バンド初となるツアーで大阪・名古屋とライブを行ない、この日(2023年12月10日)の東京がツアーファイナルかつワンマン公演。幅広い世代が待ちわびる中、開演時刻を5分ほど過ぎて会場内が暗転。ギター&ボーカル・林龍佑が1人ステージに登場、アコースティックギターを手に「まちぼうけ」の弾き語りからスタート。バンド結成前は弾き語りで活動をしていたという林、弾き語りはこんな雰囲気なのかなと聴き入っているとベース・上遠野日向とドラム・岡野創太も静かに定位置に。その3人の姿に、いつもこんな風に音を鳴らし今日を迎えているのかな、と想像し微笑ましくなる。
1曲終えて“皆さん、fusenのワンマンへようこそ!”と林が挨拶、彼らの姿はアーティスト写真そのままだ。林はエレキギターに持ち替え3曲目「夕暮れ」へ、誰の目にも明らかな緊張した雰囲気は時と共に和んでいき、少しずつではあるが客席のほうも見渡しながら演奏を進める3人。“来てくれてありがとう”といった感謝だけを述べていた曲間のMCも少しずつ変化していき、彼らの地元・“栃木県足利市の景色が似合うね、ってお客さんから言われることがあります”と話してから「些細な事」の演奏は山や川、自分の田舎の風景を脳裏に思い浮かべながら耳にすることができた。印象的だったのは「僕等の日々」の前、“デビュー直後にコロナが来て、ライブもできない日々が続いた”…林はここで言葉を止めて岡野へ繋ぎ、岡野から上遠野へ。一言二言、コロナ禍で活動が思うようにできなかったことを言いつつ、改めて林が“これからだという時に、頭が真っ白になった”と語り、“僕等はどうして報われない”と歌う歌詞は林の感情も大きく乗って胸を揺さぶられる。と同時に、メンバー含め誰もが認める唯一無二なヴォーカル力も光る1曲で、この曲が生まれて良かったと思える時が彼らに来るような気がしている。
今回のツアータイトルにも模しているのが彼らの最新曲のタイトル「変わる、変わる。」だが、音源の方は幼少期にピアノを習っていたという上遠野が弾く鍵盤の音なども入ってノスタルジックな印象にも聴こえる1曲だ。ライブではそれこそスタート時に“いつも通り、毎度お馴染みこのメンバーでやります!”と自らを紹介した通りこの3人でできる演奏で届けるため音源とアレンジが違うのだが、ライブで聴かせるバンドアレンジもまたとても良かったし、ステージ中央で3人が顔を見合わせイントロの音を鳴らし始めた姿がとても清々しい。彼らの年齢がちょうど大学を卒業するタイミングで、この曲に寄せ“お別れが出てくることや家で家族といる風景がなくなったりして、これから大人になるんだなという思いと、こういうことの繰り返しで変わっていくんだ”といったことを語っていたが、1人の人間として転換点にいる彼らの今を素晴らしく表現したこの1曲をライブ終盤に見届け、心がじんわりとあたたかくなった。
アンコールの歓声と拍手に応え再びステージに戻った3人、最後の最後に林はこう言った。“来年(=2024年)の抱負を言ってもいいですか? 自由にやりたい…自由にやって、皆さんを楽しいことに巻き込めるfusenになるので、どうぞよろしくお願いします!”…コロナ禍という目には見えない呪縛から離れこれから自由に伸び伸びと音を鳴らしてくれ! とエールを送らんばかりに一番の大きな拍手に包まれてラストは「帰り道」。アンコールで2曲の演奏を終え、ステージ上で安堵の笑顔を見せる3人。そして最後の最後に“これ、やってみたかったんです…”と、お客さんも一緒にステージから記念撮影してから拍手に見送られステージを後にした。“お疲れ様!”と楽屋を訪問するや開口一番“長かった〜!”とは言うものの、笑みがこぼれ充実し満たされている表情に見受けられた。メンバー各々・バンドとしての反省があるライブだったであろうというのは多くのお客さんも感じているだろうが、その上で。見ている側としては今・現在のfusenのライブに見て触れることができて本当に良かった、という気持ちで溢れている。
最後に余談になるだろうが、2023年末は新宿ロフトを会場で『年末大感謝祭』と銘打った2日間が開催され、総勢30組を超えるラインナップにfusenも出演者として名を連ねた。自分たちの出演日でない日も顔を出して各バンドのライブに見入っているのがとても印象的だったし、打ち上げの場では共演者たちと打ち解け話をしている姿を見て、今年はまた新しい対バンでのライブが期待できるなと感じている。と同時に、昨年は何度も出演してきた新宿ロフトのステージで見せるライブもひとつステップアップを感じさせるものになるだろうと確信している。2024年のfusenのあゆみ、とても楽しみだ。(Text:高橋ちえ)
fusen『変わる、変わる。』TOUR FINAL セットリスト
01. まちぼうけ
02. 扉絵
03. 夕暮れ
04. 些細な事
05. ミナヅキ
06. 夜更かし
07. 生きよう
08. 両想い
09. 星の名前
10. 冬の泣き虫
11. 僕等の日々
12. ブラフ
13. 隙間
14. 変わる、変わる。
15. また会いましょう
─encore─
01. 目を背けないように
02. 帰り道