想い出の音楽番外地 戌井昭人
夏も終わってしまいます。普段の夏とは違い、コロナの真っ最中で、まったく楽しめなかったという方も多いのではないでしょうか。いや、そのような方がほとんどだったのかもしれません。
海にも行けず、山にも行けず、夏の暑さに負けまくり、いつのまにやらすぐそこに、秋がやってきている有様です。
とくに若者たちは、遊べない鬱憤をどこで解消しているのでしょう? 公園で酒を飲んだりしている人も多いようですが、大半は、ジリジリと時間を過ごしているのかもしれません。
なんだか可哀想になってしまいますが、現在は昔と違って、インターネットがあるから大丈夫なのか? へっちゃらなのかな? 「あんたみたいなオッサンに可哀想なんて思われたくねぇよ!」と言われてしまうかもしれませんが、やはり若者は、夏は外に出て、良いことも、悪いこともいっしょくたに、いろいろやらかしてしまうものであります。来年は、大いに遊べる夏になってくれることを、おっさんは望みます。
20代のころ、夏の時期は、なんだか暇だと思ってきたら、とりあえず車で海に向かっていました。今にして思うと、大変贅沢な時間だったのかもしれません。
わたしは、1万円で購入したワゴン車を持っていました。そのとき車で聴いていた音楽は以前も書いた気がしますが、時代はカセットテープで、ガチャガチャとカセットを交換しながら、いろいろな音楽を聴いていたのは、懐かしい思い出です。それで、車の中で一番聴いていたカセットはなんだったのだろうと思い返してみますと、海の方に行くときに必ず聴いていたのは、ボ・ガンボスの1989年に発売されたアルバム『BO & GUMBO』でした。その中でも、「トンネル抜けて」は、海が見えてくるのに合わせて必ずかけていました。
いまでも思うのですが、海沿いドライブをしているときにかける名曲ベストワンは、ここの曲でほぼ決定なのではないでしょうか? 歌詞、楽曲、すべてがマッチして、涙も流れてきそうになります。だから涙で視界が悪くなり事故を起こさないようにしなくてはなりません。
来年は、「トンネル抜けて」を聴きながら、ビシビシ海沿いドライブをしてみたいです。若い方もぜひこの曲を聴きながらドライブをしてみてください。そうすれば、「去年一昨年と、馬鹿馬鹿しいくらいコロナだったぜ」と懐かしく思いながら、涙を流すことになるはずです。事故には気をつけてください。もちろん「トンネル抜けて」だけではなく、他にも、名曲がたくさんあります。「助けて!フラワーマン」「ダイナマイトに火をつけろ」「ズンズン」、来年の夏は、どんとさんが天国から唄ってくれるはずです。
戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。