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編集無頼帖

ReguReguの『よどみのくに』が発売されて

2014.01.24

std17.jpgブッチャーズ血と雫のMVでも知られる札幌在住のクリエイター、ReguReguの2作目となるストップモーション・アニメーション集『よどみのくに』が一昨日全国発売された。
これに合わせて、web限定のインタビューを公開した。
今回は小磯さんばかりではなく、これまで寡黙だったカヨさんも数多く発言してくれているのがとても貴重だと思う(あと、ちゃんとした顔出しが初めてなのも)。手前味噌になるけど、ReguReguの基本構造みたいなものが初めて伝わる内容なのではないか。

これは仲間だからとかそんな生ぬるい理由からではなく、本当に素晴らしい作品集なので一人でも多くの人にご購入いただきたい。
人形製作、ストーリー、セット、撮影、サウンドトラックに至るまで、すべてが小磯さんとカヨさん2人だけによる究極のハンドメイド作品。そのどれもが素晴らしい。愛もあれば毒もある。余韻もある。ないのは打算と予定調和くらいだろうか。

小磯さんと初めて会ったのは今から14、5年前、札幌で。増子さんの紹介だった。当時、小磯さんは十蘭堂というバーの主人。
増子さんとともに札幌ゆかりの名所をまわるという取材で、BENIYAとかロッテリアの2階とかをめぐって、最後に十蘭堂へ立ち寄った。
薄暗くおどろおどろしい、真っ赤なライトが灯る店内。小磯さんはリッチー・ブラックモアみたいなシルクハットを被っていて、一見してタダモノではないことがわかった。
聞けば、小磯さんはかつてアルフォンヌなる自身のバンドと並行して吉村さんと一緒にスピットファイヤーというバンドをやっていて、自主レーベル「SLAVE」も運営していたという札幌アンダーグラウンド・シーンの中心人物。
その「SLAVE」からペケペケエントロピーズのCDやシミさん&影さんが在籍したゼラチンのカセットを出していたり、増子さんとも昔ダイバダッタというバンドを一緒にやっていて、来札した非常階段や赤痢と対バンしたこともあると聞いた。
90年代になって、GOD'S GUTS、DMBQ、怒髪天、イースタンユース、ブッチャーズと札幌のバンドが雪崩のように上京したのは、誰よりも先に上京していた小磯さんを頼ってのこと。
小磯さんが当時たまたま吉祥寺に住んでいたから、みんな中央線沿線の西荻や荻窪に住むようになった。
もし小磯さんが調布辺りに住んでいたら、札幌のバンド界隈はこぞって京王線沿線に住んでいたのかもしれない。

距離がグッと縮まったのは、小磯さんが店をたたんでReguReguを始めてから。ブッチャーズの「ocean」のPVを初めて観た時は心底感動した。
数年前、引っ越し前の自宅にお邪魔して、小磯さん特製のウイスキーのハスカップ漬けがあまりに美味くて呑み過ぎてしまい(ニシンのマリネも凄く美味しかった!)、その後に向かったモリマン・モリ夫さんのご両親がやっていた居酒屋で完全に撃沈していたのもいい思い出(笑)。

それ以降、ReguReguの新作が完成するたびにDVD-Rをご丁寧にも送ってくれて、どんどんクオリティが上がっていく様を目の当たりにして舌を巻いた。
人形の演技も物語のクオリティもどんどん研ぎ澄まされていく。なんせ目に映るものすべて、聴こえてくる音もすべて手づくりなのだ。その労力を考えると、ワンシーンでも見逃すのが惜しくなる。

吉村さんが勝手に長い長いツアーに出てしまって、ぼくがRooftopに拙文を掲載した時、小磯さんはブログでこんなことを書いてくれた。
「何度読んでも彼がしっかりと蘇って来ます」という感想も後日もらった。
あの時は小磯さんの言葉にとても救われた。
「我々は彼に見つけられた。そのことを誇りに生きて行きましょうね」という一言に。

そんなやり取りもあったものだから、「youth パラレルなユニゾン」のMVは特別な作品なのだ。ブッチャーズとReguReguという、ものづくりの人間同士の響き合う共鳴、両者にだけしかわからない想い。そんなものがどの場面にも凝縮しているから。
製作にあたって相当な覚悟で臨んだであろうことは、カヨさんのこんな言葉からも窺える。
「『youth〜』を作る前に、2人で決めたことがあったんです。吉村さんはまだ生きている、このミュージック・ビデオの仕上がりをチェックしてOKかNGかもちゃんと言ってくれる、と思い込むということ。だから、吉村さんのOKが欲しくて、いつもよりずっと時間をかけて、気持ちを込めて作りました」

吉村さんはきっとあのMVを観たと思う。
そして、『birdy』のジャケットみたいな渾身のピースサインをReguReguに贈ったことだろう。

2週間前の1月12日、日本武道館。
受付で小磯さんにばったり会った。
スピリチュアルラウンジのオーナー、秀樹さんと一緒だった。
数日前に急遽武道館行きを決めたという。

終演後、関係者が南ブロックの座席に集められて、そこでメンバーの挨拶をフェンス越しに聞いた。
離れた場所で小磯さんと目が合って、満面の笑みでぼくに手を振ってくれた。その姿がなんとも乙女ちっくで、可愛らしかった。
作風が合うかどうかは分からないけれど、ReguReguと怒髪天のコラボレート作をいつか観てみたい。
 

PROFILEプロフィール

椎名宗之(しいな むねゆき):音楽系出版社勤務を経て2002年1月に有限会社ルーフトップへ入社、『Rooftop』編集部に配属。現在は同誌編集局長/LOFT BOOKS編集。本業以外にトークライブの司会や売文稼業もこなす、前田吟似の水瓶座・AB型。

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