銅鑼を背負ったバカでかいドラム・セット、巨大な二層オレンジ・アンプを自在に操る華奢な細腕、ダブルネックから放たれる超重圧ベース──。トリオ編成という最小限の構成が生み出す最大限の律動、ビート、音圧。1曲=70分32秒という超大作『flood』に続くBORISの新作『HEAVY ROCKS』は、とかく難解だと誤解を受けることの多い彼らが、実は圧倒的な普遍性を宿したバンドであることを証明する大傑作アルバムだ。とにかく一切の先入観を排除して、BORISが放射する音の塊を、そしてその隙間を是非体感してほしい。ロックの先人たちへの限りないリスペクトが窺える武骨なサウンドは単なる懐古趣味に終わらないものだし、一度でも"ロックに刻まれた"ことのある人なら間違いなく彼らの"HEAVY ROCK"スタイルに打ちのめされる筈だ。(interview:椎名宗之)
──前作の『flood』から1年4ヵ月振りの新作となるわけですが、レコーディングは断続的に続けられてたんですか?
ATSUO:曲が出来た時期は『flood』とそんなに変わらないんです。『HEAVY ROCKS』に入れた曲は、ライヴでもやってましたし。
──今回のアルバムは、コンセプトみたいなものはあるんですか?
ATSUO:“HEAVY ROCKS”というタイトル通りのものですかね。『flood』は最初、ロック・サイドとパワー・アンビエント・サイドの2枚組で出そうと思ってたんですよ。それがちょっと時期が遅れて、そのロック・サイドが今回出るという感じです。今回は、ロックな記号としてはかなりベタベタなことをやってると思いますよ。
──BORISが放つ音の塊は文字通り“HEAVY ROCKS”で、アートワークやノベルティはそれに相反するようにとことんポップでスタイリッシュですよね。このバランスが絶妙だなと。
TAKESHI:何も考えてないんですけどね(笑)。『HEAVY ROCKS』も『flood』も、自分たちのなかで同時に在るものなんで、分けて難しく考えられちゃうと困るんですけど。
──『HEAVY ROCKS』と『flood』はコインの裏表なんですか?
TAKESHI:表裏っていうか、こう、同じ円形のなかで端と端が対になって回っているような感じです。
──今回は、MAD3のEddieさんやABNORMALSのKomiさん、MERZBOWの秋田昌美さんなど、多彩 なゲストとコラボレーションをされてますね。
ATSUO:初めての試みで、パワーを貰うこともありました。僕らでないと揃わない面 子だとも思いますし。どの人もロックという文脈で活躍されてるので、その括りでの統一感はある
と思います。
──以前ライヴ盤を一緒に出した灰野敬二さんも、スタンスはロックですもんね。
ATSUO:うん、灰野さんはロックですよ!
──今後コラボレートしてみたいミュージシャンはいますか?
ATSUO:…ニール・ヤング(笑)。
TAKESHI:スタジオにフラッと来て、サラッと弾いてパッと帰るのがいい。俺らニール・ヤングのパートには音被せないんだろうね。そこだけ残しても入れちゃうんだろうね。
ATSUO:適当に録って、ニール・ヤングの歌だけでっかく入ってたりして。
──ニール・ヤングだとどの辺の時期が好きですか?
TAKESHI:いわゆる爆音期と呼ばれてる頃。アルバムだと、『ZUMA』とかあの辺りですね。
ATSUO:僕は『DEAD MAN』という映画のサントラは凄いなと思ってたんですが、スタジオ盤とか全然聴けなくて。でも、クレイジー・ホースとやってた頃のブート盤をTAKESHIに借りたら、これが凄い良かったんですよ。
TAKESHI:同じ頃の公式ライヴ盤(『WELD』)が出てるじゃないですか。あれよりも全然いいんですよ。
──アルバムの終わりが「1970」という曲で締め括られてますが、これは皆さんの生まれた年ですか?
ATSUO:僕とTAKESHIが生まれた年なんです。
──1970年というと、英米ロックの変革期ですよね。ビートルズが事実上解散して、入れ替わるようにレッド・ツェッペリンが台頭してきたり。
ATSUO:そうなんですよ。そこがミソなんです! サイケが終わってドラッグ・カルチャーの終焉とかもあって、何か新しいものを生み出さないといけない時期だったと思うんです。終わりと始まりが同時にあったような年代というか。僕ら自身も前へ進んでいきたいというテーマもあって、歌詞のコンセプトにもそういう部分を採り入れて。“HEAVY ROCKS”というのも、70年前後…サイケからハード・ロック、プログレの間という中途半端な感じを、1970年という年が象徴してるんじゃないかと。それが同時に僕らのスタイルというか、アティチュードまでをも象徴してると……
TAKESHI:アティチュードっ!?(笑)
──(笑)トリオ編成という最小限の構成で、これだけの圧倒的な音を鳴らすのが驚異的ですよね。
ATSUO:僕らが追い求めるバンドの理想像って、ただ3人が佇んでるだけで視覚的に恰好いいとか、音の作りも、曲間が如何にロックかってところなんですよ。行間を読むというか。
TAKESHI:音は弾けば出ますからね。
ATSUO:間とか行間にロックが宿るんですよ。もっとトータルに言えば、生き方自体、立ち位 置がロックでありたいですね。
TAKESHI:別段ロックな恰好をしていなくても、姿勢はロックという…。
ATSUO:3人編成だとできないことも一杯あるけど、逆にこの3人でしかできないこともまだ一杯ありますからね。まだまだ可能性が残ってる段階なんで。