですね。何が現実で何が虚構なのか判らなくなるような作りになってます。ドキュメント的なライヴも収めてありますし、バンドの活動の向こう側にある意思とか、そういったものを感じるきっかけにもなるといいなと。DVDにしてもCDにしても、結局は音を中心にして映像を作っているので、聴こえてくる音で聴こえてこない意味を感じてもらったりとか、映像でも見えているもので見えない意味合いを感じてくれたらと思ってますから、スタンスは同じなんですよ。映像を作ったほうが、僕らの音の構造がより判りやすく伝わるかもしれませんね。

TAKESH:音でも映像でも、受け手であるリスナーがどう妄想するか、逆に発信する立場にある僕らは妄想を働かせるためにどう仕掛けていくか…結局はそこのせめぎ合いだと思うんですよね。

ATSUO:映像作品はもっと意欲的にリリースしていきたいですね。やればやるほどスキルも上がっていきますから。

──ちなみに、影響を受けた映像作家とかいらっしゃいますか?

ATSUO:(アンドレイ・)タルコフスキー[旧ソ連の映画監督:1932~1986]とかは大好きですね。妄想を吸収して引き出す作家と言うか、映像の中に相互関係、ライヴ的な意味を含めているところは凄く共感しますね。あとは、寺山修司の演劇論とかにも影響を受けてると思います。

TAKESH:僕はタルコフスキーの撮った映画は正直今ひとつピンとこないんですけど、『サクリファイス』という彼の遺作のメイキング映像はリアリティがあって好きでした。主人公が家を燃やすシーンで、カメラが回ってないまま家が焼け落ちるトラブルがあって、家を建て直してからもう一度火を放って撮影したんですよ。そのエピソードには凄くシンパシーを感じましたね。

──そういう信念の貫き方は、BORISの活動姿勢と相通ずる部分があるんじゃないでしょうか。

ATSUO:見たいものは見たいし、作りたいものは作りたい。みんなもっと快楽を追求したほうがいいんじゃないですかね。そこそこの音質とか…そういうのでいいの? って思いますね。一人一人がもっと気持ちいいことをどんどんやれば、みんなもっと幸せになるんじゃないか、世界は変わるんじゃないか、と。

──途中にレコーディングを挟んだ3週間のアメリカ東海岸&西海岸ツアー後、日本では年内唯一シェルターでのワンマンが決定していますが、これは貴重なライヴになりますね。

TAKESH:ええ。余談になりますけど、海外ではステージと関係のない部分で気を使うんです。できるだけまずいものを食わないようにとか、ライヴハウスのトイレは鍵はかかるのか、紙はあるのかとか。中には便座が取れていたり、ドアがなかったりとか(笑)。

ATSUO:防犯上の理由からか、色々不便がありますね。

TAKESH:シェルターはその勢いをそのまま持ち込んで臨むので……当日はシェルターのトイレの便座を取り外してみようか?(笑)

ATSUO:あそこは便座のない和式だよ(笑)。

TAKESH:じゃあ、ドアを取って紙もなくそう(笑)。

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