宇宙的な音楽って何なのだろうか考えてみました。ピンク・フロイドなどは、やはり宇宙的に思えます。クラシック音楽にも宇宙をテーマにしたものがけっこうあります。また、宇宙的な音を作るために、シンセサイザーやコンピューターを用いたりもします。
しかしながら、いつも思うのです。シンセサイザーやコンピューターを使うと、確かに我々は、「ああ宇宙っぽい」となるわけですが、実際のところ、あれは完全に人工の音なわけで、宇宙にあのような音があるわけではありません。そもそも宇宙に音はあるのでしょうか? 宇宙の構造はよくわかりませんが、人間が宇宙っぽいと思う音は、人間が作ったもので完結しているのではないか。結局のところ、宇宙的な音や音楽というものは、エモーショナルな部分が排除されている感じなの? でも、どうなんだ? なんだかよくわからなくなってきました。
けれども、宇宙的な音楽を作ろうとして突き詰めていくと、宇宙的を超え、己れが宇宙人になってしまったという事態もあります。その代表格が、デヴィッド・ボウイのジギー・スターダストでしょうか。でも、あれはコンセプトがあって、完全にデヴィッド・ボウイの策略に乗せられているだけなのです。一方、我々としては、そこに乗せられている感じが楽しいのも事実なのです。
それでもって、今回紹介したいのは、The Space Ladyの『The Space Lady's Greatest Hits』です。ジギー・スターダストと双璧をなすような感じ、その名もスペース・レディですが、まったく違います。
ジャケット写真を見れば、羽のついた鉄兜みたいなのを被った女性がいます。彼女がスペース・レディのようです。解説を読むと、1970年代後半から1999年まで、サンフランシスコの路上で活動していたようで、キーボードピアノから、ピコピコと変な音を出しながらいろんな歌を唄います。
このわけのわからない広がりこそ宇宙的音楽なのかもしれないと思えてきます。いや宇宙的というか、宇宙人が地球で無理矢理演奏したら、こうなったという感じでもあります。
さらに、このアルバムに収められている「Born to Be Wild」は、とんでもない代物です。「Born to Be Wild」は、もちろん映画『イージー・ライダー』のテーマソングで、疾走感のあるロックです。しかし、彼女の手にかかれば、疾走感がヘニャヘニャです。最近、ピーター・フォンダも亡くなってしまったということで、追悼の意を込めて、スペース・レディの「Born to Be Wild」を流してみましょう。そうすれば、ピーターさんは、ゆらゆらと天国宇宙に行くことができるでしょう。
戌井昭人(いぬいあきと)
1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。