健全なる(?)男子会で自己肯定&否定
友人である“DT童貞H<ハヤシ>”が何年かぶりにオイラの部屋に来た。パソコンを直してもらうためオイラが呼んだ。数時間して、直らないということが判明。契約上の根本的なことが問題であった。そりゃダメだ(笑)。
「わかった。ありがとう。もう帰っていいよ〜」オイラは言った。でも、DTHは床に吸いついたように座り込み、帰ろうとしない。
オイラも顎骨壊死で顎骨が粉砕骨折。ちゃんと喋ることが出来ない。顎に力が入らず、息をするのがやっとというか、息さえ出来ない状態。同じことを言うのは勘弁であった。
※
「あのさ、もういいから。ムリなのはわかったんで。明日、どうにかするから。ありがとう。今日はもう帰って。下北沢から家まで遠いんだし。車じゃなくて電車なんだから。ありがとね、本当に。原因わかってよかった」
微動だにしないDTH。奴のことを知って、15年くらい? こんな強情なDTHを初めて見た。明らかに聞こえないフリ。DTHにも強気な面があることに驚き、知らなかったことにもっと驚いた。
おまえ……
泣けてきた。
そっか。そうだよな。もしかしたら、今日が最後かもしれないんだもんな。アウアウアアなオイラをみて、DTHなりに感じ取ったのだろう。こうやってオイラの部屋に来て、グダグダすることがこの先、ないかもしれないということを。
2007年くらいから2016年くらいまで、ひっどい飲み会、通称『男子会』をオイラの狭いワンルームで行っていた。大学生のひとり暮らしだとしても快適とは言えない部屋。
そんな部屋にオイラ含め男性がレギュラー4人、イレギュラー5人くらい。酒やつまみを持ち込む。煙草はワンカートン。オナニーとパンクロックの話以外は禁止というルールでひたすら朝まで飲み続けたサバイバーたち。
ベッドや布団で寝れるのは少数。ほっとんどがかたい床で眠った。朝に立ち上がれないくらい腰と背中に痛みが走る。そこに酔っぱらったオイラがトイレに行くため踏んづける。
「何が出るかな? 何が出るかな?」とKKの悪口を言いながら、千鳥足で昼から営業している居酒屋へと行く。最低の午後。
途中の踏切で電車にひかれそうになり、DTHがこけて重症を負った(笑)。今でも後遺症に悩まされているはず。それなのに、あいつの『男子会』出席率は異様に高く、ほぼ皆勤賞だった。
男子会:当初は未婚、彼女ナシという男性のみで構成されていた、
エロ&バカ話をしながら狭いオイラの部屋で飲むだけの会
死ぬことが怖くて怖くてしょうがない
2018年7月21日
=イノマー、口腔底がんを告白=
2019年7月6日
=イノマー、がん転移再発=
『男子会』で浮かれていたときにはまさか!? の病気。自分でも信じられない。というか、手術をして舌を切った今でも信じていない自分がどこかにいる。「嘘っしょ?」って。だから、どこかヘラヘラしているオイラ。
そんなオイラを見て、「カッコいい」とか「やっぱりイノマー!」とか言ってくださる方もいるみたいだけど、そんなんじゃない。本当にそんなんじゃない。だって、死ぬことが怖くて、怖くて、包茎が治っちゃいそうだ。カンガルーの赤ちゃんになりそう。
がんを受け止めるのが怖くて、受け流してるだけ。「あと40年、病気のまま無事に過ごせますように」って北澤八幡の神様にお願いをする。何も考えず、頭を真っ白にして、合法の医療麻薬に頼って。そんだけの小男。チンポを出した哀しき全裸道化者。
死にたくないよーーーー。
2018〜2019年にかけてオイラ、いきなり、がんの手術&再発って……
まわりも大変というかヘヴィだったと思う。めんご
2019年7月6日
=ひとりごと。=
再発宣言をされてから、真夜中、自分のこれまでの人生を振り返る。そんなときに思い出すのが……どうしてDTHなんだろう? もっといっぱい、他に思い出すべきこと・人があるはずなのに。つくづく自分が嫌になる。
童貞男<50>の背中が忘れられない。だったら、オマエが死ねよ。そんな悲しい背中をするな。オマエのことなんて大嫌いだったのに。勝手に違法風俗で童貞捨てて、勝手に男になったような顔して。ふざけんなよ、オマエなんて一生、死ぬまで、いや死んでも童貞だからな。末期童貞ハヤシ。
※
=PASSED=
2016年5月25日のことだった。オイラは緊急男子会を開いた。集まったのはオノチン、キク淋病(当時マネージャー)、オガちゃん(『男子会の良心&出世頭』)、DTH、オイラの5人。
オイラは10年ぶりとなる新しいアルバム『冤罪』の制作&リリースに関する構想と『男子会』の解散を口にした。
新しいアルバムは曲もポコポコ出来てきたし、前作『義雄』から10年というのは……そろそろ作らないとまずいだろう、という判断。ま、本作についての言い訳はまたの機会に。
オイラが言い出した『男子会』解散
『男子会』の終了はDTH<童貞・林>が男子会メンバーに対して無言の反旗をひるがえしたことが原因だった。
ハヤシが狂った。
童貞を50年こじらせたハヤシが起こしたREBEL DTは新宿の雑居ビルなどで真夜中、密かに行われている反社会的パーティーへのハヤシの参加による。そこでハヤシは『男子会』では会うことのないようなスリリングな裏社会の人たちとのルートを作った。
まず最初にハヤシが興味を持ったのがクンニリングスであった。そこで彼は『クンニ道場』へと通い始め、国内大会へも選手として参加するまでになる。ま、ここまではいい。目標を持つのは悪いことではない。
ちなみに、ハヤシがクンニを習い始めたのと同時くらいに『男子会』メンバーのオガちゃんに子供が出来た。『男子会』に参加し始めた頃は童貞だったオガちゃんが結婚して、出産(奥さんが)。パパになった(涙)。
個人的にはこのことが、『男子会』解散の理由だと言い切っても構わない。ある意味、目が覚めた。オイラは狂った世界で何をやっているんだろう!?と。
オガちゃんはパパになった。それなのに、オイラは酒飲んで煙草吸ってオナニーして……何のチンポじゃない、進歩もしていない自分に唖然とした。
自分の子供を抱く気分というのは一体、どんなものなんだろう? オイラには一生味わえない感覚? そのことに対して『男子会』に参加している人間、誰ひとり問題視していないアナーキーさにも同時に危惧を抱いた。
※
クンニの後にハヤシは3P、テレフォンセックス、放尿、SM……いわゆる本番以外の行為にハマっていった。ハヤシは自称・童貞。好きな女性以外とは粘膜と粘膜の接触(膣内ペニス挿入)はNGとしていた。
積極的に参加していた読書会<男女が一泊二日でエロ本を読みあう集まり>でも中年の女性2人に誘われ、フェラチオとクンニまではいったものの、ギリギリのところで踏み止まったと自慢気に『男子会』で語っていた。
おわかりのように、たまに腹の立つ発言があったりもしたが、ハヤシのトーク術を上げるためと我慢した。いつの間にか『男子会』はハヤシの変態プレイ報告会と化していた。
当初はハヤシの相手は女性であったのだが、やがてそのうち、それが女装した男性とハヤシの性行為の描写ばかりとなった。
オイラは次第に笑えなくなってしまっていた。
ハヤシは歌舞伎町のビルディングで女装した男性のペニスをくわえて射精に導いているという。もちろん、その逆も。
さすがにそれはおかしいだろう? と。童貞をこじらせたのはしょうがない。50過ぎて一般女性とつきあった経験がないというのはハヤシに何か問題があるのかもしれない。でも、まだ間に合う。女性との恋愛&初体験は不可能ではない。オイラはそう信じてきた。
※
ハヤシの性の対象が男性になったことについて、オイラは冷静になって考えてみることにした。その結果、ハヤシの狂った言動はすべて『男子会』、しいてはオイラにあったのでは? と思うようになった。
ハヤシが唯一、注目され、リスペクトされる場所。『男子会』ではみんながハヤシの話に手を叩き、涙流しながら大笑いをした。
オイラがあいつのことをホメたのは『男子会』というトークの場所でだけだったかもしれない。そこでオイラはハヤシに起承転結というのを教え、話の持っていき方というのを教えた(つもりである)。
10〜15分であったかもしれないが、そんなとき、ハヤシの顔は生き生きとしていた。オイラはハヤシのそんな顔をみるのが好きだった。
※
ハヤシ以外の男子は皆、この数年で自分の行き場、生き場を見つけた。『男子会』でくっだらない話をしながらも結婚して子供を作ったり、東京から離れて南の島での生活を始めたり、新しく彼女を作ったり、病気から抜け出して自分のやるべきことに再度、本気でチャレンジしようと動いてみたり……。
ハヤシも『男子会』のメンバー同様に変わらなくてはいけない、と焦ったのだろう。差し出さなくてもいいものを差し出してしまった。いちばん大切にしなくてはならなかった核<コア>を台無しにしてしまった。
※
決定的だったのはあれだけこだわっていた膣内へのペニス挿入を知り合ったばかりの悪い仲間(?)にそそのかされ、簡単にお金で解決してしまったことだった。これは取り返しのつかないことだった。
それがオイラは悔しかった。そのことを面白おかしく周りからいじられ、満足そうなハヤシ。それでいいのか!? という悲しみしかなかった。そして、何より、そのことに何とはなく気づいていながらも、何もしてあげられなかった自分に腹が立った。
実はハヤシが自分の童貞をいとも簡単に捨てたとき、オイラはお医者さんから口腔底がんを宣告されハヤシの童貞どころではなかった。
ハヤシの異変に気づきながらも、奴を呼び出して話をするなど、気を使ってあげることが出来なかった。
男子会はメンバーのひとりが結婚して、パパになるという
ハッピーニュースと共に童貞こじらせたハヤシを置き去りに強制終了!
2017年はアナタにトッテどのような1年デシタカ???
2017年はオイラにとって非常に大きな年であった。「2017年に何があった?」と聞かれたら、オイラは迷わず「銀杏BOYZが日本武道館公演を行った年さ」と答える。
[ミッキーさん無断引用しみません]
そう、2017年10月13日の金曜日に銀杏BOYZは日本武道館公演を行った。
この年は自分のまわりでも日本武道館公演を行うバンドが多く、Theピーズ、サンボマスターと素晴らしい伝説を次々と打ち立てた。
そんな中、オイラ個人的には銀杏BOYZの日本武道館公演というのが大きく、自分の中のいろんな価値観がすべてブッ壊された気がした。
スゲー簡単というか普通のことを言う。ハヤシが新宿で真夜中に行っている性的行為がなんだかとてもくだらなく、意味のない、バカバカしいことと思うようになってしまった。アンダーグラウンド・シーンとの決別。
かつてはオイラも面白がっていたような気がするその場所はもう自分の居場所ではない、と思え、嫌悪感さえ抱いた。
ミネタくんが教えてくれた。「イノマーさん、そっちじゃないよ。こっち、こっち!」
てへ。そか、そっか。
※
あの日からオイラはハヤシをどこか遠ざけるようになってしまった。ライブをやって打ち上げでハヤシの姿を見ても声をかけなくなった。う〜〜ん、それはやっぱり自分のがんも大きいような気がする。
お医者さんから再発と聞かされたとき、クリアな心と身体であの世に行こうと思った。だから、久しぶりにハヤシを部屋に誘った。がんを理由に勝手に遠ざけ、傷つけてしまったことを詫びたかった。
2〜3年ぶりくらいにハヤシが部屋に来た。いつものように食べ物を持参。何も言わずにパソコンの前。カチャカチャと道具を取り出し、点検している。
懐かしい光景だな、と思った。
「オイラ、体調が悪いからさ、寝させてもらうね」とベッドに横になる。1回目の抗がん剤治療から退院してきたばかりだ。息が苦しい。気道が細くなっている。
「寝てください」とハヤシは言った。「もう寝てるよ」とオイラは言った。
「死んだ?」、「死んだ」。坂本龍馬ごっこ。
ハヤシの人生にとってオイラ、イノマーという存在はどういったもんだったんだろう? とモルヒネでぐにゃぐにゃになった脳ミソで考える。LINEが入る。
嘘みたいだ。アハハ。
オガちゃんに2人目の子供が生まれた。女のコだったのでハヤシには言わなかった。
ピーズは貫禄、サンボは熱量。
銀杏BOYZの武道館でオイラは血と汗と涙と鼻水で
ピカピカに輝く美しき道程<NOT童貞>をみた