想い出の音楽番外地 戌井昭人
今回紹介させていただくのは、ハナレグミとうんだらか楽団による「うんだらか うだすぽん」という曲です。この曲は、4年くらい前、NHKの『みんなのうた』で流されていたものです。
実はこの曲の歌詞は、わたしとハナレグミの永積くんで作りました。なんだか宣伝のようになっておりますが、最近、再放送で流れていたらしく、「うんだらか、やってたよ」と言われることがよくありました。
もちろん、『みんなのうた』なので、お子様向けなのですが、奇妙キテレツ、不条理満載、変テコワンダーランドでファンタジーなど、いろんなものが詰まっていて、年齢問わず楽しめる曲になっております。などと、これまた、自己宣伝みたいなことになって、すみません。
そんでもって、皆さまも、ご存知の通り、『みんなのうた』は、歌と流す映像がセットになっています。ですから、絵を描いている人、アニメをやる人などいろいろ集めなくてはなりません。他の方がどのようなチームでやっているのかわかりませんが、「うんだらか うだすぽん」の場合、最初、永積くんに、『みんなのうた』をやらないかという話がきて、イラストレーターの多田玲子さんと、わたしを誘ってくれました。
そこで、まず、みんなで集まって、いろいろ話をして、どのような歌にしようか話し合い、三人の共通の何かを見つけようとなりました。すると、わたしたち三人が、子どもの頃は、多摩川の近くに住んでいたということが判明して、「多摩川を舞台にしよう!」と決定します。
その後、わたしが、カッパ、青鬼、ダルマ、雷魚などが、川を下って海に行くという歌詞を書いて、永積くんが、歌いながら、歌詞を改良していき、できあがったのが「うんだらか うだすぽん」です。それから、絵やアニメ、動画などを製作していきます。たしか、一緒にやろうと集まって、コツコツ進行させて、放送までに半年くらいかかった気がします。でも、本当に楽しい作業でした。
普段、このコラムで、この歌の歌詞は、あーだこうだと偉そうなことを言っている自分ですから、自分が歌詞を書きましたというのは恐縮なのですが、歌詞を書く作業というのは、小説やコラムを書くのと違って、もっと、「漠然と、なにか伝われ!」という気持ちがもっと強くなるとも思いました。
でも、その伝えたいことが、あまりにも明確だったりすると、興醒めしてしまうことがあって、むしろ明確でないほうが、深淵で間の抜けた素敵なものになる気がしました。
そう、歌詞というのは、どこかに間抜けさがあるほうが良いのです。これは完全に、わたしの好みかもしれません。とにかく、なんだか意味のわからない、川下りの歌、「うんだらか うだすぽん」、どうぞ聴いてみてください。
戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。