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トップコラム月刊牧村#3『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その1

『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その1

#3『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その1

2019.06.04

月刊牧村 冬期ゼミ#3
『麻田 浩「聴かずに死ねるか!」出版記念』その1
2019年1月14日(月)ROCK CAFE LOFT is your room
【講師】牧村憲一【ゲスト】麻田 浩
 
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 麻田さんの歴史は、まさに戦後日本の音楽の洋楽受容と並行しています。著書『聴かずに死ねるか!』を軸に、書かれていないエピソードもお聞きしたいと思いました。今回を含めて3回に分けて掲載いたします。(文責・牧村憲一)
 

60年代、何回もレコードを聴いて、コードや奏法を探りだしたフォーク創成期

 
牧村:今回は『聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事』が出版されるということで、著者の麻田浩さんをお招きしました。限られた時間中での内容となることをご容赦ください。まずは麻田さんから、どんな経緯で今回のご本を出されることになったのかお聞きしたいと思います。
 
麻田:「長いことトムス・キャビンをやってきたんだから本にしたほうがいいんじゃないですか?」と随分前からいろんな人たちに言われていたんです。「麻田さんもいい歳だし、死んじゃったら誰もトムス・キャビンのことを書けませんよ」って(笑)。それでいつか本を出したいといろんな所で言い続けていたら、奥和宏君というライターの方が「やりましょうよ」と言ってくれまして。奥君が僕に長い長いインタビューをして、それを文字起こししてくれて、それをもとに半分くらい書き直してできたのがこの本なんです。トムス・キャビンという小さな呼び屋を始めた経緯、トムス・キャビンが倒産した後にスマッシュという会社を立ち上げたこととか、自分の半生と言うよりも人生のほぼすべてを書き記したつもりです。それと、自分が育った時代的なことも書き残しておきたかった。
 
牧村:僕が麻田さんを知ったきっかけはMFQ(モダン・フォーク・カルテット)という、日本のカレッジフォークを代表するバンドをおやりになっている頃でした。のちに「バラが咲いた」をヒットさせたマイク眞木さん、後年、個人的にもお世話になった渡邊かをるさんが在籍したバンドです。渡邊さんは大貫妙子や加藤和彦のアート・ディレクターをやっていただいた方です。渡邊さんは後からMFQに参加されたんですよね?
 
麻田:そうですね。最初は吉田勝宣という、今はMSエンタテインメントという会社でブッキングをやっている男とバンドを結成したんですが、体調を崩した吉田の代わりとして渡邊に入ってもらったんです。それが1965年くらいですね。
 
牧村:フォークソングが日本に入ってきたばかりで、ギター奏法を含めてすべてが手探り状態の中、MFQはいち早く確立されていたグループでした。
 
麻田:僕らや小室等のいたPPMフォロワーズは早かったですね。当時、大学の軽音楽部と言うと、カントリー、ハワイアン、ジャズの3つがほとんどで、カントリーの人たちにコードを教わったりしていました。あとは自分で何回もレコードを聴いてコードや奏法を探るんですよ。
 
牧村:来日したアーティストの手元を見たら違っていたなんて話も当時はよくありましたよね。
 
麻田:ありましたね。カポの使い方が全然違っていたりして(笑)。
 
牧村:それと当時の写真を見るとオシャレと言うか、音楽とファッションは近いものだったんですか。
 
麻田:すごく近かったですね。当時のフォークのバンドは、みんなだいたいストライプの七分袖のシャツを着ていたんですよ。VANにもそういうシャツはまだなかったから、僕らは下北沢にあった戦後の闇市みたいな生地屋に行ってストライプの生地を買って、外苑前駅のすぐ横にあった田島屋という米軍用の洋服の仕立て屋にその生地を持っていって「こういう洋服を作ってください」とお願いしていました。VANジャケットやメンズクラブの人たちにはすごく可愛がってもらって、主催していたパーティーで演奏もよくやりましたよ。
 

シンガー・ソングライターのはしりだったキングストン・トリオ

 
麻田:あの頃はキングストン・トリオ、ブラザース・フォア、PPMのどれかをやるのが主流でした。始まりは高校3年だったかな、学園祭でクラスごとに出し物をやるわけです。僕らのクラスは何もやることがなくて、だったらバンドをやってみようかということでクラスメートの3人でバンドを始めたんです。その3人のうちの1人のいとこのお兄さんがハワイアンをやっていて、そのお兄さんにギターの弾き方を教わったんです。CとFとG7の3コードさえ覚えれば何とかなったんですよ。
 
牧村:僕の周りではカントリーの人に、ギターの弾き方を教わっている人が多かったですね。
 
麻田:当時はカントリーがすごく人気がありましたからね。ホリプロ創業者の堀威夫さんもカントリーのバンドでベースを弾いていたし、田辺エージェンシー創業者の田邊昭知さんもスパイダースをやる前にカントリーのバンドでドラムを叩いていたし。僕はジミー時田さんのマウンテン・プレイボーイズがすごい好きで、そのバンドではいかりや長介さんがベースを、寺内タケシさんがギターを弾いていたんですよ。後にドンキーカルテットを結成するジャイアント吉田さんもいましたね。ジミーさんの歌も非常に本格的で、英語もバッチリでね。その後ろでコミックバンドみたいなことをやるのがすごく面白かった。完全にエンターテイナーの世界で、あれは憧れましたね。
 
牧村:麻田さんはその頃から、米軍基地で仕事をされていた人たちと接点があったんですか?
 
麻田:実際、僕らも米軍基地でライブをやっていましたから。
 
牧村:今だったら2、3歳の差なんて大した違いはないと言われそうだけど、僕らの世代にとっては大きな年齢差でしたね。
 
麻田:子どもの頃からFENをずっと聴いていて、カントリーやハワイアンに慣れ親しんできて、自分がバンドをやるきっかけになったのはキングストン・トリオというバンドだったんですね。彼らの「Tom Dooley」という曲に衝撃を受けたんですよ。
 
牧村:僕ら世代には大変有名な曲なんですが、ここで聴いてみましょうか。
 
──キングストン・トリオ「Tom Dooley」
 
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麻田:マーダー・バラッドと言うか、殺人の歌なんです。19世紀の後半に実際に起きた殺人事件と、その裁判を受けて絞首刑になったトム・ドゥーラのことを唄っているんですね。ただ僕は、初めてこれを聴いた時に純粋に曲の素晴らしさに感動したんですよ。バンジョーの音が入ってきて、次に語りが入ってくる。その後のコーラスもそんなに難しくない。これはすごい曲だなと思って。後で調べたらキングストン・トリオの中心人物であるデイヴ・ガードは大学を出たてで、言ってみれば素人なんですよ。素人がこんなレコードを作って、確か800万枚くらい売れたんです。それまで僕が聴いてきたニール・セダカやポール・アンカみたいな音楽と違って曲自体がすごく新鮮だったし、プロの作家たちが作った曲を唄うそれ以前のポピュラー・ソングとはまるで違っていた。大学を出たての3人のアマチュアがギターとバンジョーで唄う曲が大ヒットするなんて、それまでのポピュラー音楽のシステムではとても考えられなかったことです。キングストン・トリオはシンガー・ソングライターのはしりなんです。
牧村:そのキングストン・トリオの音楽をいち早くキャッチできる環境に麻田さんはいらした。
麻田:あの当時、向こうのポピュラー・ソングを聴くにはFENが一番早かったんです。日本にいながらアメリカと同じタイミングで新曲を聴けましたから。それにカントリーの番組もあればハワイアンの番組もあったし、土曜日の夜になると『グランド・オール・オープリー』というナッシュビルのカントリーのライブが聴ける番組があって、その後に『ハワイ・コールズ』というハワイの音楽を中心にした番組があって、それから『トップ40』だったかな。土曜の夜は特にFENをずっと聴いていましたね。
 

MFQのメンバーとして全米ツアーを経験

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麻田:「Tom Dooley」がヒットして、彼らに関する記事が『タイム』とかに載っていたんですね。当時、本国であるアメリカでも大きな話題になったんですよ。MFQをやり始めたのは1963年で、その年の秋くらいかな。日高義さんという、日劇の演出家だった日高仁さんの弟さんがいて、その方が日本で初めてフーテナニーを原宿の教会で開催したんですよ。
 
牧村:フーテナニーというのは、観客参加型のコンサートのことですね。
 
麻田:フォークの連中が集まって唄う催しですね。そこに僕らのMFQ、小室たちのPPMフォロワーズ、ジャッキー&クレイン、後に小室の奥さんになる方のお兄さんが川口でやっていたキャスケーズというバンドの4組が出演したんですけど、それまでは日本でフォークをやっているのは自分たちだけだと思っていたんですよ。でもそこで小室みたいな連中もいることを知って、すごく驚きましたね。と同時に、自分たち以外にもフォークを好きな仲間がいることを知れてとても嬉しかった。
 
牧村:麻田さんはMFQの一員として活躍されている間にアメリカへ行くチャンスを得たんですね。
 
麻田:1965年にMRA(モラル・リ・アーマメント=道徳再武装運動)というお固い団体から、ロビー和田という友人を介して話をもらったんです。ミシガンのマキノ島でコンベンションをやるから日本のバンドも参加しないか? ということで。自由に海外へ行けるなんて夢だった時代にただでアメリカに行けるわけだから、そりゃ行きますよね。
 
牧村:1ドルが360円の時代ですね。1964年に海外へ観光旅行できるようになったとは言え、まだ誰もが自由に行き来できる時代ではなかった。手続きをして審査が通るのも大変でしたしね。
 
麻田:そうなんです。最初はマキノ島のコンベンションだけという話だったんだけど、ショーを仕立ててアメリカを回ることになったんですよ。MFQもその中に組み入れられて、グリーン・グレン・シンガーズという女の子の3人組、ウルグアイのフォルクローレのトリオ、フィンランドかノルウェーかどこかのダンスの集団と一緒に回りました。バックに何十人も踊ったりする人たちがいるバラエティ風のショーでね。1965年の7月から9月までの滞在だったので、夏休みを利用しました。イーストコーストのお金持ちが住むハイアニス・ポートや避暑地のニューポート、ニューメキシコのアルバカーキというインディアンの集落が残る街とか、いろんな所を回りましたね。シカゴからロサンゼルスまで大陸横断列車に乗ったりして。一緒に回った連中とも仲良くなれたし、とても貴重な経験をさせてもらいました。MFQ自体はアメリカから帰ってすぐに解散しちゃったんですけどね。当時の学生バンドは就職活動のタイミングでやめるのが普通だったので。

牧村:大学を卒業したらどうするつもりだったんですか?
 
麻田:子どもの頃から車が好きだったし、卒論も商品学の一環で車のことを書いたし、ホンダにでも勤められたらいいなと思っていました。ところが簿記の単位が取れずに卒業できなかった(笑)。ただ僕がラッキーだったのは、最初のアメリカ行きで3年間の数次のビザをもらえたんです。それは当時ものすごく珍しいことで、ビザが使えるうちにまたアメリカに行きたかったし、アルバイトで貯めたお金もあったので、1967年の3月にもう一度アメリカへ行くことにしたんですよ。1965年にツアーを一緒に回った友達が全米各地にいて、コネクションもありましたしね。
 
 やっとトムス・キャビンの話に近づきました。今回はここまで、次回に続きます。(牧村・記)
 
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聴かずに死ねるか! 小さな呼び屋トムス・キャビンの全仕事
【著者】麻田 浩/奥 和宏

【仕様】A5判/256ページ
【価格】本体2,200円+税
【発行】株式会社リットーミュージック

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