スクリーミング・ジェイ・ホーキンス、なんだかもうわからない人です。高校生の頃に観た映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』で
は、主人公の女の子がカセットプレイヤーでずっとかけていた音楽がスクリーミング・ジェイ・ホーキンスの「I Put A Spell On You」でした。
わたしは、そこで初めて、スクリーミング・ジェイ・ホーキンスを知り、CDを購入したのです。これが『Frenzy』というアルバムでした。
とにかくインターネットもなかった時代だし、それほど情報もなかったので知るのに難儀しましたが、雑誌などでスクリーミング・ジェイ・ホーキンスのことが掲載されていれば、すぐに読んでいました。そして、知るほどに、やはりわけがわからなくなっていくのでした。コンサートは棺桶から出てきて唄い出すとか、昔はボクサーだったとか、などなど。
曲のほうも、聴けば聴くほど、わけがわからなくなるものばかりです。「Hong Kong」という曲では、現地語を真似て、メチャクチャな言葉で「うむにゃむ、うにゃむにゃ」言ってるし、このアルバムには入ってないけれど、「便秘ブルース」では、ずっと糞を出すため踏ん張っている声が入っているのです。「ん〜、あ〜にゃ〜、ん〜」。
とにかく、なかなか出ない糞を出すために踏ん張っている声を、曲にのせるなんて、ものすごいアイデアだし、ぶっ飛んだ独創性に驚くばかりです。そして、なにかを超えて、そこにインテリジェンスすら感じることができるのがスクリーミング・ジェイ・ホーキンスの凄さだと思います。わけのわからないことをやりすぎて、哲学になってしまう感じ。ユーモアを超えて狂気になってしまったけれど、一周して、また笑えるといった感じでしょうか。
スクリーミング・ジェイ・ホーキンスを知った後に、わたしは小沢昭一がフィールドワークにて、様々な場所で録音してきた、『日本の放浪芸』という8枚組のアルバムを愛聴していました。すると、その音源に節談説教というのがあり、それが、スクリーミング・ジェイ・ホーキンスのようだったのです。
節談説教というのは、仏教の布教活動の一つとして、お坊さんが、節をつけて、ダミ声で説教をするのですが、これが浪曲の始まりなどとも言われてます。
節談説教とスクリーミング・ジェイ・ホーキンス、なんの繋がりもないようだけれど、それがとても似ているよというのを、今回は、皆さまにお知らせしたかった。知ったところで、なんの得にもなりませんが。どちらも聴いてみて、「I Put A Spell On You」、魔術にでもかかった気分になってみてください。
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。