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INTERVIEW

トップインタビュー【復刻インタビュー】長渕剛×平野悠(2002年7月号)- 「今こそ歌の持つ力をもう一度見つめ直したい!」

「今こそ歌の持つ力をもう一度見つめ直したい!」

2002.07.01

商売として成立しなかった頃の精神性にどれだけ立ち返ることができるか

平野:長渕さんが今の日本社会に対して覚える苛立ちっていうのは、日本の共同体が崩壊しきったからだと思いますよ。昔はいたじゃないですか、町を歩いてると「オイ! どこへ行くんだよ?」とか「お前の親父さん、病気どうした? 薬持ってけ!」とか言ううるッさいジジイが。 
 
長渕:いましたね。 
 
平野:そんなの“俺の勝手だろッ!”と思うけど(笑)、そういうことを言ってくれるような人が昔はいた。それが今はもうアメリカのグローバリズム、つまり入れ替え可能な文化ですよね。マクドナルドなりスターバックスなり、どこへ行っても世界共通 なわけです。日本の伝統、文化、家族、地域共同体っていうのがどんどん失われてしまっている。そういう日本に対して“何なんだ、これはッ!?”っていう感覚を、僕も長渕さんも同じように持っていると思うんですよ。
 
長渕:そうですね。それは凄く神経質に考えますね。
 
平野:今45歳の長渕さんが18、19歳の若い世代とどうやってコミュニケーションしていくのか、長渕さんが培ってきた想いをどうやって伝えていくのかというと、やっぱり歌が一番という話になるわけですね。サッカーを嫌いな奴はいても、音楽が嫌いな奴はいないじゃないですか?
 
長渕:(微笑) 
 
平野:政治家や評論家が若者に対して何度同じことを唱えても、歌唄いが発するメッセージのほうがずっとよく届くんですよね。これは僕、ずっと信じてるんですよ。僕がずっと「原発ヤバイよ!」って言い続けても誰も聞いてくれなかったのが、忌野清志郎さんが原発のことを唄ったCD(RCサクセション『COVERS』)を出そうとして発売禁止になったら、若い子たちが「これ、どういうこと?」となった。あと、一番腹が立ったのは原宿のホコ天ですよね。ホコ天が廃止される時に、殆ど反対運動が起こらなかった。勿論頑張っていた人もたくさんいたけど…。だってあそこはロックの聖地じゃないですか? 歌唄いの聖地じゃないですか? 死んでも守らなきゃいけないものを軽く放り出しちゃって、「いいよ、他の場所があるから」っていう今の若い子たちの意識に対して僕らはどう挑戦していけばいいのか? と。「オイオイ、面 白くないものに対しては怒ろうよ!」って。僕のテーマはそれなんですよ。理由は要らない。「面白くないものに対してはきちんと怒ってアクションを起こそうよ!」という。
 
長渕:人間は誰でも「いいものはいいんだ!」「正しいことは正しいんだ!」っていう熱いものを持っているんです。ディテールの部分は、先に生まれた人間が次に生まれてきた人間にその精神性を含めてしっかりと継承していく意識で音楽を作るっていう姿勢が大事だと思うんです。それがないとやっぱりダメです。つまり先輩を尊び敬う精神、そして後輩たちへ自分がやってきたことを伝える。先輩たちにはオピニオン・リーダーとして失敗したところもあれば、いいところも勿論たくさんある。それを見て来れたのは僕の少なからず財産だと思います。今を生きる人たちが熱い気持ちを死ぬ まで力を合わせて持ち続けていけばいいだけなんです。 
 
平野:長渕さんの中にはフォーライフというものが幻想としてあるんだ? 
 
長渕:僕は今でも幻想じゃなくて、リアルな世界としてありますよ。
 
平野:スタッフを大事にするってことなんだ? 「ただ俺の作った歌を売ればいいんだよ!」っていうわけじゃないんだ? 
 
長渕:そりゃそうですよ(笑)。だって、一人じゃ生きてゆけないでしょ? 物の大小じゃなく、みんな分かち合える達成感が欲しくて、精一杯、明日へ動いてくれてるんです。
 
平野:でも、長渕さんのホームページの掲示板を見て本当に凄いなと思ったよ。音楽っていうのは何でこんなに凄いんだろうなって。掲示板に来るのはみんなファンなんだから当たり前かもしれないけど、「自分が素直になること、怒ること、優しさ、本気、生きる勇気、一生懸命になることを長渕さんから教わった」なんて言うメッセージが並んでいる。これって羨ましいくらい凄いよね。 
 
長渕:(微笑) 
 
平野:僕がウチの店の若い奴に「今の日本の政治はヤバイよ、お前ら!」って言ったって、「何なんだよコイツは俺を搾取しやがって! 経営者のくせに!」って思われるのがオチだからね(笑)。それが、長渕さんの歌を通 じて若者がきちんとメッセージを受け止めている。で、今日僕が本音で長渕さんにぶつけたいテーマは、「長渕 剛はこれからどうすんだ!? どこへ行くのか長渕剛!?」っていうことなんです。これだけ人を騒がせておいて(笑)、僕の印象だと、長渕さんってもう全部やり遂げちゃった気がするんですよ。あれだけたくさんのヒットを飛ばして、『紅白歌合戦』にも出たし、レコード大賞も獲った。「もうやることないんじゃない?」っていう。僕もそうなんですよ。僕は店のことなんて全然興味がなくなって、解脱しちゃったっていうかね。会社を大きくしたいとか、もうどうでもいいんですよ。「老後は沖縄に移住して自給自足して、月に5万円で生活してみせるぞ!」って(笑)。そういうのを人生の最終地点に置いちゃうと、お金が要らなくなっちゃうんですよ。“お金を稼ぐ”っていうことが必要なくなるんですよね。そういう俯瞰〈ふかん〉の境地にひょっとして長渕さんは行ってるんじゃないか? と。「もういいじゃない?」と。「くよくよしないであとは好きなこと、自分の信じることだけをやろう!」と。 
 
長渕:いや、別にくよくよはしてないですけどね(笑)。歌にも書きましたけど、やっぱり僕の少年時代よりもこの国は非常に貧しくなってるんですよ。僕は少年時代に“ギターを持って日本全国を廻るんだ!”と思った。全日空や日航の札をぶら下げたりしてね、北は北海道、南は沖縄まで廻るんだと。これは僕が生涯通 してやるべきことだと思ってます。それは使命を感じる時もあります。それとあとは今の音楽、歌っていうものが、今の時流はまず企業ありきなんですね。例えばこのサングラスを売るとする。これを売るためにアーティストをデビューさせる。歌を書いたり、いろんなものを表現する連中っていうのは基本的に純朴で朴訥としていて、その衝動は美しいんです。なのに、それがやがて本物の表現者となっていくまでに潰されちゃうんです。なぜかっていうと、例えばこのサングラスを売るために巧妙な手口でプロットを組むわけです。CMだとか企業とのタイアップで、すぐに100万枚はいってしまう。それは企業がCDを買い占めているようなものだ。それで「企業イメージに合う歌を書いてくれ」とか「企業イメージに合う服を着せてやれ」といったふうに、そのアーティストが破れかぶれのジーンズにこだわっていたのが、いつの間にか綺麗な服を着させられて唄わされちゃってる。それであれよあれよという間にスーパースターにさせられちゃう。それじゃ企業の犬になっちゃう。時流に乗ることは大切なことです。だけど順番を間違えると大変なことになってしまう。歌がまず先にあるべきなのに、今のシステムはその全く逆なんです。そういう同じ土俵の中に組み込まれてのヒット競争なんてナンセンスですけども、自分はまだその中で勝ち上がっていかなきゃいけない。まだ僕はそこまで悟りの境地に行けなくてね(笑)、生臭いんですよ。「まだあいつらには負けないことをやってるんだから、正々堂々と唄って、“歌ありき”でやってやろうじゃないか!」という気持ちはあります。世の中のエトセトラの仕組みっていうものは入ってから覚えることなのに、今の若者たちは入る前から判っちゃってる。企業が食いついてくるような音楽を作ったりとか、そういう匂いを感じる時があるんですね。それはやっぱり厭ですよね。僕はそれがすべてとは言いませんけど、そんな中だからこそ自分の役目としてやらなければいけないことがまだまだあるんです。 
 
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