皆さまは、運動をするときは、どのような音楽を聴きますか? そもそも運動なんてしませんよ、という人もいるかもしれませんが、やはり身体を動かして汗をかくのは気持ちの良いものです。このように、まともで、つまらないことを言ってますが、やはり、運動後のビールは本当に美味いものです。
わたしは、おっさんだけが参加できるホットヨガなるものに参加したことがあるのですが、ものすごい量の汗をかきました。普段、サウナにもよく行くけれど、その何倍もの汗でした。しかし、それらの流した汗は、すべて、アルコール飲料に変換されてしまいました。
以前、ボクシングジムに通っていたことがありました。ミット打ち止まりで、どうにも、進歩しませんでしたが、その後に食う餃子とビールが美味かったのを憶えています。これは、北野武映画『キッズ・リターン』の影響です。
でもって20年くらい前、マラソンを過剰にしていたことがありまして、毎日、やたらめったら走ってました。別に、目的はなく、金もないし、暇だったので、走って、疲れて、寝てしまおうという魂胆でした。しかし、走ってるうちに、その爽快感に病みつきになり、どんどん距離も伸びて、横浜のマラソン大会に出たりもしました。
そのころは、iPodなんかもなかったので、音楽は聴かずに走っていたのですが、あるとき、携帯CDプレイヤーを持って、音楽を聴きながら走ってみたら、とんでもない高揚感にとらわれたことがありました。脳みそがパカッとひらいて、全身がシュワシュワしてきて、息苦しさがまったくなくなり、ズンズンどこまでも走っていけそうな気分になり、いつもの3倍くらい走っていました。たぶん、ランナーズハイってやつだったみたいです。
そのとき聴いていたのが、BOREDOMSの『SUPER ROOTS 7』です。わたしは、3ヶ月くらい無音の中、夢中で走っていたときに、するりとこの音楽がやってきたのです。
とにかく、いろんな、音が、右から左、後方から、飛んでくるみたいで、脳がすごい状態になりました。
翌日も聴きながら走ったら、最初ほどではないけれど、同じ気分になりました。それから、ほぼ毎日、同じような状態で走り続け、踊りながら走ってたりしてたから、相当、奇妙だったことでしょう。でも、だんだん慣れてくると、その高揚感が薄くなっていくのでした。
いま部屋で、聴き直していたら、無性に走りたくなってきました。ちょっと、イヤホン耳に突っ込んで、走ってこようかなと思ったりしてます。
そんなこんなで、運動とは関係なくても、BOREDOMSの『SUPER ROOTS 7』は本当に素晴らしいアルバムです。なんか、原始的に身体を動かしたくなる要素が入っているのかもしれません。わたしの中の、身体を動かしたくなる音楽でした。
戌井昭人(いぬいあきと)
1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。