ブッチャーズのライブを5年ぶりにやる、それもライジングサンで、と春先に射守矢さんから電話をもらった時は、それがバンドの屋号に対するメンバー3人のけじめの付け方なんだなと思った。
ただ一方で、これまで熱心にシェルターやネストへ通い詰めていたブッチャーズのファンの多くがライブを観られないのはどうなんだろうとも思った。
お盆の時期の北海道渡航はバカみたいに金がかかるしチケット代も高額なうえ、そのライブは場内でキャンプをしている人しか観られないというのもなんだか解せなかった。
ブッチャーズをこれまでずっと支えてきたのは、圧倒的に少数派だけど熱のこもった応援を静かに送っていた、おそらくは野外フェスの浮かれたお祭り気分とは無縁な人たちだったはずだ。
でもきっと、射守矢さんも小松さんもひさ子さんもマネージャーの渡邊さんも今回の怒髪天主導の企画提案は渡りに船だったのだと思う。
いまだに語り継がれる「7月/july」の名演を魅せたライジングサンの舞台ほどブッチャーズが落とし前を付ける格好の場所はないし、自分たち主導ではなく誰かのお膳立てで出演するという塩梅が良かったんだと思う。
当日、夜更けになるにつれて雨が酷くなっていく石狩の大地には心が折れそうになったけれど、def garageステージは幸いテントの付いた会場で助かった。
ギターウルフの痛快なライブが終わった後に手際よくセッティングされたのがブッチャーズの機材で、射守矢さんと小松さんとひさ子さんが揃ってジャラジャラ鳴らすだけでグッときて込み上げてくるものがあった。軽いジャムが終わって大きな拍手が巻き起こったのもよくわかる。
怒髪天がホストを務める演奏パートでいちばん良かったのは吉野さんとゴッチというソロ弾き語りの両者だったかなぁ。あとTOSHI-LOWさん。
吉野さんは「シミ、やっぱりあれ持ってきて」といいちこのボトルを持ってこさせたのが笑えた。
からの、いいちこボトルネック奏法で「Never Give Up」。吉野さんの吉村さんとの距離感がいちばん共感できるのもあるが、愛情にあふれた良いカバーだった。
そしてブッチャーズ。
3人が揃ってセッティングするだけで感情が高ぶって、小松さんがいきなり「レクイエム」のドラムソロを鮮烈に叩きだしてからはもう目の前で何が起こっているのかよくわからなくなった。
5年間ずっと渇望していたブッチャーズの生の轟音を全身で浴びているという事実がどうにも客観視できなかった。
最初はただ茫然としてしまって、多少なりともいま自分が観ているものが間違いなくブッチャーズなんだと理解してきたあたりの「ハレルヤ」で涙腺決壊。
「たしかにそこに吉村さんがいた」と書いていた人をSNS上で散見したけど、ぼくはむしろ吉村さんはもう紛うことなくこの世界にはいないのだという揺るぎない事実を改めてはっきりと突きつけられた思いがした。
ただ、吉村さんの影は3人だけの鉄壁のアンサンブルから何度も何度も何度も感じ取れることができた。
姿形をなくして5年も経つのに、あたかもそこに居るように思わせる毅然とした存在感がたしかにあった。弾いてなくても聴こえるギター、唄ってなくても聴こえる歌声。でもだからなおさら吉村さんはもうここにはいなくて、「君に伝えたいだけどこにも君はいない」という思いがさらに強くなった。
射守矢さんの流麗でいて図太いベースと質実剛健な小松さんのドラムのスリリングな絡みをその場で聴けただけでも至福の時間だったけど、脳内吉村秀樹想起装置の最たるものは、実はオリジナルのフレーズを忠実になぞっていたひさ子さんのギターだったんじゃないだろうか。
いずれにせよ、ぼくが世界でいちばん愛してやまないバンドだったbloodthirsty butchersはこれにて終了。こればかりはその場で見届けられて本当によかったし、3人の精悍なプレイとけじめの付け方はとてつもなく気高く美しかった。ブッチャーズはやっぱりぼくの大好きなブッチャーズのままだった。最後の最後まで。
怒髪天×RSR FRIDAY NIGHT SESSION「TRIBUTE TO bloodthirsty butchers IN EZO 2018」
2018年8月10日(金)def garageステージ
【怒髪天セッション】
01. Jack Nicolson(椎木知仁、上原子友康、清水泰次、坂詰克彦)
02. アンニュイ(KO、上原子友康、清水泰次、坂詰克彦)
03. I'm on fire(増子直純、上原子友康、清水泰次、坂詰克彦)
04. Never give up(吉野寿)
05. サラバ世界君主(後藤正文)
06. 散文とブルース(TOSHI-LOW、上原子友康、清水泰次、坂詰克彦)
【bloodthirsty butchers(射守矢雄、小松正宏、田渕ひさ子)】
01. レクイエム
02. ハレルヤ
03. 2月/february
04. 7月/july
君に伝えたいだけどこにも君はいない
2018.08.20