なかなか寝つけないときに、なにか眠れる音楽はないものかと皆様もいろいろ探してこられたことだと思います。そんなわたしも眠る前にいろいろな音楽を流してきました。眠れそうな音楽をまとめて、それを流しながら床に入ったりもしてきました。しかしながら実際のところ、この音楽が効いて、眠くなるのかどうなのか、よくわかりません。
眠る前に流してきたのは、おもに、浮遊感のあるものや、ゆったりした音楽、ピアノ音楽、ジャズ、あまり面白くない落語、静かなギターの音などです。
ジョン・フェイヒィという不思議なギタリストがいるのですが、この人の音楽はバッチリで、なかなか寝つきが良い、などと思っておりますが、ジョン・フェイヒィの音楽は、たまに不穏な音が流れてきたりするので、驚いて、逆に目を覚ましたりしてしまうことなどもありました。
そんでもって、今回紹介したいのは、『キャットナッパー(猫のうたた寝)』というアルバムです。これが音楽なのかどうなのか問われると、全く音楽ではないのですが、紹介させていただきます。
発売元は、なんだかスピリチュアル系なところで、ちょっと何ですけれど、わたし、スピリチュアルのことはよくわからないので、そこらへんは置いときますが、それでも、この『キャットナッパー』はけっこう眠れるんじゃないかと、いままでの経験から思うのです。なんてったって、眠るために作られたものですから。しかも時間は30分なので、30分後にビシッと起こされます。だからさくっと30分だけ休みたいというときに最高なので、お昼寝などに良いと思います。
内容は、良い声をした男の人が、体の力を抜くように喋ってきます。それに従っていると、波の音などが流れてきます。つまり、ソフトな催眠術みたいなものです。
わたしも、たまに、イヤホンを耳に突っ込んでこれを聴いたりします。バッチし効くという感じではないけれど、なんとなく休めた気になれます。
この『キャットナッパー』をわたしに教えてくれたMさんは、とんでもない、キャットナッパーフリークでして、ことあるごとにこれを聴いています。一緒にいるときも、「ちょっと休みますね」と言って、イヤホンを耳に突っ込んで、横になったりします。
そんなキャットナッパーフリークのMさん、メキシコの飛行場で、トランジットのとき、ベンチで横になって、これを聴いていたら、ぐっすり眠ってしまい、飛行機に乗り遅れたことがあるそうです。なにをやっているんでしょうか。
わたしの場合、熟睡とまではいきませんが、ちょっと休みたいというときに、イヤホンを耳に突っ込んで聴くのに、ちょうど良いのでした。
皆様も、仕事の合間なんかに、聴いてみるのはいかがでしょうか? くれぐれもフリークになったり、熟睡などはしないように。
戌井昭人(いぬいあきと)
1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。