〜ステータスポイントを『投稿』に振り分け過ぎた者たち〜
ラジオのコーナーや雑誌の投稿ページにネタを一心不乱に送り続ける投稿者。それは決して誰かに頼まれたわけではないのに、時には何かを犠牲にしてまで送る。そんな特異で奇抜で最高の情熱を投稿にそそぎ続ける者たちの生態に迫るインタビューである。
【投稿者プロフィール】
政府にとって:1989年11月13日生まれ。栃木県出身。
バカサイ天皇杯優勝。
好きなもの=キリンレモン、いぶきうどん、ちびまる子ちゃん、欅坂46。
ラジオネームの由来は『ワンピース』から
──初めて投稿したのはいつ?
政府:大学2年生の時です。TBSラジオの『不毛な議論』でした。
──ラジオを聴き始めたのもその頃?
政府:ラジオ自体はそれより前から聴いてました。中3くらいから大阪のラジオをストリーミング配信で聴いたり。バッファロー吾郎さんの『スッごい!おとなの時間』という番組とか。
──『不毛な議論』にはなぜ投稿しようと思ったの? 友達が勝手に応募した?
政府:投稿には興味あったんですけど、既存の番組だともう特有のノリが発達してるじゃないですか。
──ああ、流行ってるフレーズとか、スタッフの話とか、ずっと聴いてないとわからないノリはあるね。そこに入っていくのは、まるで二学期に転校するような感じだよね。
政府:そうですね。付属の中学から上がってきた人ばかりの高校に行く感じにも似てます。
──求人広告に「明るくて楽しい職場です」って書いてある店でバイトする感じでもあるな。
政府:でも『不毛な議論』は始まったばかりだったんで、みんなスタートラインにいる感じで、まだノリがなかったんですよ。
──オープニングスタッフみたいなものだな。
政府:まだ明るいのか楽しいのかもわからない職場でした。それなら投稿しやすいのではないかと思って。
──最初はラジオネームが長かったよね。「政府にとって危険な思想の持ち主」という名前で。もしかして三代目魚武濱田成夫に憧れて長くしてたのかな?
政府:憧れてないです。ラジオネームの由来は『ワンピース』からなので。
──えっ、『ワンピース』なんだ! そういえば『ワンピース』好きだよね。ワンピース世代!
政府:ワンピース世代です。
──俺は『ワイルドハーフ』世代かな。『花さか天使テンテンくん』世代でもあるな。『RAVE』は読んでないの?
政府:読んでないです。雪だるまのやつですよね。
──『FAIRY TAIL』は?
政府:読んでないです。
──もしや『MONSTER SOUL』も読んでない?
政府:読んでないです。
──本当に『ワンピース』が好きなんだね。『ワンピース』に「政府にとって危険な思想な持ち主」って言葉が出てくるの?
政府:そのままの言葉は出てこないですけど、それっぽいニュアンスのものがあるんですよ。
──そうなんだ。「俺は政府にとって危険な思想の持ち主」みたいなセリフがあるのかと思ったよ。
政府:自分で言ってたらちょっとかっこ悪いです。人から言われて成立するやつなんで。
──「俺は政府にとって危険な思想の持ち主。ここが政府か。ちょっと入ってみよう。ウィーン」っていうセリフもなかったってことか。
政府:「俺は政府にとって危険な思想の持ち主。ここが政府か。ちょっと入ってみよう。カランコロンカラン」もないです。
──初めてそのチェッカーズの前髪のように長いラジオネームを読まれた時はどうだった?
政府:最初は生放送聴いてて「あ、読まれた!」ってパターンじゃなかったんですよ。ツイッターにネタをつぶやくbotがあって、それに自分の送ったネタが出てきたんですよ。「っていうことは読まれたということか!」と知りました。
──えっ、聴いてなかったの!?
政府:最初は聴いてなかったんですよ。
──初採用を聴いてない! 新しいパターンだな! 徐々に読まれるようになったら、ノルマを設定したりした?
政府:それもほとんどなくて。思いついたやつを送ってました。大学の授業の時間とかに書いて。各コーナーにまんべんなく送るタイプでもなくて、完全にできるやつしか送らないタイプの投稿者でした。
──新人類だな! 長州力みたい! もしくは西武ライオンズの選手! で、しばらく『不毛な議論』に送ってたの?
政府:2010年くらいは結構送ってたんですけど、2011年になると、せきしろさんがいなくなるじゃないですか。
──そう、引退したんだよ。「体力の限界!」って。
政府:その頃からコーナーが変わってくるんですよ。
──でも、そこから人気が出るんだよね。佐山がいなくなった修斗のように!
政府:番組のカラーが変わりましたよね。で、山里さんは好きなんだけど、個人的にコーナーがあんまり楽しくなくなって。メールテーマは送るんですけど、そこで読まれても楽しくないじゃないですか。そんな時、タイムラインでバカサイって単語を見かけるようになって。
──タイムラインで知る!? 俺が投稿してた頃からは考えられないことばかり! 宇宙人だね。新庄みたい!
政府:そういえば、ひとつ訊きたかったんですが、メール投稿って、1メールにネタ1個なのか、1メールにネタをすべてまとめたほうがいいのか、どっちなんですか? 僕は1メールに1個ずつにしてましたが。
──指定されてたらそれに従うべきだけど、1メールにネタひとつのほうが選別しやすいのは確か。特にラジオでリアルタイムに来るメールは選別にスピードが求められるから。
政府:メールって1通ごとに1枚プリントするんですか?
──そう。でも1枚でプリントしきれないのもあって、めくったら「iPhoneから送信」だけしか書いてないと発狂しそうになってたけどね。で、なんの話だっけ? ああ、バカサイか。
政府:そうです。バカサイってなんなんだろう? って思って、調べているうちに『週刊SPA!』に行きついて、早速見てみたら『イマジン』っていうコーナーが、次元が違うくらい面白くて。
衝撃だったバカサイの面白さ
──バカサイは俺も最初そうだったから。1993年くらいだったかなぁ、かなりの衝撃だったよ。なんだこれ! って。
政府:ホント衝撃がすごかったです! マジでもうレベルの違いを感じて、自分には無理なんじゃないかと思ってました。
──その衝撃って大事だし、尊いよね。ファミ通で衝撃を受ける人も、伊集院さんのラジオで衝撃を受ける人もいて、そこから人生が変わることもあるし。
政府:とにかく衝撃的だったんですが、それでもなんとなく思いついたネタを送って、採用されだしてから、若干力を入れだすようになりましたね。
──若干! なかなか本気を出さないな! 田上明みたい! もう名前を「休火山」にしたほうが良いよ。バカサイで採用されていくうちに「政府にとって危険な思想の持ち主」から名前が短くなっていくよね。水戸なつめの前髪みたく。
政府:どこまで残すか考えました。「危険」まで入れたほうがいいんじゃないかとか。
──雑誌のレイアウト的に、短くしてくれて助かったけどね。今はさらに短くなって「政府」って呼ばれてるからね。反政府な名前が政府になって、政府側になっちゃったよ。クーデター成功したみたい。
政府:クーデターはしてないですけど、投稿しつつYCC(よしもとクリエイティブカレッジ)に入りました。NSCでいうと東京18期になります。
──同期って誰がいるの? 新日の天山広吉だと、小原道由や西村修、金本浩二が同期だけど。
政府:えーっと、あ、おばたのおにいさん。小栗旬のものまねする人です。
──就職はしようと思わなかったの? 織田裕二主演の映画『就職戦線異状なし』を見て影響されてさ。
政府:就職活動はほぼしませんでした。そうなるともうなんか、やりたいことするしかないじゃないですか。自分たちの頃は作家になるとしたら投稿者からっていう道の他に、学校という選択肢もあって。それで行きました。
──当時は投稿者界隈も変わり始めてたよね。イチローみたく「変わらなきゃ」って。
政府:自分の世代の投稿者って、作家になったり演者になったりした人がやたら多いんですよね。
──投稿自体が市民権を得た感じはあったよね。たいしてラジオを好きでもなさそうな人がエモーショナルに語ることも増えたし。ハガキ送ってるとか自分の頃は恥ずかしくて人に言えなかったからなぁ。当時はさ……(長々と昔話があって)YCCってことはお笑いも好きだったってことだよね。
政府:好きでした。小学生の頃、地元に『おでかけルミネtheよしもと』みたいなのが来ると、親に言って連れていってもらいました。宇都宮のライブハウスに全国ツアーで芸人さんがたまに来たりするんですよ。トータルテンボスさんとかが。そういうのは絶対行ってました。東京来てからもライブにはよく行きました。特にバッファロー吾郎さん系が多かったです。ダイナマイト関西とかD関無双とか。品川に劇場があった頃ですね。あと、神保町花月が大学のそばにあってよく行きました。
──大学時代にお笑いサークルとかには? 世代的には盛り上がってなかった?
政府:サークルはなかったんじゃないかな。あったのかな……。大学が、本当に一番面白くない時期で……。中学や高校ってまだ周りに面白い人がいるじゃないですか。でも大学にはいないんですよね。
──たしかに俺も大学行った時思ったよ。まぁ、いないってことはないんだろうけど。そんな休火山、いや、政府も今ではもう、バッファロー吾郎やR藤本や他の芸人さんと仕事をするようになったわけで。時の流れは早いね。
政府:今の仕事はYCC卒業して、2013年から始めました。勉強になることが多いですね。特にひとつのことに対する突き詰める姿勢とか。
──いろんな角度からネタを作るのも大変ではあるけど、その角度が出尽くしたところからさらに作るのは難しいよね。そこができるとひとつ上に上がれると思うし、R藤本とかはそれができる人たちなんだよね。
政府:そうですね。たとえば「志村後ろ」でどこまでいけるかみたいな、僕はそっちのほうが、気持ち良さがあります。
──人がさんざんいじり倒した素材って、手垢がつきまくっているけど、裏返すと手垢がついてなくて真っ新だったりするからな。では、最後に言っておきたいことはある?
政府:どうしても言いたいことは、2017年に欅坂のオールナイトニッポンで採用されたってことですね。
──欅坂、好きなの?
政府:武道館に行ったんですよ。ひらがなのほうなんですけど。で、ひらがなにはダンスも歌もできない子がいるんですよ、井口さんっていう人が。その子が歌もダンスもできないからユニットとかにも全然入れなくて。ただ、その武道館で、欅坂の『2人セゾン』っていう曲の、平手さんがソロダンスを踊るパートがあって。それを、井口っていう人が任されてたんですよ。今まではすごい下手なのを見てみんなで笑う、みたいな感じだったんですけど、こないだの武道館の3日目になったら、それが普通にうまくなっちゃってて。っていうことは、じゃあ今まで笑われてるのが不本意だったんだな、と思って。すごい感動しました。不本意だったから、頑張ったんだなって思って。笑われてるの嫌だったんだ、って思って。それで……(以下略)
……次回は、『不毛な議論』つながりで、セパタクロウ君です!