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編集無頼帖

3.11以前、以後の隔世感

2011.04.27

SN3F1641.jpg親愛なる読者の皆々様、大変ご無沙汰しております。キノコホテルのマリアンヌ東雲支配人から「『音龍門』での華麗なる下僕ぶり最高でした」とお褒めの言葉を頂戴した椎名です。今や本誌の現場は若く有能なスタッフに任せていて完全に無用の長物と成り下がり、スタッフからは煙たがられる一方ゆえ支配人の鞄持ちへと転身を図ることにした…わけではもちろんなく、3月末に発売したキノコホテル初の写真集『モンゼツ!! 生キノコ図録』を編集したのでありますよ。実演会での物販も不肖ワタクシめが仰せつかってます。
monzetsu_nama_kinoco_zuroku.jpg自ら企画・編集してお客さんに手売りまでするのは、前の会社にいた時に出した『爆音侍』というムック以来10年振りかなぁ。購入して下さる方へ直接手渡すと一冊の本を売ることの重みを改めて実感できるし、良い経験をさせてもらっています。
今年に入ってから追加撮影やら打ち合わせやらで、支配人、カメラマンの齋藤真理女史、デザイナーの小椋有紀女史と何度もディスカッションを重ねました。真理さんが撮る写真の素晴らしさは以前から熟知していたので中身に関しては何の不安もありませんでしたが、紙のチョイスや体裁、全体の構成に至るまで入稿直前まで事細かに話し合い、納得の行く仕上がりになったと自負しています。
今回改めて痛感したのは、支配人の卓抜したプロデュース能力です。微に入り細に入り支配人の中では確たる青写真が出来ていて、全くブレがない。写真のチョイスも意にそぐわぬものはバッサリとNG。ちょうど『マリアンヌの恍惚』の制作とバチ被りで心身ともにかなり消耗されていたはずなのに、巻末の対談や読み物のチェックを含めて時間の許す限り最大限の尽力をこの写真集に費やして下さったことにはただただ感激したし、プロ意識の高さを実感。個人的には支配人が手描きのタイトル・ロゴを持参して下さった時に「これはイケる!」と確信、あのロゴで写真集の性格が決まったと思います。『悦楽酒場』の手描きロゴを初めて見せて頂いた時もシビれましたが、今回はそれ以上。本業である音源制作も然りですが、もの作りには一切の妥協を許さず、徹底して自身の美意識を貫く支配人の姿勢(と、人心掌握術)には学ぶべきところが多々ありでした。
あと、僕が本格的にロフトブックスを再稼働させる一冊目の本だからと、印刷所の人が題字の部分を無償で黒い箔押し加工にしてくれたのは嬉しかった。けっこう高く付くはずなのに、一肌脱いでくれたんですね。つくづくこういう人たちに支えられているんだなーと思うと、じんわり来ました。いつも本当にどうもありがとう、ディー・フリーのイヨリ君。

RTLC_007.jpg『モンゼツ!! 生キノコ図録』入稿直後から着手したのが、先だってようやく告知解禁となったTHE ROOSTERZのDVD『THE CROSS ROAD MEETING at SHINJUKU LOFT』です。不相応ながら諸々のディレクションを務めさせて頂きました。
去年の夏、ROCK'N'ROLL GYPSIESのサード・アルバム発表のタイミングで花田裕之さんと下山淳さんにインタビューをした際、「ロフトでやった“Z”のDVDを出しましょうよ!」と話したことがあり、それを覚えていて下さったのか、今年に入ってからマネージメント・サイドから「是非ロフトからDVDを出したい」と連絡を頂いたのであります。当方、DVDの制作のイロハなど知らず存ぜずでしたが、レーベル仕事をしている社内の人間を無理やり巻き込んで制作に突入。当初は“Z”が出演を予定していた“ARABAKI ROCK FEST.11”に合わせて発売する予定がご承知の通り東日本大震災のために順延、DVDの発売も福岡サンパレスでの単独公演に照準を合わせることになりました。
考えてみれば、下山さんとGATE40の高橋さんと打ち合わせをした後に我がスタジオインパクトでミックスの作業をしたのが震災の2日前、初回特典となるラスト・ツアー・パンフレットの現物を穴井さんがわざわざ弊社まで持参して下さったのは3.11当日の午前中だったんだなぁ…。
震災後、世のあらゆるエンターテイメント事業に自粛ムードが吹き荒れる中で映像のチェックを何度もしましたが、数週間は心ここに在らずだったことは否めません。日を追うごとに深刻化している東北の被災地や予断を許さぬ原発事故のニュースを見るにつけ、己の非力さをこれでもかと言わんばかりに突き付けられ、ドンヨリ重い心持ちにもなりました。
衣食住と直結しない自分の仕事はこんな惨事の時に何の役にも立たないのだという無気力感に襲われ、激しく落ち込んだものです。未曾有の大震災はこれまで培ってきた自身のアイデンティティとやらも木っ端微塵になるほどの威力がありました。
けれども、それでも自分のやれることはやはり活字を通じたコミュニケーションだったりグダグダなトークライブを仕掛けたり、ロフトにまつわる各種コンテンツを生み出す娯楽産業の末端に携わることなのだと思い直しました。印刷・製本のさなかだったキノコホテルの写真集を待ち望んでくれていた方々の喜ぶ姿や、何とか敢行したブッチャーズのトークライブに来て下さったお客さんのリアクションを間近で見れたことがその思いを後押ししてくれたような気がします。
本やDVDでお腹は満たされないし暖も取れないけれど、誰かの心を潤すことはできるかもしれない。今はそれを信じて目前の道を一歩一歩踏み締めるしかないなと。うだうだショボクレ続けて見出だした答えはそんな月並みなものでした。
とは言えウチは5つの店舗ありきの会社ですし、震災後の相次ぐ公演キャンセル等で各店が大打撃を受けた現状や原発問題、夏の計画停電といった不安材料を顧みるに、まずは店舗の活性化が最優先。それに付随する各種コンテンツを生み出す立場としては依然一寸先は闇という状況ではありますが、これからも許される限り、誇りを持ちつつ真摯な姿勢で娯楽ソフトを生み出すことに邁進していきます。今も走り出している案件がいくつかありますし。
閑話休題。THE ROOSTERZのDVDは5月21日の福岡サンパレス公演にて先行販売です。本日、印刷物の色校チェック。予想以上にいい色が出ていたし、誤植もなくひと安心。25年後に大好きなルースターズの人たちと一緒に仕事ができるんだぞと中1の自分に教えてやりたい気分ですわ、今本気で。

PROFILEプロフィール

椎名宗之(しいな むねゆき):音楽系出版社勤務を経て2002年1月に有限会社ルーフトップへ入社、『Rooftop』編集部に配属。現在は同誌編集局長/LOFT BOOKS編集。本業以外にトークライブの司会や売文稼業もこなす、前田吟似の水瓶座・AB型。

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