猫が家にやって来て三ヶ月が経ちました。けれども、いろいろあって来月、猫とお別れしなくてはなりません。どちらにしろ、猫とお別れすることは、なんとなくわかっていたので、家にやって来た当初は、あまり仲良くならないようにしていました。
しかし、猫の便所掃除をしたり、餌をあげていたら、だんだん仲良くなってきて、「おい、しっかりウンコしてるか」と、猫の便所を覗いたりしていたら、今度は、猫のほうも、わたしがウンコをしているときに、便所の扉の隙間(普段の癖で少し扉を開けて用を足します)から、こっちを覗いてくるようになりました。まぁ、踏ん張っているのを見られるくらいならいいのですが、トイレットペーパーで肛門をふくときは、なんだか恥ずかしいので、扉を閉めるようにしています。
また、わたしが寝てるとき、最初は足元にやって来て寝ているのですが、朝になるといつも頭の上にいたりして、可愛いのです。
年末には、録りだめしていた『ツイン・ピークス』を観ようと思い、コーヒーとドーナッツを用意して、テレビの前に座っていたら、猫がやって来て、一緒に鑑賞することになりました。そして恐ろしいシーンでは、一緒に驚いたりしていたのです。
ここでも以前紹介した、THE KLFの『Chill Out』というアルバムを部屋で流していたら、鳥とか電車の音とかが聴こえてくるからなのか、ずっとスピーカーを眺めている姿も、本当に可愛かった。
そこで、お別れした後に、猫のことを思い出し、感傷的になってしまったときに聴く音楽を考えて、思い浮かんだのが、『Inside Llewyn Davis』(邦題『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』)のサウンドトラックでした。
この映画は、うだつのあがらないフォークシンガー、ルーウィンが、ひょんなことから猫と過ごすことになったりするのですが、とにかくルーウィンが、どうにもならない日常を描いている、コーエン兄弟の作品で、わたしの大好きな映画なのです。そんでもって、サウンドトラックは、T・ボーン・バーネットがプロデュースしています。
映画には、ジャスティン・ティンバーレイクも出演していて、サウンドトラックでは「500マイル」を唄っていて、コレが良いのですが、なんといっても、主人公のルーウィンを演じた、オスカー・アイザックの歌がとても良いのです。声、雰囲気、ギターも演奏しています。でもって、初っぱなの曲、オスカー・アイザックが唄う「Hang Me, Oh Hang Me」を聴きながら、現在この原稿を書いているのですが、猫と過ごした短い期間のことがいろいろ思い出されてきて、すでに、とてつもないくらい感傷的になってしまっているのでした。どうしましょう。
戌井昭人(いぬいあきと)/1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。