「ゲーテ曰く、青年は教えられるより、刺激されることを欲する」
「ゲーテ曰く、若くして求めれば老いて豊かである」
「ゲーテ曰く、泣いてパンを食べたものでなければ、人生の本当の味はわからない」
「ゲーテ曰く、人間の最大の罪は不機嫌である」
これらはゲーテの名言である。
「ゲーテ曰く、朝きげんよくしろ」
「ゲーテ曰く、恩は遠くからかえせ」
「ゲーテ曰く、人には馬鹿にされていろ」
「ゲーテ曰く、年忌法事をしろ」
これらはゲーテの名言に見えてそうではない。居酒屋のトイレなどに貼ってある『親父の小言』から抜粋したものに「ゲーテ曰く」と付けてみたものだ。それなのになぜかゲーテの名言に思えてくる。
ゲーテという人は「世の中のすべてのことを言った」と言われている。そのため、昔から「ゲーテ曰く」と付ければ名言が誕生すると言われていて、まさにその通りになった例だ。
では、これがさだまさしだとどうだろうか?「さだまさし曰く」と付けてみる。
「さだまさし曰く、朝きげんよくしろ」
「さだまさし曰く、恩は遠くからかえせ」
「さだまさし曰く、人には馬鹿にされていろ」
「さだまさし曰く、年忌法事をしろ」
今度はさだまさしのヒット曲『関白宣言』の歌詞にしか思えなくなる。名言とはまた違う。やはりゲーテには名言に変える力があることがわかる。
ゲーテの力を再確認するために、他の言葉にまた「ゲーテ曰く」を付けてみよう。
「ゲーテ曰く、腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から」
「ゲーテ曰く、背筋を充分に伸ばしましょう、手足の運動」
「ゲーテ曰く、足を開いて胸の運動」
「ゲーテ曰く、深呼吸」
これらはラジオ体操の指導者のセリフなのだが、またしても名言っぽくなった。「ゲーテ曰く」の力を思い知る。
これを再びさだまさしにしてみる。
「さだまさし曰く、腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から」
「さだまさし曰く、背筋を充分に伸ばしましょう、手足の運動」
「さだまさし曰く、足を開いて胸の運動」
「さだまさし曰く、深呼吸」
曲の素晴らしさはもちろんのこと、ライブでのMCにも定評のあるさだまさしであるから、こんなことを言っていても不思議ではない。またこういう歌詞のコミカルな曲があっても何らおかしくはない。しかしこれもまた名言とは違うものだ。
それではゲーテ以外で名言になる人はいるのだろうか?
たとえば聖徳太子。聖徳太子は紙幣になるほどの偉人であるから、ゲーテ同様、何を言っても名言になる可能性は大きいと予測される。
「聖徳太子曰く、深呼吸」
しかし予想に反して名言にはならない。これは名言というより、聖徳太子の返答だ。聖徳太子には「10人の話を一度に聞き分けることができた」という有名な逸話がある。10人にさまざまな質問をされ、その中に「聖徳太子さん、緊張をとく方法を教えてください!」という質問があり、それに対して聖徳太子は「深呼吸」と答えた。これが「聖徳太子曰く、深呼吸」というわけだ。
他の人でも試してみる。
「森喜朗曰く、深呼吸」
これは失言かなと思ってしまう。
「渡嘉敷くん曰く、深呼吸」
これは名言というよりクイズで間違えた回答である。
『平成教育委員会』で「渡嘉敷くんの答え」の後に表示される渡嘉敷くんの回答はいつも間違えていた。他の出演者のパネルが赤色なのに渡嘉敷君だけ青色ということが多々あった。それを思い出させてくれる。
「IKKO曰く、深呼吸」
この表記だとわかりづらいが、「IKKO曰く、深呼吸〜」とすればおわかりだろう。そう、これは「どんだけ〜」のリズムで単語を言っただけで、名言ではない。
「ささやき女将曰く、深呼吸」
これも名言ではない。記者会見時のアドバイスだ。
「加トちゃん曰く、深呼吸」
これは『8時だョ!全員集合』のエンディングで「ババンババンバンバン、深呼吸しろよ!」と言う加トちゃんだ。名言ではない。
逆にゲーテの本当の名言を加トちゃんにしてみるとどうなるのか。
「加トちゃん曰く、青年は教えられるより、刺激されることを欲する」
「加トちゃん曰く、若くして求めれば老いて豊かである」
「加トちゃん曰く、泣いてパンを食べたものでなければ、人生の本当の味はわからない」
「加トちゃん曰く、人間の最大の罪は不機嫌である」
これは名言だ。つまり、名言は人物を変えても名言になることがわかる。名言自体は普遍的なものなのだ。
しかし、頭の中ではやはり『8時だョ!全員集合』のエンディングで再生されてしまう。
「ババンババンバンバン、青年は教えられるより、刺激されることを欲する」
「ババンババンバンバン、若くして求めれば老いて豊かである」
「ババンババンバンバン、泣いてパンを食べたものでなければ、人生の本当の味はわからない」
「ババンババンバンバン、人間の最大の罪は不機嫌である」
加トちゃんに毎週こんなことを言われていたなら、ドリフ世代の僕らはみな、ゲーテのような偉人になっていたのかもしれない。