手術前日の夜、眠れずに、消灯時間を過ぎて
TENGAライトの灯りで書き殴ったリアルな心境……ガチだ(涙)
いきなりだけれど、手術が終わった。いや、だって、前回の本連載『自慰伝』から1ヵ月経ってるんだもん。そりゃ終わる。
オイラの口腔底癌の手術。10時間10人(お医者さん)という大手術だった……。
真夜中の病院は動物園
入院して3日目の朝に手術。入院初日、2日目は特に何をしていたというわけではない。ただ、手術は舌をほっとんど残らずカットして、顎の骨も削るなんていうポップな話を担当医から聞いていたため、手術後には喋ることが困難となることが予測できた。
そのため、最後に会って話をしたいという人たちと面会。もうすべてはオ〜ライ、なんてウェルカムぶっこいてたら大袈裟じゃなく30人くらいと2日で会うことに。それでもうくったくた。こりゃあかん。
さすがに、看護師さんからいきなりの厳重注意。出来るだけ、ベッドに居てください、と。そりゃそうだ、しみません。
おまけに病院内は撮影禁止なのに、オイラ、ムービーまで撮影してツイッターであげちゃったりした。これが後々、面倒なことになるとは思ってもみなかった。やれやれ。
いや、でもね、手術前は安静に。これ大事。オイラ、はしゃぎ過ぎた。あとね、21時消灯ってヤバイ。ぶっちゃけ地獄だから。だって、バンドマン生活で21時って『さー、これから本格的に飲んで、酔った勢いでオネエちゃんをヤッちゃおう』なんていう時間だもの。それが寝かしつけられちゃうんだから。
しかも、病院の消灯となった21時過ぎって大変。動物園だから。オイラは入院初夜から糞尿の洗礼を受けた。4人部屋で2人が深夜に糞まみれ。脱糞ショー。
そして、オイラ以外のもうひとりは痰を吐き出すので苦しそう。朝までズズズズズーー。聞いたことがある人以外には伝わらない、この世でいちばん汚い音色。あー、苦しいときっていうのはこういう音が出るんだな、と。喉(胸?)にたまった痰を管を通して吸い取る音。おしょろしーーーー。
とんでもないところに来てしまったな、と。みんな、いつ死んでもおかしくない。
いきなり、“死”というものが身近に寄り添ってきた。うん、それが病院。病室だ。ここでしかわからない、感じることが出来ない。
癌<ガン>は究極のDIEエット
睡眠薬を飲んだものの眠れない。一睡もせずに朝を迎えた。病院は夜も早ければ朝も早い。朝の5時くらいからガチャガチャ。6時には電灯&ラジオの音。病気の爺さんたちは起き出し、顔を洗い、病院内の廊下をくるくると回遊魚のように何周も散歩する。
朝6〜7時の間に担当看護師さん(1日2交替)が「○○さん、おはようございまーーす!」なんて仕切られてるカーテンを開け、体温、血圧、血糖値なんかをチェックしにやって来る。朝昼晩、寝る前とチェック&チェック。「昨日はよく眠れましたか? 今日は内視鏡がありますね。その後に……」
病人としての1日がスタートする。もう、受け入れるしかない。病院に入ったらお医者さんと看護師さんの言うことを聞くのみ。シャバのキャリアなど通用しない。
体重は自分で行ける病人は自分で量りに行く。体重の5〜6kgの増減なんて入院してしまえば何でもない。体重54kgあったオイラは46kgまで落ちた(食べて、食べて……頑張って50kg台まで戻したけれど)。痩せていくのは恐怖だ。このまま落ち続けたらDOなっちゃうんだろう? と。
ダイエット、痩せたいって本気で、死ぬ気で思ってる人は癌<ガン>になれば一発で痩せられる。オイラ、マブでそう思った。簡単だ。いや、ホント。癌<ガン>になればいい。確実。保障します。経験者談。ま、失うのは体重だけではないけれども。リスクは高い。
午前8時には朝食。これは人それぞれ。病状による。ちゃんとした朝食を用意され、食べられる人はエリートだ。オイラは手術後10日はちゃんとした病院食というのを食べることが出来なかった。鼻から胃に管で栄養素と水分を流し込まれるだけ。だから、きちんとした病院食に憧れた。早く、お盆に乗った食事をとれる患者に昇格したいな、と。
口から食べれる幸せ。これは病気になった人間じゃないとわからないだろうな。オイラは鼻から管か、もしくはお腹に穴を開けてそこから直で! なんていう話も手術前に出てた。って、それなりの重病人じゃねーか?(笑)
ま、舌を切って、お腹の肉をくっつけるだけの話なんだけどね。あと、首まわりに転移しちゃった癌<ガン>の切除。13ヵ所とか言ってたかしらん? 忘れた。ま、これがステージ4と断定された理由。リンパ節転移多数。そりゃそうだ。全身にまわる可能性大。
“死”は生きること、生活のオプション
朝食が終われば患者さんは各々の時間。ま、大概は担当医による午前定期健診が毎日ある。それ以外は人それぞれ。でも、12時には昼ご飯だからね。午前中なんてアッという間だ。それだけ病院では“食べる”という行為が重要視されている。
食べれるか、食べれないか。これ、えらい差だ。もちろん、食べれないといけない。話にならない。だから、後に書くことになるとは思うけれど、オイラは“食べる”ということに関しては集中して向き合った。
手術までの入院2日間、オイラは病院食をオーダーしなかった。面会がやたらと入っていて時間が読めなかったので事前に伝えておいた。考えてみればヤな客というか患者だ。マブで何しに来た? って感じ。でも、ぶっちゃけこっちも何で2日前から病院にいなくちゃいけないのかわからなかった。
ま、手術前の検査とかいろいろあったんだけどね。でも、それって絶対に必要だったかと問われれば、そうでもなかったような。いや、素人が勝手言ってしみませんずり。ま、病院というか病室の雰囲気に慣れるためかな? うん、それはデカかったとは思う。
自分がまともな人間じゃないという“諦め”にも近い覚悟をさせられる。ここでは人間じゃない、患者だと。そのことを曖昧にしたまま手術に臨むといろんな意味、回復までの時間がかかってしまうような気がする。
自分が病気であること、そして、その先にある“死”というものをハッキリと受け入れないことには治療、生きるということに対して本気で真剣になれない。
オイラも病院に入るまで“死”というもの、ことが自分とは関係のないワードにしか思えなかったところがある。今から考えると、単純に避けてたんだと思う。でも、死は自分の何気ない生活の延長線上に普通に当たり前に存在して、自分を待っていてくれる。
そんな彼(もしくは彼女)を見逃すわけにはいかない。見逃しても、見えないフリをしてもついてくる(笑)。
手術の朝、白衣の天使に起こされる
そして、気づけば手術前日の夜。
21時以降は飲食NGとのこと、一切。手術は朝の8時30分に病室を出発。なんで6時には起きて準備とか。でも、準備って……ハートか? 看護師さんに手術前、精神安定剤を飲ませて欲しいとリクエストしておいた。いつも飲んでるソラナックス。さすがにシラフで10時間の手術に臨むのはしんどい。
睡眠薬のおかげで数時間は眠れたみたいだ。3時間くらい? 手術当日の朝はスゲー、ハイパーで元気な看護師さんに「朝ですよーーー、今日は手術ですよーーーー!」って起こされた。もうちっとメンタル、気にかけてほしい。アハハハハ。これくらいがベストか。
でも、看護師さんにとってみれば手術なんて毎日の当たり前のこと。病院内では毎日、手術は行われて、毎日、誰かが死んでってるんだろう。
明るく元気な看護師さん。病気のお爺ちゃんたちと楽しそうにモーニング・トーク。ジジィたちのアイドル。白衣の天使。間違いない。これが暗くて顔色の悪いテンション低いババアだったら朝からやってらんないもんな。
疑似恋愛にも近いんだろうな、って思った。ちょっとしたキャバ感覚。今日はお気に入りの女のコじゃないんだ、みたいな。そう、朝に「今日、担当させていただきます○○です」なんて看護師さんがやって来る。確かにその瞬間に今日1日の善し悪しが決まる。
手術前は特にやることもない。なんかやたらときっついニーハイソックスみたいのを履くくらいかしらん。なんか血液のどうたらこうたらで、特別な靴下を履かないといけない。
それ以外はボケ〜〜っと。飲み食いも出来ないしね。水すら飲んじゃいけないんだもの。うがいはOKだというので、オイラはひたすらうがいばかりしてた。手術前の緊張からか、やたらと喉が渇く。うん、これ、あるあるだな。喉、からっカラになる。
オイラ、看護師さんや担当医に言ったもん。「喉が渇いてるんですけど……」って。そしたら、点滴で水分は補給するから大丈夫、とのこと。ま、そうなんだろうけど、喉がカラカラなのよ。ずっと何も飲んでないから。
でも、言うことを聞くしかない。「お願いします。良いコにしますから痛くしないでくだちゃいませ」と。医者と患者とはいえ人間と人間だからね。そこはまあね。ふふふ。
本当に手術直前の写真。手術室に行く10秒前くらい。記念にと思って自撮り(笑)
……
何時くらいだったんだろうな? ベッドに座って、これからの手術のことを考えたりしていると家族や関係者が病室へと。付き添い。ありがたいこった。なんか、みんな複雑な顔をしてる気がした。ぶっちゃけこの辺から記憶は定かではない。かなり曖昧。もう違う世界に行っちゃってたんだろうな。容器である自分の身体だけ病室に残して。そんな感じがする。もう、既にオイラの魂はあの“場”にはいなかった。
手術前にオナマシのメンバーやスタッフなんかがサプライズで応援にかけつけてくれて20人以上になってしまったため、病室から食堂へと移動したのは何となく覚えている。いや、でも、正確には覚えてないな。
でも、手術後にオノチン、ガンガンと一緒の3ショット写真を見て、こんなこともあったんだな、と。ワーワー、ギャーギャーと手術前、まるで落ち着かなかったことは覚えている。手術前ってこんな感じなのかな? なんて。絶対に違うだろう、と。テレビのドラマで観たワンシーンとはかけ離れていた。
8時30分の少し前、看護師さんがやって来た。「そろそろですので」と。オイラは頷いて看護師さんの後に続く。オノチン、ガンガンが何か叫んでいたような気がしたけれど、申しわけないけれど言葉は何も入ってこなかった。待合室のある14階から手術室のある8階までエレベーターで歩いて行く。移動式のベッドに乗せられてというわけではない。
オイラと看護師さんの後をぞろぞろと見送りのアミーゴたちが続く。オイラの顔がでっかくプリントされた“イノマー救済Tシャツ”を着ている人間も何人か(笑)。
もう、完全にオイラは尊師状態。何も知らないまわりから見ればグルだ。信者たちが集まり、オイラが「これからイニシエーションに行ってくる」と。オウムじゃなくオナニ。
信者たち(お見送りの人たち)が来れるのはここまで。エレベーター前まで。ガンガンと抱き合い、オノチンが中に入って来ようとしたので頭をひっぱたく(笑)。
静かにエレベーターのドアは閉まった。やべ、母ちゃんとか親戚、関係者の人たちにちゃんと挨拶出来なかった。やれやれ。
エレベーターの中は広くて、清潔で、揺れはほとんどなくシーーンとしていた。
8階でエレベーターが止まり、看護師さんと一緒に手術ルーム、フロア(?)へと。担当医のMセンセーがストレッチをしている。「よく眠れましたか?」と。オイラは数時間は眠れたことと、やたらと喉が渇いてることを話した。「手術が始まっちゃえば気にならないんで、大丈夫ですよ」と笑顔。
さー、これから10時間にもわたる手術の開始だーーー! 詳しくは次号に続く。
マタンキンタマンコ。