亀を助ける。するとお礼として亀が竜宮城へ連れていってくれる。
昔話『浦島太郎』のお馴染みの流れだ。
たとえばもしも私が亀を助けたとしよう。そして竜宮城へ誘われたとする。
それを想像すると、私はいつも不安でいっぱいになる。
それをまとめた表がこちらだ。
私はほとんど泳げない。そのため、水中に入ることに恐怖がある。それが①~⑥の不安に表れている。きっと海に入る寸前は思いっきり息を止めてしまうだろう。多分亀にあらかじめ「息はできますよ」って言われるだろうが怖い。
水中でも息ができるなんらかのシステムがあるのだろうが、そのシステムが万が一作動していなかったらもう終わりだ。その不安もある。
続いて⑦と⑧。亀にどのように乗るのか? 亀の甲羅の前のほうを掴むのが一番安定しているのかもしれないものの、バランスを崩して後ろに傾いた時に甲羅が剥がれてしまいそうな不安がある。かといって、甲羅の横を持つと不安定な姿勢になってしまう。竜宮城までどれくらいの時間がかかるのかわからないから、ずっとどこかに力を入れ続けているのは辛い。
⑨は⑧にも関係してくるのだが、移動時間がけっこうある場合に亀と話さなければいけないという問題がある。果たして私と亀に共通の話題はあるのだろうか。無言でも構わないとしても、それはそれで気まずいものだ。好きなバンドが同じ、みたいな情報がひとつでもあると良いのだが。あるいは、亀から話題を振ってくれるか。
そして⑩と⑪の不安。竜宮城に知っている人などいるわけなく、強いて言えば亀くらいなもので、その亀がいなくなると困ってしまう。高校で友だちになった奴の家に行くと、そいつの中学の時の友だちがいて、二人きりになった時に気まずいのと似ている。織姫に「竜宮城を始められて長いんですか?」みたいな当たり障りのない会話をするしかないが、私にそれが続けられるだろうか。
⑫、⑬、⑭も大きな問題で、余興に興味が持てないと退屈で仕方ない。また笑いのセンスがあまりにもなければ辛い。好きではない曲が流れ続けていても困る。もちろん大人であるから楽しんでいるふりはできる。しかし愛想笑いし続けることにも限度がある。Wi-Fiでもあれば暇を潰せるが、そんなものなさそうな気がする。
続いて⑮、⑯、⑰、⑱。自分のように連れて来られた人がいたとしたら、話し相手ができるだろうし、情報交換もできる。ただ、あまり好きではないタイプで、しかも宿泊が同室だと辛い。
そもそも宿泊せずに帰ることは可能なのだろうか? 帰れるとして、また亀に乗ると話さなければいけないと面倒なので、できればひとりで帰りたい。亀以外の移動手段はあるのか?
そして⑲。竜宮城以外のお礼はないのだろうか? 金券とか、菓子折りとかなんでもいい。タオルでも洗剤でも良い。もしもあるのなら、今まで考えた不安はすべてなくなるのだが。
最後に⑳。代替案がない場合、お礼自体を断ることは可能なのか?
「助けてくれたお礼に竜宮城へ案内します」
「すみません、今は行けないんですよ」
「そうなんですか。それではいつなら行けますか?」
「いや、その……」
「じゃあ、明日はどうですか?」
「明日はその、あれです、歯医者に行かないといけなくて」
「では歯医者が終わってから行きましょうか」
はっきりと断らないと結局行くことになってしまう。
しかし、はっきりと断って嫌な顔をされたら嫌だ。
竜宮城への不安は尽きないのだ。