SAGOSAIDが5月にEP『itsumademo shinu noha kowai ?』をリリースし、6月からスタートしたリリースツアーのファイナルにして初のワンマンライブが9月7日(日)下北沢SHELTERで開催された。90年代のオルタナティブロック、インディーロックを想起させるサウンドや彼女のファッションなどから感じるノスタルジーが年代を問わず注目を集める中、今回のEPには今までと違う特別なものを感じた。誰にも理解されず死にたかった学生時代の痛みと、救いだったART-SCHOOLなどの音楽を聴いて自己形成されていった穢れのないピュアな部分が詰め込まれた宝箱のような特別感。これと同じものを持っている人はすぐ分かったはず。大人になっても消えないあの頃の痛みと、うまく隠して守り続けてきた綺麗な「本当の自分」。生きづらさを抱えた人たちへ向けられた痛くて優しい曲たちに導かれるように、大勢の人がこの日集まった。
SAGOSAIDのライブは常々海外のお客さんが多いうえに、ここ数年、SHELTERはアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響もあり毎晩のように当日券で入場する観光客が絶えず、この日も入り口の階段までびっしり埋め尽くされた場内は海外のライブハウスのような雰囲気だった。開演までの間、物販ブースに設置されたスクリーンにライブやMV撮影時のドキュメンタリー映像が流されていた。入場の列が中々途切れず、20分押しでライブがスタート。
先にサポートメンバーが登場し轟音を鳴らす中「Am I afraid of dying?」のイントロが始まると、SAGOが登場。センターに立つとSHELTERの看板の下に飾られた羽がちょうど彼女と重なり、カート・コバーンを思わせる演出とノスタルジックなバンドサウンドが、90年代の空気感を漂わせる。「Spring is cold」、「sukipi」、「Dead in GUSTO」など、最近はほとんど演奏されていなかった初期の曲も多く演奏された。いわゆるインディーな曲もサポートメンバーたちが鳴らす重厚なサウンドがダイナミックに聴かせる。さらに、SAGOのボーカルの成長と、最近まで患っていたというパニック障害を克服したこともあってか以前よりも堂々として見え、曲に集中して聴き入ることが出来た。中でも、「the shore,you」、「In REIMEI」の鉄のような冷たさと重厚な轟音が生み出す混沌とした世界観には圧倒された。
MCではSAGOが満員の場内を見渡し、「学生の頃は自分が好きな音楽を人に薦めてもいいって言ってもらえなかったから、自分でバンドやったら聴いてくれるかなって思って。だからこんなにたくさんの人が来てくれて嬉しい。ずっと『またSAGO、変な音楽聴いてるよ』って言われてたから」と涙ぐみながら話す姿に、今までどれだけ自分を押し込めて生きてきたんだろうと思った。先日のインタビューの際、今回のEPについて「Am I afraid of dying?」の<ねー言われたかった 「そのままがいさ」>という歌詞に尽きると思うのですが、と尋ねた時に大きく頷いた彼女の苦々しい表情が浮かぶ。「音楽をいいって言ってもらえると本当の自分を分かってもらえた気がして嬉しい」と語っていたように、まさに今目の前でこれだけ多くの人に受け入れられたことに感極まって涙する姿は感動的であり、少し羨ましくも感じた。「もう、早くやろう!」と照れ隠しのように、疾走感のある「Chinese Restaurant」、「iimmaaggee」で会場を沸かせた。
そして、この日のハイライト「dance / wings」。ワンマンの数日前に公開されたMVには映画『リリイ・シュシュのすべて』や『花とアリス』を思わせるシーンが登場し、岩井俊二が描く10代の病みや、SNSの匿名性に隠された「本当の自分」などに通じる世界観のある作品で、この曲がもつ痛みとピュアな美しさが混在する映像とリンクし、イントロが始まると切なさがこみ上げて胸が締め付けられた。逆光の照明でメンバーの表情が見えないことで匿名性が生まれ、歌詞が自分のことのように入ってくる。「そのままでいいんだよ」という優しいメッセージと壮大なバンドサウンドが未来の大きなスタジアムで演奏している姿を想像させ、感動的な余韻を残した。
アンコールではサポート・ギターのYusuke Shinma(VINCE;NT)が、「今日はART-SCHOOLがワンマンをやっているのに、SAGOSAIDを選んで来てくれてありがとうございます。長くサポートをやっているけど今が一番いいと思うので、たくさん観に来てください」と語っていたように、この日は恵比寿LIQUIDROOMでART-SCHOOLのワンマンが開催されていた。SAGOが死ぬほど辛かった学生時代に救われていたというART感のある今回のEPは、ARTの新譜と同時期のリリースだったり、「そのままがいいと言われたかった」と歌うSAGOにまるで応えるように「そのままでいいよ」と木下理樹が歌っていたりと、何かに導かれているようなリンクを多く感じた。
今回のEP、そしてこの日のワンマンが今後のSAGOSAIDにとってなにか大きな転機点のようなものになったはずだ。彼女が「変」なのではなく、ただ「いい」と言ってくれる人が近くにいなかっただけ。ずっと押し込めてきた、痛くて激しくて可愛い彼女の本当の部分を、これからもっともっと見せていってほしい。【Text:小野妙子 / Photo:keishi sawahira(@swhrkc)】
‟itsumademo shinu noha kowai ?” Release Tour Final
2025年9月7日(日)下北沢SHELTER
【SET LIST】
1. Am I afraid of dying?
2. Stay soft, touch my skin
3. Morning Boy
4. Spring is cold
5. sukipi
6. inside your eyes
7. Dead in GUSTO
8. Disease
9. Bad Night Vacation
10. Pastime
11. the shore, you
12. Brainstop
13. Long thinking
14. In REIMEI
15. Broken Song
16. Chinese Restaurant
17. iimmaaggee
18. dance / wings
en1. Moment26
en2. Spend many years
※画像をタップすると大きいサイズでご覧いただけます。