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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】eastern youth(2004年8月号)- 生きてんだからやりたいことをまっすぐやればいいんだ

生きてんだからやりたいことをまっすぐやればいいんだ

2004.08.01

 eastern youth、通算10作目のアルバム・タイトルは『DON QUIJOTE』。言うまでもなく、『騎士道物語』を読み耽る余り自らを伝説の騎士と思い込んだ主人公が、ドン・キホーテを名乗って遍歴の旅に出る物語を描いたミゲル・デ・セルバンテスの小説にインスパイアされている。  日常を生きる中で沸々と湧き起こるさまざまな感情を一篇の歌として彩り豊かに織り込む、そんなイースタンの姿勢は変わらない。しかし、先行シングル〈矯正視力〇・六〉にその片鱗が見て取れたように、たゆやかに流れ行く大河のような、大空を悠然と舞う鷹のような、泰然と頭をもたげる山々のような、よりスケールの大きな歌々が一切の過不足なく本作に収められているのだ。それらは焦燥というより鷹揚といった趣であり、ささやかだが、どれも瑞々しくそして切実な歌ばかりである。  これまでとは明らかに違うこの実り豊かで確かな手応え、抜け具合、吹っ切れ方。イースタンに一体何が起きたのか? 真意を問うべく、メンバー全員に話を訊いてみた。(interview:椎名宗之)

1曲1曲をじっくり作りたかったんです

──今回のシングルとアルバムですが、'97年発表のシングル〈青すぎる空〉以来ずっとタッグを組んできたエディ・アッシュワース(エンジニア)の都合がつかず、あえなくレコーディングに参加できなかったんですよね。
 
吉野 寿(vo, g):そう、エディがロスからオハイオに引っ越しして、大学の先生になっちゃったわけ。エンジニア業専門で食うっていうよりは、本職が大学の先生になったの。で、向こうのスタジオの手配も大変だったっていうのがまずひとつあったのと、今回は何より東京で録りたかったんです。
 
──それはまたどういった心境の変化だったんですか。
 
吉野:音として表に出る、出ないに関わらず、こう何か東京で録った質感みたいな、東京の湿度! みたいな想いを込めたかったわけ。っていうのが一個と、あとはやっぱりじっくり録りたかったんですよね。考えながら録るっていうか。どっかへ行って録るとどうしても期限が決まっちゃうから、いつからいつまでにピタッと録んなきゃなんないってあるけど、東京だと期限にはみ出しちゃったら最悪延ばせたりもできる。いろんな面 で融通が利くんですよね、一回家にも帰れるし。1曲1曲をじっくり作りたかったんですよ。まぁ結局、いつもとそんなに変わんない期間で録れたんだけど。そういう心の余裕っていうか、作業的な余裕が欲しかったっちゅうのもありますね。
 
──毎回、レコーディングは極限まで自分達を追い詰めて、短期間でギュッと凝縮したものを形にするのが通例でしたよね。だから凄く意外な気がします。
 
吉野:焦燥感というよりは、もっとバイーンとしてふくらみのある、もっと大きい人間感! みたいな、そういう体温のある音の鳴りにしたかったんですよ。それにはゆっくりと考えながらやりたかったんです。
 
──やっぱりエンジニアの違いは大きかったですか?
 
吉野:南石(聡巳/毒組)さんっていう今回エンジニアをやってもらった人とは、もうバッチリだったんですよね。曲の持ってるポイントとか、プレイの面 であったりとかをしっかり理解してもらった上で、彼なりの録音哲学みたいなものとも凄くマッチしてるんじゃないかなぁと俺は思ってます。
 
二宮友和(b):1曲曲のイメージ作りをバンド側では録る前からしっかり持ってて、そこは結構注意したんですよ。一応、完全なバンドのセルフ・プロデュースだったから。 
 
田森篤哉(ds):スタジオに居た後半、レコーディングに入る前は毎日練習だったから、結構厳しかったですね。でもまぁ、去年から今回のレコーディングに入るまでは何となく余裕みたいなものがあったんで。…いや、でもやっぱりキツかったですね(笑)。
 
──(笑)。確かにシングル、アルバムの収録曲共に、一音一音がよく練られているというか、キメの細やかな曲が揃いましたよね。それは気持ちのゆとりがあったからこそなのかな、と。
 
吉野:うん、結果的に。
 
──サウンドもこれまで以上にバンド感が際立って前に出ている気がしたんですよ。3人のプレイがより有機的に絡み合って。
 
吉野:最終的には“いい歌”がいいんですよね。“いい歌”っちゅうのは、単純に言葉がメロディに乗ってるっていう意味じゃなくて、プレイも含めたもっと広い意味で。『いい歌だねぇ、これ!』っちゅう、中に全部含まれてるのが俺は理想なんですよ。それはシンプルな形であるべきだと思ってるし、曲が持ってる世界観がはっきり判りやすい形であるべきだと思ってるわけ。そのために本当はいろいろなことが必要で、複雑な絡み合いがあるんだけど、それが一個にまとまっているからシンプルに聴こえるっちゅうか。そこに関してはよく出来てるんじゃねぇかなぁと思う。
 

死んでなかったらやって行くしかないし、 やって行くしかないんならやり直すしかない

──田森さんのドラムの鳴りが、今回の音源のキモになってると思うんですが。
 
吉野:うん、俺はやっぱりタイトになったんだと思うね。
 
田森:二宮君のバックアップがあったからね。ドラムとベースの絡みでそう聴こえるっちゅうね。
 
二宮:(照れ笑いしながら)でもホント今回、ドラムの深みっていうのを凄く感じますよ。
 
吉野:ドラムの音に関してはいつもよりは時間をかけて、余裕を持って一個一個考えながらやったんだけどね。バンッ! と音を決めてドンッ! と録るみたいなのではなくて。ドラムをよく録らないと何も始まらないから。アンプだったら最悪ガチャガチャやるだけだからそんなには難しかないんだけど、ドラム録るのは難しいんですよ。じっくり一個一個考えながらやったし、曲のキャラクターに合ったドラムだから馴染んで聴こえるんじゃないですかね。
 
田森:確かによく録れたと思うよね。南石さんともよく話し合ったり、ドラム・テクの人とも『こんなのどうかな?』なんていろいろやってみて、結果 として良かったなぁと思いますね。1曲1曲徹底的にやってみて、でも並べて聴いてみるとまた印象が違ったり。前回とはまた違う感じのいいものが出来たんじゃないかなぁって。
 
──ニノさんが今回プレイする上で気を留めた点は?
 
二宮:ドラムだけじゃなくて、歌、ギターとの絡みにも気をつけるってことですかね。ドラムの音をまず決めて、それと凄く馴染むように心懸けましたね。
 
──そう、シングルの〈矯正視力〇・六〉なんですが、イントロのドラムの音からしてまず新しくて抜けたなと思ったんですよ。考えてみれば、こういうゆったりとしたナンバーをシングルにするのも今までになかったことですね。
 
吉野:俺は結構、最後まで躊躇してたんだけどね。今までと同じことをやってもつまんないし、もっとこうシブイっちゅうか、感情の別途なところから行く曲をシングルで切ったらどうかな? なんて話は最初からしてたわけ。でもいざ曲が出来て、俺が『やっぱりもっとドカーン!としてる曲のほうがいいんじゃねぇか?』って言い張ったんだけど、二宮君が『いや、どうしても〈矯正視力~〉だ』って言って。
 
二宮:(笑)。ずっと今までやって来て、アルバムの先行でシングルを切るって考えた時に、何かこれしかない感じがしたんですよね。
 
──その選択は大正解だったじゃないですか。
 
吉野:俺は未だに『ホントに大丈夫なのかな、これで?』って思ってるけどね(笑)。みんな『大丈夫だよ!』って言うけど。“やり直す、やり直す”って言い過ぎたなぁ…みたいなさ。しまった、スマン、シケッてて…っていう。涙っぽくてスンマセン!っちゅう感じ(苦笑)。
 
──いや、繰り返し唄われる「何回だってやり直す」というフレーズに聴き手は胸を衝かれるだろうし、掛け値なしに“いい歌”だと思いますよ。
 
吉野:“何回だってやり直しゃいいんだよ”っちゅうことなんですよ、振り返って『あれをやり直したい』とか『これをやり直したい』とかそういうんじゃなくて。ずっと生きてきて、ダメになったり挫折したりしますよね? 『しまった、ダメだこりゃ!』って思っても、死んだら本当にそこで終わりだけど、死んでなかったらやって行くしかないから。やって行くしかないんならやり直すしかないんですよね。『しょうがねぇな、やり直そう』っていう。それは恥ずかしいことじゃないし、自分が間違ってると思ったら誤魔化して正当化するんじゃなくて、引く勇気っちゅうか、やり直す勇気を持つっちゅうか…そういうものなんですよね。
 
──しかも、川に捨てたはずの悲しみを「内ポケットに仕舞ったまま」で歩いていく、という…。
 
吉野:なかなか悲しい気持ちっちゅうのは捨てられなくて、“捨てるんだ、捨てるんだ”っておまじないみたいなもんをしても結局は捨てられないから、しょうがねぇから連れて歩くんですよ。やれやれっちゅう感じ。
 
──〈ズッコケ問答〉にも“何度でもブッ壊してまた創ってやる”というフレーズがあったし、一貫してますよね。
 
吉野:そうですね。今回、それをよりドッシンと思ったんでしょうね(笑)。
 
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