ことし結成41周年。この6月には23作目のオリジナル・アルバム『WHAT A WONDER WONDERLAND』をリリースしたPERSONZ。彼らが7月からスタートした全15本のツアーが9月12日に東京国際フォーラムCホールにてファイナルを迎えた。今回のアルバムタイトルを直訳すれば、“なんて素敵なワンダーランド!”という感じだろうか。以前からドリーミーな世界観を展開してきたPERSONZだが、今回も「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」「眠れる森の美女」などをモチーフとした楽曲をセットリストに散りばめ、視覚に訴える演出も駆使して、今のPERSONZにしか作り出せないワンダーランドへと観客をいざなってくれたのだった。
会場が暗転し、アルバムのオープニング曲でもあるインスト「ADVENTURE」が流れるとそこはもう『WHAT A WONDER WONDERLAND』の世界。贅沢にドレープをとった緋色の背景幕、赤と黒のトランプ柄を描いた柱、そしてアルバムブックレットそのままの衣装を纏った4人のメンバー。JILLが「ウェルカム トゥ ワンダーランド!」と叫ぶと、大きな歓声が沸き起こった。1曲目はアルバムの流れと同じく「WONDERLAND」。JILLがB5サイズほどのトランプカードを客席へ次々と投げ入れ、運良くキャッチした観客はカードを掲げて応える。明るいライトがステージを照らす2曲目「SLEEPING BEAUTY」では、楽器チーム3人の表情もよく見えたが、笑顔でとても楽しそう。JILLはジャケット裾のトレーンが遠心力で床と水平になるほどの勢いで回り、頭を激しく振れば長い金髪が大きく揺れて、そのゴージャスさに目を奪われる。
近未来チックなデジタルノイズで始まった「ROCK MY HEART」は、カウベルのビートに気持ちも浮き立つロックチューン。エレキギターをかたどったカラフルなバルーンを手に登場したJILLは、ギターソロで本田毅(G)と背中合わせになりツインリードギター的な見せ場を作ったと思えば、次の瞬間にはギターをライフルに見立てて客席を狙ってみせたり、高く頭上に掲げてメタラー的ポージングをキメたりと、遊び心たっぷり。続く「BE HAPPY」ではシャッフル調のリズムがさらに高揚感をアップ。JILLの「一緒に歌って!」の一言に、サビでは観客とJILLが交互に歌い、エネルギーを交わす。客席全体を照明が明るく照らしていて“まだ5曲目なのにこんなに盛り上がるの?”と驚くほど。アンコール並みの弾け感なのでは…と思わず周りを見回すと、10代とおぼしきファンもアラ還かな? というファンも、みんな一体となって盛り上がっている。恐るべし、PERSONZのパフォーマンス力。
ここでいったん観客を着席させると、メンバーそれぞれからのメッセージタイム。
「今回のアルバムはテーマ性もある作品だし、ライブでもPERSONZの魅力を見てもらえてるんじゃないかと思います。ゆっくり楽しんでね」(本田・G)
「3月から続く長いツアーでしたけど、1人も体調崩す事なく欠ける事なく。60代ですけど、僕たちタフですからね(笑)。ここからもガンガン行きましょう!」(藤田・D)
「でも僕は、ツアー中盲腸になったんですけどね(苦笑)。脱落する事なくファイナルを迎えられました。最後まで見守っていただければと思います」(渡邉・B)
「昨年40周年の時に『40th FLOWERS』というアルバムを作ったんですが、そこから止まらないものがあって、渡邊さんが“曲ができて困っちゃうよ”と。だったら出そうということで、2年連続でアルバムをリリースしました。41周年という年も一度きりだし、ここまで来たら40だけじゃなくて、来年もずっとセレブレーションしようと思ってます」と、今の勢いを伝えるJILL。「新作は、不思議の国のアリスをモチーフにしてます。まだ見たことのない世界がいっぱいあるんだもん。そんな世界に皆さんをお連れしようと作った作品です」と、アルバムコンセプトを語り、ライブ中盤4曲では新作の世界観をギュッと表現。
「青い薔薇というのは、昔は不可能の象徴とされていたけれど、技術の進歩で青い薔薇が開発されてからは“不可能を可能にする”という花言葉に変わりました。自分はこれまで女性だからという軋轢や不自由を感じたことはなかったけど、まだまだ世の中は女性が物を言えないことも多い。男性も女性も頑張れる良い世界を作ろうと、そんな願いを込めた曲です」と紹介された「BLUE ROSES」。青いライトの中、スポットライトを浴びたJILLが歌を紡いでいく。バックの演奏も抑えた感じで、歌詞がよりフォーカスされて心に刺さる。
「HAPPY UNBIRTHDAY」はアルバムを象徴する一曲で、「不思議の国のアリス」に出てくる“なんでもない日、おめでとう”というフレーズにインスパイアされた内容とのこと。「365日が誰かの誕生日だし記念日。何かを始めた人がいたらその日が“始まりの日”かもしれない。ろうそくを吹き消すと願いが叶うような御伽話が好きで、虹の向こう、雲の向こうに何かがあると思ってる。そんな女の子でした」というJILLの語りに導かれ、ギターのアルペジオが響き出す。傍のサイドテーブルにはキャンドルの炎が揺れている。歌い終わったJILLはろうそくをフーッと吹き消し、かぶっていたキラキラ光る赤ラメハットを取って一礼。まるでミュージカルのワンシーンを見ているようだ。
続く「MOMENTS」は、古い映画館を舞台に描かれた歌詞が印象的なミディアムバラード。
「皆さんもいろんなことがあったと思います。この曲のスクリーンに映るのは、皆さんそれぞれの人生。誰のものでもなくて、自分が作っていくもの。人生の主人公、主役は皆さんです。私も41年間、瞬間瞬間を生きてきました。そんな気持ちで聴いてください」(JILL)
PERSONZの歌詞には、メッセージ性やストーリーを感じるものが多いが、特にこの曲は脳裏にビジュアルが浮かび、イマジネーションを喚起する。ライブでもバンドの音を必要最低限に抑え、歌・言葉を届けることに注力しているのではないか。CDよりもはるかに濃密な距離感の演奏に、目の前の相手から話しかけられているような感覚に陥る。
じっくり聴かせた後は、いよいよ後半戦。楽器チーム3人の軽やかなジャム演奏が始まり、藤田が手拍子で客に“立ち上がれ”と合図。JILLも参加して「東京タワーであいましょう」のサビフレーズ「ハロー、ハロー、東京」をひとしきり観客とコール&レスポンス。“東京”の部分を“有楽町”や“国際フォーラム”に変えつつ、声のやり取りで観客と呼吸を合わせていき、そのまま「東京タワーであいましょう」がスタート。JILLも観客も手を大きく左右に振り、手数の少ないフレーズでは藤田もすかさずドラムスティックを左右に振るなど、みんな積極的に楽しまなきゃ! とボディランゲージで表現する様も楽しい。
ソウルフルなアカペラで聴かせた「HALLELUJAH」は1990年の楽曲だが、歌詞のメッセージは驚くほど『WHAT A WONDER WONDERLAND』の世界観と一貫している。ファルセットやウィスパーで優しく伝える場面、力強く張って歌う場面のコントラストも息を呑むほど素晴らしい。短いアカペラの中にこれだけ多彩かつ凝縮した情感を詰め込めるとは。JILLの表現者としての力量に圧倒された1曲だった。
本編ラスト3曲ではライブバンドの本領発揮。グラムロック系の硬派なビートにワイルドなバンドサウンドが痛快な「MAYBE CRAZEE -I Love You-」では、JILLがフロアにしゃがみ込んで歌ったり、派手なドラムソロや華やかなギターソロが繰り出されたり。音が噛みついてくるような熱気はまるで地下室のライブハウス。その勢いのまま突入したタテノリ2ビート曲「CAN'T STOP THE LOVE」では、大きな地球儀バルーンを頭上に掲げて歌うJILL。小ぶりサイズの地球儀風船も客席に放たれ、あちらこちらでバルーントスの応酬が続く。
「いろんなことがある地球だけど、みんなでキャッチボールだよ。キャッチボールの後は皆さん腕を上げて、手拍子!」とJILLが叫ぶと、絶妙なタイミングで「I AM THE BEST」のイントロがスタート。NYパンクのキャッチーさとグラムロックの楽しさをミックスして21世紀の日本のロックバンドが仕上げるとこうなります!というアイデアを見事に具現化してみせたハッピーなナンバーで、聴くだけで自己肯定感も爆上がり。ましてやライブ会場一丸のハンドクラップに参加すれば、忘れられないハッピーな体験として記憶に刻まれること請け合いだ。続いて、ペンライトを手にJILLが「虹の向こうの曲だよ!」と叫んだのを合図に「7COLORS」がスタート。ステージはビビッドな照明でレインボーカラーに染まり、客席もファンの持つペンライトでカラフルに輝く。“クルクル回る子猫の瞳のように”という歌詞に合わせてJILLがクルクル回ってから猫耳ポーズをしてみせたり、思わず笑顔になってしまう瞬間も多々。演奏が終わるとJILLはラジカセ型のバルーンを最前列のファンにプレゼント。ハッピーな出来事が魔法のように次々と起こるライブである。
アンコールでは、メンバーが改めて今回のツアーを振り返った。
「非常に印象深いツアーでした。世界感をしっかり持ってるツアーだなと思っていて。毎回新しいアイデアが入ってきて変わっていって、同じライブは一度もなかった」と本田が語れば、「久しぶりに行った土地でも温かく迎えてくれて、記憶に残る素晴らしいツアーでした。来年はさらにいろんな土地、…47都道府県すべて回ろうと計画を立てております」と意欲を見せる渡邊。
「もう一曲新曲いくからね!」の言葉でスタートした「THAT'S MY TREASURE」は、新アルバムからの楽曲で、“新しい宝物を見つけに行こうよ”という歌詞もドライブ感あふれるタイトな演奏もPERSONZらしさ満載のナンバー。また「PERSONZが一番初めに地球儀を飛ばしたのがこの曲です。もう一度飛ばしていいでしょうか」と紹介されたのは、1stアルバム『PERSONZ』(1987年)に収録されていた初期の代表曲「Freedom World」。約40年間演奏してきた人気曲だけに、JILLもフェイクを多用するなど、4人ともこの曲はもはや身体の一部なのでは?というくらいのこなれ感。客席を大きな地球儀が飛び回る光景はこの日二度目。40年前に書かれた歌詞のピースフルなメッセージは、今もまったくブレていない。
「みんなはワンダーランドに迷い込んでるから、永遠のティーンエイジャーなんですよ。いつまでも夢見るドリーマーでいてください!」と紹介された「DREAMERS」では予想外のサプライズも飛び出した。ギターソロ後、リズム隊と手拍子をバックにサビのフレーズを観客と繰り返しコール&レスポンスしていたJILLが客席に降り、歌いながら通路をぐるりと一周したのだ。彼女が近くを通った時のファンもみんな輝くような笑顔で、誰もが「今日のライブに来て本当に良かった!」と心から感じていたに違いない。
「今、PERSONZは最高のコンディションだから、皆んなに会いにいきたいんです。夢はあきらめちゃだめ。バンドって演奏力じゃん。振る雨のように、いつまでもいつまでも歌いましょう」と紹介されたのは1989年のアルバム『DREAMERS ONLY』収録の「SINGIN' IN THE RAIN」。ライブでもたびたび演奏されてきた楽曲だが、JILLがさらりと口にした「バンドって演奏力じゃん」という一言の後に聴いたこの曲は、これまでとは違う印象と説得力をもって胸に迫った。特に“もっと強く もっと高く もっと深く もっと遠く、雨の中ひとり歌う”という歌詞。PERSONZは日本にバンドブームが起こった80〜90年代に一時代を築いたバンドだが、その後、再度ライブハウスのツアーを回った時期を経て、今は盤石にホールツアーを展開する実力派。“ライブハウスでもホールでも、良いパフォーマンスを続けていればきっとロックファンは観にきてくれる”という彼らの信念やリスナーへの信頼も感じられたし、つねにさらなる高みを目指して切磋琢磨してきた彼らの言葉だからこそ“夢はあきらめちゃだめ”というメッセージもリアリティをもって腑に落ちる。
オーラスはJ-ROCK史に残る名曲「DEAR FRIENDS」。サビでは会場中がひとつになってシンガロングになるし、ギターソロ前半ではJILLがピックを持って本田のギターを弾くという見せ場を作って沸かせる。観客を楽しませるサービス精神が詰まっているからこその名曲なのだ。キャッチーなメロディーといい隙のない構成といい文句の付けようのない名曲であることは間違いないが、ではこの曲を他のアーティストが演奏した時にここまで曲のポテンシャルを引き出せるかと言ったら難しいはずだ。曲の力だけではない。演奏の向上心なくしてバンド継続はあり得ないのだと改めて気づかされた気がする。
「来年は47都道府県をまわるツアーを予定していて、それだけの数を回ればバンドの演奏のスキルアップにもなるし頑張りたいと思います。皆さんくっ付いてきてください。行ったことのない土地、…沖縄も楽しみだなぁ(沖縄公演は2025年10月予定)」と今後のワクワクを語り、40年以上活動してきてもまだまだワンダーランドがたくさんある事を印象づけたJILL。観客へ伝えたいメッセージやテーマもじっくり表現しつつ、ロックバンドのライブらしいパッションやカタルシスも味わえる贅沢な2時間半だった。(取材・文:舟見佳子 / 写真:アンザイミキ)
商品情報

三味線JILL屋スペシャルエディションアルバム『ことぶき』
2025年12月上旬発売
全14曲収録
【収録曲】
さわぎ
RIVER
JILLTOPIA
びーはっぴい音頭
鬢のほつれ
DEAR FRIENDS
つくだ
GENERATOR
よさこいJILL屋
米洗い
TRUE LOVE
INORI
ENISHI
DREAMERS
※順不同
Live Info.
PERSONZ-2025【HELLO HELLO HELLO初沖縄であいましょう】
【日時】
2025年10月4日(土)開場16:30 / 開演17:00
2025年10月5日(日)開場16:30 / 開演17:00
【会場】テンブスホール
沖縄県那覇市牧志3丁目2番10号
てんぶす那覇4階
【料金】
S席:7,800円
A席:6,800円
高校生以下:1,000円
※全席指定
【問い合わせ】ピーエムエージェンシー 098-898-1331(平日11:00〜15:00)
PERSONZ × TOWER GALLERY PERSONZ EXHIBITION Ver.2
会期:2025年10月11(土)~10月26日(日)
時間:11:00~19:00
会場:TOWER GALLERY(東京都港区芝公園4-2-8 東京タワーフットタウン3F)
入場無料
主催:有限会社ゾイコーポレーション
協力:「東京タワーで、あいましょう。」計画
特別協力:株式会社TOKYO TOWER
CD発売記念 三味線JILL屋 ことぶき in 赤城神社
【日時】2025年11月24日(月・祝)
1回目 開場11:00 / 開演11:30
2回目 開場14:00 / 開演14:30
【料金】6,500円(税込)※全席指定
【会場】赤城神社参集殿(あかぎホール)
東京都新宿区赤城元町 1-10
《アクセス》東京メトロ東西線「神楽坂駅」出口1b 徒歩1分
都営大江戸線「牛込神楽坂駅」出口A3 徒歩8分
【問い合わせ】キャピタルヴィレッジ 03-3478-9999(平日12:00~17:00)
PERSONZ「Do you want to... RETURN TO WONDERLAND?2025」―The final time trip of 2025~To all 47 prefectures in 2026―
【日時】2025年12月30日(火)開場16:30 / 開演17:00
【会場】大手町三井ホール
東京都千代田区大手町1-2-1 Otemachi One 3F
《アクセス》大手町C4出口直結
【料金】8,500円、高校生以下1,000円(消費税込み)
※全席指定、別途1ドリンク
【一般発売】10月11日(土)
【主催】TOKYO FM
【問い合わせ】キャピタルヴィレッジ 03-3478-9999(平日12:00~17:00)